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失恋令嬢はハーレム王から愛される  作者: 凛蓮月
筆頭夫人になる事。
38/53

懐妊の知らせ

 

 ──ぽちゃん。


 水音がして振り返る。


『───!』


 えっ、なあに?


『───!』


 あなたはだあれ?


『会えるから、大丈夫だよ』


 会える?って、誰に会うの?


 その声は小さな光の玉から、やがて人の形を取った。

 黒髪に金の眼の男の子。

 私の手を取って、眩しい光の中へ連れて行く。


「待って、あなたは誰なの?ねぇ!」


 目も眩む程の光に飛び込んだ瞬間、男の子の姿はどこにも無くて。


「ミア!起きたか!」


 心配そうな顔をしたベルンハルトが目に映った。


 ホッと息を吐き、私の額にかかった髪を避ける。


「ハリードからお前が倒れたと聞いて来たんだ。気分はどうだ?」


「倒れた……」


「ああ。倒れる瞬間ハリードが支えてくれたようで、どこも打ったりはしてないが念の為診察もしてもらったぞ」


 心配しながら、でもどこかウズウズしているようなベルンハルトを不思議に思いながら、ぼんやりと見ていた。


「そしたらな、ミア、子ができていると言っていたぞ」


 子?


 誰の?

 えっ、誰と、誰の子?


「誰に、子が?」


「ミアに決まっているだろう」


 ぶはっ、とベルンハルトは笑いだした。

 私は目を瞬かせ、暫く声が出なかった。けど。


「えーーーーっ!?えっ、エッ?え……」


 子?子ども?えっ、ベルンハルトと、私の子?


「…あ……」


 倒れる瞬間、何故か『守らなきゃ』ってお腹に両手をあてた。

 今ベルンハルトに言われるまで分からなかったし、ここにいる、って実感があったわけではない。

 確かに何週間か前までは朝までゴニョゴニョで、それからも触れ合いはあった、けど。


「なんだよ、嬉しくないのか?」


「違うよ、嬉しくないわけないよ。けどまだ……実感無くて……」


 お腹に手をあてても勿論出てきても無いから分からない。

 でも、じわじわと、『ここにいるのかな』って思うと、あとから愛しさが溢れてくる。


「俺と、お前の子だ。大事に育てよう」


 あ……。

 そうか。

 ベルンハルトの、子。

 つまりそれは、ベルンハルトに家族ができるという事。

 確かに夫人たちも家族だし、直接血は繋がってなくてもザイード様はベルンハルトの子としているけれど。


「うん……。うん、ベルンハルトの家族、大事に育てるね」


 この子もその一員になれるように、大事に育てよう。




「ミアーーーー♪♪おめでとう!やだ私、伯母さんになるのよねっ!やだもう、ミリちゃんて呼んで貰おうかな〜」


 体調が回復して一番にミリアナ姉様がお見舞いに来てくれた。

 けれど。


「うぷっ、ミリアナ姉様……ごめんなさい、香水の……ニオイが…」


「うわあああ!だめなニオイだった!?ごめんね!そうよね、今まで大丈夫でもきつくなるって聞いたわ。ミアに近付きたいし喜びを分かち合いたいけど……

 おさまったらまた抱き着かせてね!」


 ニオイというニオイがだめになった私は、大好きなミリアナ姉様のまとう香水のニオイすら無理で。

 でも何故かベルンハルトのニオイは大丈夫で。


「今から俺の事好きなのかー?」


 なんてニヤニヤしながらお腹に話し掛けてる。


 まだ薄いお腹を撫で、慈しむように柔らかな表情になるベルンハルトを見てたら、何だか私まで嬉しくて。

 今が一番幸せだな、って思えるんだ。




「ミア夫人、懐妊おめでとう」


「おめでとごじゃます」


 暫くしてお祝いを言いに来てくれたのはザラ様だった。ザイード様の手を引いて。

 最近のザラ様は憑き物が落ちたみたいに穏やかな表情をされていて、いつか見たみたいにザイード様に辛くあたる事も無いみたい。


 ザラ様は私に話があると、ザイード様を侍女に任せて少し距離を取った。

 聞かれたくない事でもあるのかな?

 同じ室内ではあるけれど、ベッドから離れた場所で侍女と遊ぶザイード様につい顔が緩んでしまう。



「ありがとうございます、ザラ様」


「悪阻中は人それぞれだけど、簡単につまめるものがあると少しは楽になるかもよ。

 この子の時、空腹の時に吐き気が強くなっていたから」


 そう言って、ザラ様は一口サイズのお菓子を差し入れてくれた。

 ……ザラ様からの食べ物の差し入れ。

 うん、とてもあやしい。

 ごくっ、と警戒したのが伝わったのか、私の表情を見たザラ様は苦笑した。


「私が言っても信用ならないと思うけれど、毒や堕胎薬は入っていないわ。

 今は純粋にあなたを支える夫人でありたいと思っているの」


 ザラ様は少し目を伏せて言葉にした。


「私のしてきた事は許されない事だわ。

 あなたに申し訳ないと思っているの。

 だから、陛下は離縁を保留として下さったけれど、いずれ私はハーレムから抜ける事にしたわ」


 私はその言葉に目を見開いた。


「ハーレム……から、抜ける、って、でも、そしたら…ザイード様は……」


 動揺する私に、ザラ様は柔らかな視線を向ける。


「陛下はあなたの子も、私の子も、平等に接する事を約束して下さったの。

 ザイードが継承権一位ではあるけれど、子どもの意思を尊重するそうよ」


 それを聞いて少しホッとした。

 ザラ様が抜けたらザイード様はどうなるんだろう?って思ったから。

 直接的には血の繋がりは無くても、実子として認めている子を追い出したりしない人じゃなくて良かったと安心したのだ。


 でも、ザラ様がハーレムを抜ける……。

 一時期毒を盛られて確かにいい気はしないけど、でも恨んだりするわけじゃなかった。

 離縁して欲しいとか考えてなかった。

 だからザラ様が自ら離縁すると言って、何だか複雑な感じがする。


 戸惑う私の様子を見かねてか、ザラ様はクスっと笑った。


「ミア夫人、私ね、陛下に抱かれてちっとも幸せではなかったの」


「えっ」


「確かに異母兄弟だから似ているところはあるかもしれないわ。でも私が幸せを感じていたのは、ルートヴィヒ様だけだった。……ずっと自分を誤魔化していたけれど、だめね」


 そう言って寂しそうに笑う。


「あの方がこの子を授けてくれた事が、私の幸せだったのね。」


「ザラ様……」


「ミア夫人、無事に産まれることを祈っているわ」


 そう言ったザラ様は、晴れやかな顔をしていた。


「ありがとうございます、ザラ様」


「あなたなら、筆頭夫人になれそうね……」


「えっ?」


「……いえ、何でもないわ。それじゃあ、お大事になさい」


 ザラ様はザイード様の手を引いて部屋を出て行く。



 もう一度、お腹に手をあてる。

 まだそこにいると実感は湧かないけれど、守りたいと思った。


 ベルンハルトも、お腹の子も。



 その為に、私は。


 初めて権力というものが欲しいと思った。



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