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失恋令嬢はハーレム王から愛される  作者: 凛蓮月
結婚してからの事。
32/53

千夜の中の初めての夜

 

 その夜、侍女から身体の隅々まで磨かれ、香油を塗られ、いわゆる閨の儀の準備をされた。


「夫人をお召しになられたのは初夜以来ですからね。しっかり準備させていただきますね」


「あ、ありがとう、ございます……」


 わあーわあーわあー、閨で、というか、男女のアレコレソレでこんな気合入った準備をされたのは勿論初めてで。

 初夜の時もされたけれど、たぶんここまでじゃなかった気がするし。


 そ、それに何か改めてこういう準備されるとその後本当にしちゃうってまざまざと実感させられるというか、すっごく緊張する。



 準備が終わって、やっぱり薄い夜着を着せられて私はいつものベッド……ではなく、何となく恥ずかしくていたたまれなくてソファに座ったり部屋の中をうろうろしてみたり、とにかくじっと座ってる事ができなくて。

 無駄に深呼吸してみたり屈伸してみたり。


 そ、そうだ、ミリアナ姉様から貰った秘密巻きでも見て落ち着

「ミア」

「びゃいっ!!」


 そこにはガウンを羽織ったベルンハルトがいた。


 湯浴みのあとすぐに来たのか黒い艶の髪から水が滴り、窓から差し込む月の光に照らされて金の瞳が妖しく光り、なんだか吸い込まれそうになった。


 ぼーっと見惚れる私を見ながら一歩一歩近付いてくる。


「待たせたか」


「い、いえ、特に、そんな……」


 しどろもどろになる私の頬にスッと手を差し込むと、意識してないのに私の肩が震えた。

 そのままずらしていくと、指で私の耳朶を弄び始めた。

 あまりの恥ずかしさともどかしさに、何だかむず痒くなってくる。


「ベッドに行こう」


 耳元で囁かれると、抗えなくてそのままこくりと頷いた。



 ベッドの上でベルンハルトの膝に乗せられると、軽く口付けられた。


「思うんだけど、ベルンハルトって膝に乗せるの好きなの?」


「いや、そうでもないぞ」


「そう?何だか私いつも膝に乗せられてる気がする」


「まあ、お前くらいかな、乗せるのは」


「私だけ……?」


「ああ、お前だけ、特別だ」


 そうして深く口付ける。私を欲するように。

 ベルンハルトの瞳に熱が宿る。

 その瞳に私の背中はゾクゾクとした。



 互いに熱をやり取りする。

 それはとても熱く、優しく、甘く。

 私を気遣いながらのもので。

 こんなに大切に扱われる事に戸惑いはしたけれど、とても嬉しくて胸がぎゅーってなった。


 嬉しくて、でも切なくて。

 熱くて溶けそうなのに混じり合えないのがもどかしい。


「すき……ベルンハルト、だいすき」


 熱に浮かされ言葉が出る。

 薄く目を開けたベルンハルトは猛獣のようで。


 タベラレルコトにまた背中がぞくりとした。




 コトが済んで肩で息をしていると、大きな胸板に抱き寄せられた。

 鼓動の音がトクトク早鐘を打つ。

 それが何だか嬉しくて、愛おしくて。

 私はベルンハルトを抱き締めた。

 しばらく頭を撫でられて、それが終わればまた口付け。


 そこから始まる甘い時間は、夜が明ける間際まで続いた。





 陽の光が高くなり始めた頃、私はしっとりした肌の感触で目が覚めた。

 目の前にある肌色に一瞬どきりとするけれど、少し上にずらしたところにある寝顔を見れば何だか満たされる気がした。


 まだ完全に目覚めない微睡みが気持ち良くて、ベルンハルトの背中に手を回す。

 胸に耳をあてると昨夜より落ち着いた鼓動の音。


 幸せってきっと、今みたいな時間を言うんだろう。


 そうして再びうとうとしかけると、今度はベルンハルトの腕が私の背中に回った。


「起きてたのか」


「うん、ちょっと前に」


「そうか」


 お互い少し掠れた声になるのは寝起きだからかな。その声がやけに色っぽくて、私の鼓動は早くなる。


「身体は大丈夫か。無理をさせすぎたんじゃないか?」


 夜明けまでしてたのに、気遣う言葉のチグハグさに何だか笑えてきてしまう。


「そう思うなら途中でやめてくれたらいいのに」


「すまん、止まれなかった」


 バツが悪そうに、何かをごまかすように私をぎゅっと抱き締める。


「自分でもびっくりしてる。……その、おさまらなかった。何か、胸の奥底から変な感じがずっと湧き続けて」


 あ……それは。


「愛しいとか、可愛いとか、もっと欲しいとか、色々。……比べるようなもんでもないが、他の女には無いものだったから」


 同じだ。

 私も溶け合っている時ずっと愛おしさが止まらなかった。

 どうしようもなくこの人が欲しくて。

 どうしようもなくこの人が愛しくて。

 この人の全てが欲しくて止まらなかった。


 私を胸から離し、頬を持ち自分に向かせると、ベルンハルトは口付けてきた。



「ミア、愛している」


「俺は夫人たちにもずっと言ってきた。だがそれは偽りだったと今なら分かる」


「俺はお前を愛している。お前が欲しい。

 お前だけは失いたくない。他の男に譲りたくない」


 その言葉は私の耳から入り、全身に巡っていく。

 私の中で、目の前にいる人が好きだと叫ぶ。


「私、も。私も、あなたが好き。……うううん。

 あなたを、ベルンハルトを愛しているわ」


 どうしようもなく切なくて、どうしようもなく苦しい。

 けれど。

 どうしようもなく嬉しくて、どうしようもなく愛しい。


 知らなかった。

 一方通行の恋は苦しくて悲しくて辛かった。


 でも、愛を返して貰えたらこんなにも嬉しくて、切なくて涙が出そうなのに愛おしさが止まらない。




 それから私たちは再び溶け合った。

 お互いの心をやり取りするように、優しく。

 全てを溶かすように、甘く。




 そうして私は決意した。

 この腕の中を守ろうと。



 私にできる事は限られているけれど。

 きっとベルンハルトの敵は多い。


 だけど負けたくない。



「愛してるわ」



 私もあなたを守る為に強くなる。




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