表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
失恋令嬢はハーレム王から愛される  作者: 凛蓮月
筆頭夫人になる事。
47/53

過去との訣別

 

 筆頭夫人になってから約三年が経過した頃、イーディス王国の王太子殿下がようやく婚約者を決めたという事で、そのお披露目の為の夜会の招待状が海を超えたハーブルムまで届いた。


「王太子殿下に婚約者はいらっしゃらなかったのね」


 幼い頃から高位貴族に婚約者がいるのは普通な感覚だったから意外だった。

 何か理由でもあるのかな?


「子どもたちも連れて、ついでに視察もしようかしらね。日程は空くかしら?」


「調整致しましょう」


 ルトフィは四歳になった。

 最近はザイード様に遊んでもらうのが楽しいみたい。

 ルトフィの弟で、二歳のハイルはイヤイヤ期真っ盛りで乳母泣かせだ。

 三兄弟、仲良しではあるけれど、ベルンハルトは女の子が欲しいらしく次を望まれている。



 そうしてやって来た久しぶりの母国。

 港に着いた瞬間から手厚い歓迎を受けた。


「お待ちしておりました、ハーブルム国王並びに筆頭夫人様」


 三年経過して。

 ハーレムの実情は変わっている。

 ベルンハルトは解散する方向で進めているけれど、中々大臣たちからの承認を得られないでいる。やはり侍らせる女性が多い程箔が付くとかなんとかで、未だにベルンハルトに娘を紹介しようとする人もいるくらい。

 ただ、傍系王家の数が増え過ぎて財政を圧迫しかねない事などを訴えて少しずつ変わりつつあるのだけれど。


 ちなみに夫人たちはと言うと。


 ザラ様は実質ハーレムから抜けて離宮で過ごしている。ザイード様は普段は離宮で過ごし、本殿と行き来している。


 フラヴィア様はファルークさんに請われ、ようやく最近頷き、近々ハーレムを抜ける予定だ。

 子どもが流れた事で妊娠しにくい身体になった事がネックだったみたいだけど、ファルークさんはそれでもフラヴィア様が良いと月影旅団を辞めてまでフラヴィア様を説得していた。

 勿論ベルンハルトの許可を貰って。

 将来はこの二人の戯曲なんかできるかもしれないなぁ。


 ミリアナ姉様は甥っ子大好きで、ルトフィやハイルを可愛がってくれてる。ザイード様も蔑ろにはしない。

 私としてはミリアナ姉様にはずっといてほしいけど、ミリアナ姉様の幸せも応援したい。


「一途でちょっと情けなくて可愛いオトコノコがいたらね〜」


 なんて軽く言ってるけど、そんな男ミリアナ姉様には勿体無いわ。

 でも面倒見良いミリアナ姉様には、グイグイ引っ張れる男性の方がいいのかなぁ?



 そんな感じで、私が「ハーレムの筆頭夫人よ!」と胸を張れるのは少しの間。

 せめてイーディスに凱旋したからには虚勢くらい張りたい。



「王太子殿下、婚約おめでとうございます」


「やあ、ハーブルムの国王並びに筆頭夫人。この度はありがとう。ようやく私も幸せにありつけそうだよ」


 そう言って隣にいる婚約者様に微笑む殿下の表情は、ベルンハルトみたいに蕩けていた。

 婚約者様は戸惑いつつも、王太子殿下に笑顔を向ける。

 仲良き事は良きかな良きかな。



 ベルンハルトと挨拶回りをしていると、──私の心臓が一際跳ねた。

 いるだろう、と思っていたその子。もう立派な貴族夫人か。

 体格のいい夫の腕に手を添え、一際輝いて見える。夫からの優しい目線に目を細め、幸せそうにはにかむ。


 ああ、良かった。今は笑えているんだ。


 私が壊してしまった彼女の婚約。

 未だ謝罪もできていないのが心残りだけど。


 と感傷に浸っていたら、ベルンハルトがその子の方に歩き出した。


「久しいな、レアンドル・クレール」


「あなたは……」


 いきなりの事にぎょっとしてしまう。

 えっ、お知り合い?この方を呼び捨てにしたわよ?


