目覚めの後で。
8/11に「疑惑と気付き」「最低な嫉妬」を追話しています。
それに伴い「ザラ様からの誘い」も冒頭部分を追加しています。
そちらもお読み下さい。
構成力不足ですみませんm(_ _ )m
次に目覚めた時にはまだ少し身体は重たかったけれど、生きてる、って事にホッとした。
掃除していたメイドが気付いて、みんなを呼びに行ってくれた。
一番に入ってきたのはミリアナ姉様。
「ミアーーーー!!」
「ぐえっ」
そのふかふかなお胸にぎゅーって抱き締められたら温かくて、改めて生きてて良かった、って思った。
遅れてベルンハルトとジュードさんが入って来た。
ミリアナ姉様はいやいやしてたけど、ベルンハルトからべりっと剥がされてしまった。
ぶーぶーと口を尖らせて抗議する様も可愛いなぁ。あとでまた甘えさせてもらおう。
「ミア、目覚めたか」
「うん、ただいま……?」
何て言ったらいいか分からなくてとりあえず帰還の挨拶をした。
「……ああ、お帰り」
ベルンハルトは笑って、私の頬を撫でた。
少しかさついた手が愛おしくなって、思わずスリ、と寄ってしまった。
「医師にも見てもらおう」
私の頬を指の背で撫でながら、ベルンハルトは側にいたジュードさんに指示を出す。
ミリアナ姉様は一息ついて「また後でね」と部屋から出てしまった。
今はベルンハルトと二人きりだ。
「私は……どれくらい寝てた?」
「まる2日だな。……すまない、菓子に仕込まれているのは分かっていたが思いの外強いやつで…」
「あの場では食べないといけなかったから仕方ないよ。……フラヴィア様とミリアナ姉様は無事なの?」
「ああ、あいつらは強毒まで慣らしてるから心配ない。……まあ、褒められた事ではないがな」
強毒に慣れてるって事はそれだけ危険だって事よね。
改めて大変なとこに来ちゃったなぁ。
「……あと、ザラは謹慎処分にした」
「えっ」
「前回はザラの侍女が実行犯として捕まえられたが、今回は回避できないようにして盛られたから悪質過ぎると大臣たちも言っていてな。
ザラとは離縁して幽閉、ザイードは養子に出す事になった」
あまりの急展開に私は思わず言葉を失った。
ザラ様と離縁だなんて、しかも幽閉とかそんな…。
「わたし、ザラ様と話を……」
立ち上がりかけて、でもグラリとしてそのままベルンハルトに支えられた。
「無理するな」
「でもザラ様がっ……」
確かに私に毒を盛ろうとした事は許されないかもしれない。でも、離縁とか、そんな。
「ミア、きれいごとじゃ生きていけないんだ」
ベルンハルトから抱き締められる。
その声は掠れて、絞り出すように。
「どこの王家も大なり小なり色々ある。
あいつの目的が何なのかは分からないが、へたしたら生きていけないくらいの毒を盛るのは流石に看過できない」
「それでもっ……」
本当にそれしか無いの?
結婚式の前準備は楽しかったのに。
私にハーブルムの作法を教えてくれたのに……!
「陛下、医師をお連れしました」
「分かった。ミア、診察のあとまた話そう」
私の頭を撫で、ベルンハルトは壁際にもたれた。
医師からはいくつかの問診と検査をして、異常無しと告げられた。毒耐性検査も弱〜中ならば問題無いようだ。
毒耐性とか付けてないと生き残れないとか笑えてきた。
イーディスがいかに平和な国だったかが分かる。ハーブルムは不安定すぎる。
「王を支えるのが夫人たちの役割ではないの……?」
それなのに、夫人たちで殺し合いとな内輪揉めとか。
なんかだんだん腹が立ってきた。
私はベッドから起きあがり、ザラ様のとこに行く事にした。
まだふらつくけど壁際にいたベルンハルトが私を支える。
「どこに行く」
「ザラ様のとこに」
「しかし」
「ちょっと説教しないとおさまらない」
「……は?」
気に入らないなら口を使えば済む事。なのに毒を仕込むとか陰湿。性格悪い。
互いにベルンハルトを支える立場なのだから協力すればいいじゃない。
なのにそれをしようともしないなんて。
ただ、夫人を排除するだけなんて。
思ってたらだんだんムカムカしてきた。
お腹の中は熱いくらい煮え滾っているのに、私の身体はフラフラしてる。
こんなんじゃ格好悪いな……。
するとふわりとした浮遊感。
ベルンハルトが横抱きにしてくれた。
「えっ……」
「ザラのとこに行くんだろう」
「あ、うん……」
「仕方ないから連れてってやる。おとなしく抱かれとけ」
た、確かに足取りおぼつかないけど、自力で歩けないこともないし!
それにいざ乗り込んで行った時に横抱きにされてるって何か、格好つかないよ!
なんとかして降りようとしたけどがっしりホールドされててみじろぎ一つできなかった。
ザラ様の自室の前に来た。
ベルンハルトはジュードさんにノックするように言うとジュードさんは、扉を叩いた。
中の返事を待たず中に入ると、ザラ様は窓辺に佇んでいた。
「ザラ様」
私は意を決して口を開く。
けれどザラ様は私の方を見ず、ずっと外に目を向けていた。
ベルンハルトに降ろしてもらって、一歩ずつ近寄る。まだフラつきはするけど、支えてくれようとしたベルンハルトを手で制して私はザラ様の下へ足を進めた。
「死に損ないが何の用かしら」
あと数歩で、という所でザラ様は口を開いた。
「冥土神が帰れと言ったから帰って来ました」
「そのまま渡れば良かったのに。冥土神も使えないわね」
振り返って、顔を歪ませ笑うザラ様にカッとなって、私は手を振りかぶった。
パシンと乾いた音が響く。
甘んじて受けたザラ様に私が驚いた。
でも怯んでる暇は無い。
「あなたは、なぜベルンハルトと結婚したんですか」
きっと睨んでザラ様を見る。
「ザイード様を守りたかったんだと思いましたが、違うのですか?」
ザラ様は俯いたまま身動ぎ一つしない。
「あなたとはあまり接していませんが、共にベルンハルトを支えて行く夫人とは思ってました。
なのに……!」
「あなたに子ができたら、ザイードは王位を継げないじゃない」
それはハッキリとした、ザラ様の本音。
「だいたい庶子の癖に、王位簒奪する方がおかしいわ。どうしてルートヴィヒ様を殺したの!!どうして!!」
ザラ様の本音は悲痛な叫びとなって響き渡る。
それは愛する人を失った悲しみを孕んでいる気がした。