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失恋令嬢はハーレム王から愛される  作者: 凛蓮月
筆頭夫人になる事。
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筆頭夫人ミア・ハーブルム

 

 それからの一年は怒涛の勢いだった。

 産褥期は順調で、二ヶ月目くらいから体調を見ながら勉強とマナー教育が始まった。


 ルトフィは普段は乳母に預けて、休憩時間に触れ合うくらい。お乳をよく飲んでよく眠ってくれるらしく、乳母の手をあまり煩わせる事無くすくすくと成長していった。

 でも時折泣きやまない事があって、そんな時は私が抱っこするとピタリと泣き止む。


「お母様が分かってらっしゃるのですね」


 乳母からにこやかに言われると照れくさいけれど、何だか誇らしげになる。

 やだ……。うちの子天才かもしれないわ。


 それからは抱っこしながら勉強したり、一緒の部屋で過ごしたり。


 私はこうして手伝ってくれる人たちがいるから楽だけど、平民の母親たちは仕事しながら自分たちで面倒見てるんだなあ、と思うと頭が上がらない。

 子どもを預ってくれる場所があればいいのに、と思った。

 ……無ければ作ればいいのよ。

 筆頭夫人になったら真っ先に提案してみよう。



 そんなこんなで私の叙任式。


「ミア・ハーブルムを筆頭夫人として認める。議会、傍系王家筆頭ハリード、国王ベルンハルト・カリム・ハーブルムが認めるものである」


 筆頭夫人となる誓いが書かれた書類に署名をする。

 これで形式上、私はベルンハルトの筆頭夫人となった。

 意外にもアッサリしてるのね。


 叙任式は短い時間で終わった。その後はお披露目のパーティー。


 ベルンハルトのエスコートで入場すると、盛大な拍手で迎えられた。

 私は右足を後ろにして膝を折り、ドレスを摘んで礼をする。


『常に笑顔を忘れずに』


 その言葉通り、微笑みを忘れない。


 ベルンハルトが手を挙げると、拍手がおさまった。


「叙任式を終え、筆頭夫人となったミアだ。

 これから私と共にハーブルムを支える母となる。

 私共々、まだ未熟は承知。

 皆にはこれからも支えとなって欲しい。

 よろしく頼む」


 ベルンハルトの言葉のあと、私も続く。


「此度、筆頭夫人となりました、ミアと申します。これから陛下と共にこのハーブルムを支えて参ります。

 ふつつか者ではございますが、よろしくお願い申し上げます」


 最後に二人で腰を折ると、先程より大きな拍手が鳴り響いた。思わず目頭が熱くなる。


 頭を上げ、ベルンハルトを見ると目が合って。それから二人で微笑みあった。

 不安はあったけれど、認められたようでホッとした。



 叙任式を終えると部屋がベルンハルトの部屋の隣になった。造りも広くなったし部屋の中の扉も浴室、衣裳室、続き間、夫妻の寝室というように増えた。

 あとは専属の侍女が増えた。今までは交代で来てくれてたけれど、筆頭夫人となるとそうはいかない。ザラ様やミリアナ姉様には実家から連れて来た専属の侍女がいる。ミリアナ姉様の義妹になった時私にも、と言われたけれど特に不便は無かったから断った。

 けど筆頭夫人ともなれば実家からの侍女も付けたいと言う義父からの要望で一人私付きになった。

 仲良くなれたらいいな。




 そうして慌ただしく日々は過ぎ、二度目の結婚式。まだ暗いうちに起こされ、王都内の大聖堂に移動する。


 聖堂内の浴場で丹念に磨かれ、香油を塗られていく。終わった頃には朝になっていた。

 それからドレスに着替える。この日の為に準備したドレスは身体にピッタリして裾が長いもの。ベルンハルトが私に似合うと特注してくれた。腰の辺りから薔薇を模した飾りが裾にかけて施されている。前にスリットが入っているので歩きにくい事は無さそう。


