卒業してからの事。
卒業パーティーの日。
私は誰のエスコートも受けなかった。
ディーンもアランも独りだった。
あれからアランが誰かと噂になる事も無かったのは意外だった。
お兄さんに送り迎えされる好きな子を遠目に見ながら切ない顔をしていて。
それを見る度やるせない気持ちになった。
(なんて顔してんのよバカ……)
以前の彼ならすぐ他の女の子に行ってただろう。
だけどそれをしてないのは余程本気なんだろうって痛感した。
もしもう一度アランに言い寄っても絶対振り向いてくれない自信しかない。
もうこれ以上、好きになりたくなかったから極力見ないようにしてたけど。
数年の片想いは中々消えてはくれなかった。
パーティーが終わって、馬車待機場に向かいクロデル伯爵家の馬車を探して乗り込んだ。
結局アランやディーンとは気まずいまま、話しかける事も話しかけられる事も無いままだった。
なんて呆気ない幕切れ。
「私って、何だったんだろ」
虚しさと後悔とでいっぱいになった学園生活はこうして終わりを告げた。
クロデル伯爵家に到着すると、ステラ叔母様が出迎えてくれた。
「ミア、お帰りなさい」
優しい穏やかな笑みを浮かべた叔母様の顔を見ると、途端に泣けてきた。
「卒業おめでとう。兄さんも気にしてたわ」
「そう…ですか」
それなら勘当なんてしないでくれたらいいのに、っていうのは甘い考えなんだろうな…。
「ミア、本当に修道院に行くの?」
「はい。……私を貰って下さる方なんていませんから」
卒業後、沢山悩んだ私は結局修道院に行く事にした。
恋愛に対して夢も希望も持てなかったし持ちたくなかった。
それにもう疲れちゃった。
それなら修道院に行って恋愛とか関係無く穏やかに過ごしたい。
政略結婚で30離れた年上男性とか絶対嫌だった。かと言って平民になって生きていける能力も無い。
修道院であの子の幸せを祈りたい。
私は何も持ってない。
貴族夫人としての教養も、淑女の嗜みも、苦手だからって積極的に学ばなかった。
ほんと、学園生活を頭の中お花畑で無為にして、何も残せなかった。
イベリナお姉様は優しい旦那さんと出会えたのに。
頑張ってたあの子も。
こんな事ならちゃんと真面目にやっとけば良かった。
「ねぇ、ミア。私とちょっといいとこに行かない?」
落ち込んでしまった私を見兼ねたのか、イベリナお姉様がウインクして話し掛けてきた。
「気分転換よ。いい夜会があるの。修道院に行ったらもう二度とそういった場所には行けないでしょ?最後の思い出に行きましょ」
夜会──。
正直あまり乗り気にはなれなかった。
「私はいいわ。お姉様楽しんで来て」
「私はミアと行きたいの!子ども2人いると中々行けないでしょ?でもこの日だけは親しい方からの招待だから行きたいのよ」
うーん、確かにお姉様は子ども優先でいつも動いているからたまにはストレス発散したいのかな?
「分かったわ。最後の思い出に。行くわ」
「ミア!そうこなくっちゃ!一週間後よ!ドレスは……私のでいい?体型同じだから入るわよね?ミアは……おムネも…うん!いいわよ~」
「ちょっとお姉様!?」
厳粛なステラ叔母様の娘とは思えないくらいイベリナお姉様は積極的だ。
むしろ抑圧されたものが噴き出してしまうのかしら?
「そうと決まれば!衣装を見繕いましょう!」
強引に引っ張られ、イベリナお姉様の私室に行く。
一週間後の最後の夜会の為に衣装合わせだ。
まさか。
その夜会が仮面舞踏会で。
後の私の運命を大きく変える出逢いがあるなんて。
この時の私は微塵も思っていなかった。