7.輿入れ(こしいれ)
「これから喰い殺されるのだから、僕に一度くらい抱かれておいたら良かったのにね。どうだい? 今でも後悔しているんだろう?」
レッドドラゴン。ブラッドフォード・ヴァンドーム様へ、表面的には輿入をするために馬車に乗り込もうとした時も、レナード様は私を嘲弄するような口ぶりで辱めようとされる。
昨日の傷が治っていない腹いせなのか、その口調はいつもより辛辣だった。
同時に、それを言わせているのは隣のイヴリンだということも分かっている。
私が手の届かない番に懸想し、もしかしたら愛されるのではないかと期待にすがるのを見て楽しもうとしているのだ。
まだ生きたいし、愛されたいという気持ちがあることも本当である。
でも、自分を蔑み、尊厳を踏みにじられるのも最後だと思うと、何とか否定することが出来た。
「い、いいえ。あなたの愛なんて欲しくありません!」」
「はーっはっはっは! やせ我慢か! ま、喰い殺される方を選ぶとは物好きなものだね。ククク、僕に抱かれる値打ちも無い女だ。貴重な初物として、しっかり生贄としての役割でも果たすがいい」
「でも大丈夫かしらね。お姉様のような醜猥な女を送りつけて。余りに臭うと言われて侯爵家として罰を受けるのではないかしら?」
私はその言葉に恥じ入るしかありません。結局、3日間浮浪者のような生活を罰として強いられた後、湯浴みもさせてもらえていないのですから。
「ふむ、だが王からは1日でも出来るだけ早く輿入れをするように、とのことであったから、湯浴みをしている時間などない。嫁入り道具すら不要とのことだったからな。ともかく急げとのことだった。まぁ、シンシアが選ばれた理由は、恐らくいなくなってもいい不要な貴族令嬢だからであろう」
お父様が私の存在を一切否定する言葉を放つ。
「いーい? お姉様、勘違いなされないでね」
昨日、番を傷つけられたイヴリンは、恨みがましい目と、同時に、これから私に起こる悲劇に喜色を浮かべるという複雑な表情で、唇を歪めながら言った。
「お姉様が愛されることなんて絶対にないんだからね。あなたはずっと独りなの。誰にも好きになってなんてもらえない、醜悪で、臭くて醜い、股のゆるい売女なのよ。この侯爵家は私がいれば大丈夫、お姉様の居場所なんて元からなかったんだから。だから、心配しないでドラゴンの餌食になってきてね」
本当にこれが半分は血のつながった妹なのだろうか?
これでもかというほどの罵詈雑言を投げかけられて、もともと萎んでいた心が、更に委縮する。
でもいいのだ。
私はこの世界の頂点。レッドドラゴン。赤龍王への供物なのだから。
(愛されるなんて思っていない)
でも、せめて、その偉大な方の一部にはなることはできる。
それで十分ではないだろうか?
塵のような私の人生で、唯一救われる出来事のような気がした。
だから私は馬車が走り出した時も、家族に向かってこう言ったのである。
「この世界は私の居場所ではなかった。私はドラゴンに喰い殺されるのがとても楽しみよ」
こうして、私は16年育った侯爵家の屋敷を後にしたのだった。
持ってきたものは、母の形見のドレス一着だけのみすぼらしいものだった。
(赤龍王が食べるのを厭わないと良いのだけど)
せめて食べられる前に湯浴みくらいはさせてくれるだろう。喰う前に奇麗に食材を洗うのは料理の基本だから。
そんなことを思いながら私はブラッドフォード・ヴァンドーム様のお屋敷へと向かったのでした。
そこで何が待ち受けているかも知らずに。
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