「以前、お前が言っていた意味が理解できた。

『大勢より、婚約者から愛されたい。ただ一人だけが欲しい。他の女性などいらない』

 まさにその通りだな」


 言うなり私の腰を引き寄せる。

 するとクレール侯爵様は目を細め、「ああ」と笑った。


「良いものでしょう、愛する女性から愛される喜びは何ものにも代え難い宝物です」


 クレール侯爵様は愛おしげに妻を見、その手に口付けると奥様は顔を赤らめた。

 結婚して五年はゆうに経つはずなのに、未だに初々しいなぁ。


「よく分かるぞ。ああ、紹介しよう。私の唯一であるミアだ」


「ミアでございます。よろしくお願い申し上げます」


 知ってるけれど、挨拶は大事。私はハーブルムの代表として来てるのだし。


「レアンドル・クレールと申します。イーディス国王より侯爵位を賜っております。こちらは妻のリアです」


「リア・クレールと申します。よろしくお願い申し上げますわ」


 夫婦揃って頭を下げられるけど、恐縮してしまうからすぐに上げてもらった。


「リア……様、私……あの時の事、ごめんなさい」


 今度は私が頭を下げた。

 謝罪をしたかった。ずっと、あの時の事を。けれど、リア様はにこやかに頭を振った。


「頭を上げて下さい。

 ……過去の事は良いのです。私は今、夫に出逢えて幸せです。きっと、必要な通過点だったのですわ」


「リア様……」


「ミア様もお幸せそうで何よりです。

 私たちが幸せになる事であの方々を見返してやるのですわ」


 あの時は俯いてばかりだったリア様は、堂々としている。愛されて自信がついたのだろう。

 もう泣いていたあの子の面影はどこにも無い。



 そう思うと、何だか胸のつかえが取れた気がした。


 ベルンハルトと一緒にダンスを踊り、休憩しようとソファへ向かうと、壁際に懐かしい顔を見付けた。


 眩しそうに遠くを見、やがて俯いた。


 久しぶりに見ても、やっぱりカッコイイな。

 大人になった分、垢抜けた。でも表情は暗い。


 私の好きだった貴方はもっと自信に満ちていたわ。だから私は発破をかける事にした。


「あら、誰かと思えばアラン様」


 俯けていた顔を上げると、彼は目を見開いた。


「何だか前と比べてカッコよく無くなっちゃったわね。……ガッカリだわ」


 なんて顔をしてるのよ。


「私の好きだったアラン様は、俺様で自信家で色気があって野心家で……。

 そんなシケた顔じゃ無かったわ」


 未だにあの子が好きなんだろうな。クレール侯爵夫妻を目で追うように見ていたし。

 そんな姿にやきもきしていると、ベルンハルトが私に耳打ちして来た。


『ミア、俺を無視するんじゃないぞ。帰ったらお仕置きだからな』


『あ、ごめんね。貴方を無視した訳じゃないのよ?……えっ、お仕置きだなんて、まだ時間は……』


 ハーブルム原語だからアランは何て言ってるか分からないというように困惑している。

 その間ベルンハルトは私の腰に手を回し、ベタベタとくっついて来た。


「こちらは私の夫よ。ハーブルムの王ベルンハルト。私は彼のハーレムの筆頭夫人なの。

 だから王太子殿下のお祝いに一緒に来たのよ」


 アランはハッとしてベルンハルトに挨拶した。

 異国の作法は分からないみたいだけど、ベルンハルトは気にしてない。けど、ちょっと不機嫌ぽい?


「噂はアテにならないもんだな。……幸せそうで何よりだ」


 その言葉に私はニッコリ微笑んだ。


「彼が嗜虐趣味って?本当、当てにならないわよね。

 私は幸せよ。私の幸せは私が自分で掴んだの。

 アラン様は?まだあの方が好きなの?」


 その言葉にアランの表情は強張った。

 やっぱり想いは残ってるんだ。まあ、自分のお兄さんと結婚したわけで、親戚付き合いもあるから頻繁に顔を合わせると中々忘れられないよね……。


「いつまで自分に酔ってるつもり?

 さっさと吹っ切って次に行きなさいよ。

 ………バカなんだから」


 本当に、バカなんだから……。


「あなたが手を伸ばす方向を変えれば、誰かが手を取ってくれるわよ、きっと。……多分、おそらく」


 アランは顔だけはいいからね。

 見た目でナントカ行けるんじゃないかな。


「なり振り構わず、我武者羅に頑張りなさいな。その方がずっと素敵よ」


 たまには本気になってみればいいのよ。誰かを使うんじゃなくて、自分の力で、掴みなさいよ。そんなメッセージを込めた。


「……ミア、ちょっと来い」


「えっ」


 ベルンハルトはいきなり私を横抱きにすると、休憩室の方へ連れて行く。

 ソファにどさりと降ろすと、噛み付くような口付けをして来た。


 それからぎゅっと抱き締める。


「ミアは、まだあいつが好きなのか?」


 自信無さ気なベルンハルトの声。

 もしかして、妬いてくれたのかな。


「もうふっきれてるよ」


「だが、あんなアドバイスしなくても……」


 拗ねたベルンハルトが可愛くて、思わず吹き出してしまった。


「以前好きだった人が、カッコよく無くなってたらガッカリするでしょう?だからちょっと発破かけたの」


「それだけか?」


「私が今愛しているのはベルンハルトだけだよ」


 今度は私から口付ける。

 何度も何度も。


「ベルンハルト、ここじゃ……」


「宿に戻る」


 押し倒されそうなのをなんとか抑え、王太子殿下に挨拶をして私たちは慌ただしく夜会をあとにした。




 その後イーディスで視察がてら観光して、いざ、ハーブルムに帰国する船が出航する。


 船が沖合に出てしばらくしてから、私はベルンハルトと一緒に船首に来ていた。



 手に持っているのはアランから貰ったイヤリング。

 ずっと持っていたけれど。


 私はそれを海に投げ入れた。


「いいのか?思い出の品なんだろう?」


「うん、……でも、もういいの。過去は振り返らない。私は前だけを見て行く」


 リア様に会えて、アランに会えて、私の中の初恋はようやく終わりを告げた。

 もう、未練は無い。



「私はこれからハーブルムで生きて行く。あなたの隣で、ずっとね」


「ああ。……ずっと、離さないから覚悟しておけ」



 そうして、私達は口付けしあった。


「あっ、お母様とお父様、いちゃいちゃしてる!」

「ちゃー!」


 甘い時間はすぐに息子たちにお邪魔されてしまったけれど。


「ルトフィもハイルもおいで。みんなでいちゃいちゃしましょう」



 私はみんなを抱き締めた。


 私の大切な人たち。



「愛しているわ」



 これからも、私はハーブルムで幸せになると決意したのだった。




長きに渡りお読み頂きありがとうございます。

このお話にて、本編完結となります。


もう少し簡素に短編か中編くらいの予定があれよあれよと長編になりました(汗)

これでもまだ書き足りない部分があり、構成力不足を痛感しております。

しかしながら、ここまでお付き合い頂き感謝致します。本当にありがとうございます!


物語はもう少し続きまして、番外編を投稿致します。

主人公は交代してミリアナ姉様になります。

お相手は……あの方。

よろしければこちらもお付き合い頂けると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