「ミア、きれいよ……」


 控室で時間まで待機していると、ミリアナ姉様が瞳に涙をためている。同じ夫を持つ夫人から褒められるのって変な感じだなあ。


「ありがとうございます」


 でも素直に嬉しい。ミリアナ姉様とはこれからもいい関係でいたいな。


 それからイーディスから両親と弟、ステラ叔母さま夫婦とイベリナ姉様と娘達がやって来た。


「ミア夫人、おめでとうございます」


「や、やだ、みんな、畏まらないで。今まで通りに接してよ」


 イーディスの子爵家と伯爵家のみんなは私より身分が低くなる。国を離れてたった三年くらいなのに、なんだか遠くに行ってしまったみたいで胸がぎゅっとなった。


「ミア……、いい顔になったわ。もう立派な淑女よ」


「まさか国を出たミアが王妃になるとはなぁ」


「素敵よ、ミア」


「姉様がこんなに化けるなんて誰が想像したんだろ」


「みんな……」


 身分的には差ができたけれど、でも私を育ててくれた人たち。

 嬉しくて思わず涙が出そうになるけれど、必死に溢れないように目尻で止める。


「聖堂で見守っているよ。……おめでとう、ミア」


 そうしてイーディスの家族たちは控室から退室する。

 それと入れ違いになるようにして、ベルンハルトが入室した。


「ミア……。よく似合っている」


「ベルンハルト……。私……」


「ミア、幸せにする。筆頭夫人となって大変だろうが、側で支えるから」


「……うん。私も、貴方を側で支えるわ」


 愛しい人。大好きな人。

 出逢ってからまだ約三年しか経っていないけれど誰よりも愛する人になった。


 彼の腕に手を添えて聖堂に向かう。

 前回は案内人の方のエスコートだったけれど、今日は最初からベルンハルトと一緒に入場する。



「二人に愛の女神、ウルカの祝福を」


 最初と同じく、ベルンハルトは神官から、額、頬、胸、手の甲に聖水を振られた。

 続いて女神ウルカの祝福を受けたベルンハルトから私に同じく、額、頬、胸、手の甲に聖水を振るのだけど。


 なんとベルンハルトは聖水で唇を濡らしたかと思うと、そのまま一回目と同じ事を繰り返したのだ。

 つまり、額、頬、胸、手の甲に口付けてきた。


 ハーブルムの歴史とか習った今なら分かる。

 これは実は異例中の異例。普通は夫から妻に神官と同じように振りかけるのだ。


 だからか周りからどよめきが起こる。


 イタズラが成功したみたいな顔してるけど、覚えてなさいよ……っ!


「ここに新たな夫婦が誕生致しました事を証明致します。ではお二人、誓いの口付けを」


 まだ心臓バクバクな私はベルンハルトを睨んでやるけれど。それすらも愛おしいと言わんばかりに見つめられたら文句も言えない。

 ええい、ままよ、と目をつぶると、ベルンハルトの唇が重なった。そして案の定、それは深くなって。

 離れた時には息も絶え絶えになってしまった。


 こうして再び翻弄された結婚式を終え、パレードをしながら宮殿に向かう。


 沿道に詰めかけた民たちから盛大な祝福を受けながら手を振った。

 その中にはいつか孤児院で会った子どもたちの姿もあって、いたずらっ子のルナスやサハルはびっくりした顔をしていた。

 ちょっと顔付きがお兄さんぽくなったかな?

 また行きたいな。


 それから宮殿に到着して、ベルンハルトのエスコートで建物内へ入る。

 今度は披露パーティーだ。

 各国の代表たちと挨拶を交していくのだけど……、表情がどうしても引きつってしまうわ。


 イーディスの王太子殿下にもご挨拶をした。


「ハーブルム王、並びに夫人、この度は誠におめでとうございます」


「イーディス国王太子殿下、ありがとうございます」


「お二人を見てたらイーディスの社交界に流れている噂は撤回せねばなりませんね」


 噂?何の事かな?とベルンハルトを見やると。


「ハーブルム王は嗜虐趣味で有名で、ハーレムの女性も曲者揃いらしいぞ」


「まあ」


「申し訳ございません。しっかりと払拭して参ります」

「お、お顔を上げてください。でも、新王は一途で優しい王だと広めて頂ければ嬉しいですわ」


「承りました。しっかりと広めていきます」


 よし、と自分の中で満足していると、ベルンハルトは優しい顔をして私にも微笑みかけていた。



 それから。


「ミア、おめでとう」


「……っメイラ!……と、お腹……」


 次に私たちに挨拶に来てくれたのは、ヴェーダ国王夫妻だった。


「二人目なのよ」


「わあ…、おめでとう」


 照れ臭そうにお腹に手をあてるメイラと、相変わらず側から離れない国王。

 あれから手紙のやり取りはあったけれど、こうして直接来てくれた事が嬉しい。


「ヴェーダ国はミア夫人を支援していきますわ。ケンカしたらいつでもいらっしゃいね」


 メイラにウインクされ、ベルンハルトは苦笑いしている。


「ケンカしても、すぐ仲直りするから大丈夫だ」


 こっそり耳打ちされた。




 パーティーを中座して、クタクタになって寝室に引き上げた。

 ドレスを脱ぎ去り、訪れた解放感に身を委ねる。


 筆頭夫人としての結婚式。


 色んな方からお祝いを頂いた。

 イーディスでは子爵令嬢だった私が、ハーブルムでは筆頭夫人になるなんて不思議。

 あれからたった三年くらいしか経っていないのに怒涛の勢いで過ぎた日々を思う。


 色々、あった。

 楽しい事、苦しい事、本当に、たくさん。


 これからも、色々あるよね、きっと。

 なるべく楽しい事、嬉しい事になるようにしていきたいな。



「ミア、どうした」


「色々あったなぁ、って思い返してたの」


 二人の寝室のベッドに横になっていると、ベルンハルトがやって来た。

 私の隣に身体を横たえ、左手は私の頬を撫でる。


「久しぶりに両親や叔母さまたちに会ったり、イーディスの王太子殿下からお祝い頂いたり。……孤児院の子たちびっくりしてたなぁ」


 話していると、少しだけ眠気がやってきた。

 ベルンハルトが私の頭を撫でるから余計に。


「メイラも……二人目、だし……」


「…ミアも二人目つくるか?」


「う、ん……」


 ベルンハルトの声が遠くに聞こえる。

 ああ、もうまぶたが重たくて開かないや。


「……お前は相変わらずだな」


「ふにゅ……」


 クスクス笑いながらベルンハルトは私の鼻を摘んで、腕の中に閉じ込めた。


 私はその温もりに幸せを感じながら微睡みに落ちていったのだった。



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