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失恋令嬢はハーレム王から愛される  作者: 凛蓮月
結婚する前のこと。
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酔いからさめて

 

「ん……」


 ズキズキと痛むこめかみを押えながら、ゆっくりと身体を起こした。


「ここ……は…」


 見知らぬ男性と一緒に沢山果実酒を飲んでいたのは分かる。

 けどなぜここにいるのか私は理解ができなかった。

 思い出そうとして身動ぎすると、左手が温かな何かに触れた。


「………ひっ!」


 すやすやと寝息をたてるのは見知らぬ男性。

 ……この人と確かに一緒に飲んでいたのを思い出す。

 サラサラの艶のある黒髪が額から流れ、どきりとした。


 何となくだけど、この人、この国の人じゃない気がした。


『異国の王が来てるらしいわ』


 イベリナお姉様の言葉が不意に頭の中で響いた。


 まさか。

 まさかと思うけど私───

 と思ったけど着衣に乱れは無いし身体も何とも無い。

 そういうコトが無かった事に安心したけど、何だか泣けてきた。


「こんなとこまで来て何やってんのよあたし……」


 前後不覚になるくらい飲んで。

 起きたら見知らぬ男性の隣で寝てたなんてもう醜聞以外の何物でも無い。

 優しくしてくれたステラ叔母様やイベリナお姉様に迷惑かけちゃう……。


 グスグスしていると、力強い腕に引っ張られた。


「起きたのか」


 その人は寝ぼけているのか、後ろから抱き締めてきた。


「ちょ、離して!!」


 すぐにでもその腕の中から抜け出したかったけど、もがく度抱き締める力が強くなる。


「なんだ、元気だな。……ホント、猫みてぇ」


 くすくす笑う度首筋に温かな息がかかる。

 くすぐったいからやめて欲しいんだけど!!


「ちょ、喋らないで、息しないで!止めて!!」

「はぁ?お前俺に死ねって言ってんの?」

「ぎゃっ!違うわよ!首筋が気持ち悪いのよ!お願いだから離れて!」

「ハァ……ほんとお前……」


 やれやれと言って男性は身体を起こした。


「もう泣いてねぇな」

「元々泣いてないわよ」

「可愛くねぇ女」


 そう言いながらも頭を優しくぽんぽんする。


 今それはやめて欲しい。

 失恋したての私に響く。


「はぁーあ、変な女に引っ掛かったわ。今更他の女に行けねぇし、引き上げっかな」


 ベッドから降りようとするその男性の服を、後ろ手に引っ張った。

 顔を背けたまま


「……ありがとう。話、聞いてくれて」


 散々絡んで話をいっぱいした記憶が甦る。

 泣きながらどーでもいい話もした気がする。

 思い出したらどこかの穴に入り込みたい気持ちになった。

 それに酔っ払った私をここに寝かせてくれたのもこの人なんだろう。


「……お前何なの……ほんと………」


 言われたそばから身体を引き上げられる。


「ちょっ、」

「気に入ったわ。お前俺の嫁になれよ」


 後ろから抱き締められて耳元で囁く。

 てゆうか、何て!?


「お前みたいな女初めて見たわ。俺の国に来いよ」


 私たち、初対面ですよねー!?


「む、無理です。嫌です。私は修道院に行くんです!」

「修道院?勿体無ぇって。俺の嫁になれ。決定事項だ」


 だめだ!この人話が通じない!

 何なの俺様なの?王様だったわ!


「いきなり無理です。お断りします!」


 強引すぎて頭の中混乱して、つい口調が強くなってしまった。

 すると、男性の腕が緩みするすると離れて行く。


「はー、何なのこの国の奴、二人も俺を振るとか……」

「二人……?」


 私の他に既に口説いた女性がいたって事?

 もしかしてその人に振られたから次に、って私に……?


 けど、その人物は意外な人だった。


「レアンドル・クレールって知ってる?黒髪に碧眼、厳つい顔で身体でかいの。たまに王太子の側にいる男」


 ひゅっと喉が鳴る。

 知ってるどころじゃない。

 アランのお兄さんで、あの子の婚約者じゃないの!!


「そ、その方を、どうして……」


 動揺を悟られないように聞くと、男はにやりと笑った。


「アレは王者だ。一瞥するだけで周りを圧倒する。ハッタリにちょうどいいんだよ。

 国に連れて帰りたいと王太子に交渉しても笑顔で断られた。あいつも手放したくないんだろう。

 アレに野心があれば王位簒奪も狙えるが、それが全く無いから王太子も敵とみなしてない。

 懐に入れるなら最強だ」


 まさかの。

 えっ、そんなすごい人なの?

 え、アランのお兄さんよね??

 そして婚約者であるあの子の前ではデレッデレしてる、あの方よ、……ね…?


 アランの話では結婚したら領地に住むって話だったけど……。


「アレがいれば周りの奴らとか一瞬で黙らせられるんだがなぁ…。もっかい交渉して……」

「だ、ダメ!!その人は、絶対……だめ……」


 私は目の前の男の腕を思わず掴んだ。

 もしその人だけを異国に連れて行くならあの子が悲しむ。

 いや、あの子なら着いて行きそうだけど!


 そしたら

 アランが、悲しむ……。


 だから、この人にはアランのお兄さんは諦めて貰わなきゃいけない。


「私が……行く。……その方の代わりには全然ならないけど……。だから、その方は、やめて欲しい」


 もう、あの子を悲しませたらダメだ。

 私なんて、アランのお兄さんに比べたら天と地の差があるけど。


「……そいつが、お前の…」

「え?」


 ぼそっと呟いた言葉がよく聞き取れなくて聞き返したけど、気まずそうに目をそらされた。


「ま、いーや。お前が嫁になるならレアンドル・クレールは諦めるよ。

 よし、そうと決まれば早速お前の親に挨拶に行くか」


 男は今度こそ立ち上がって身なりを整えだした。


「ほら、行くぞ」


 手を差し出されたのでその手に重ねた。


「そういやお前、名前何てんだ?俺はベルンハルト」


 今、気付いた。

 何も無かったとは言えさっきまで一緒に寝てて、嫁になれと言われたのにお互い名前も知らなかった。


「……ミアよ」

「ミア?……なんだよ、ほんとに猫みてぇだな」


 ぶはっと笑ったその顔が眩しくて。

 私の胸の奥に微かに光が宿った気がした。


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