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失恋令嬢はハーレム王から愛される  作者: 凛蓮月
結婚してからの事。
25/53

最低な嫉妬

8/11に割り込み投稿しています

 

『今日はフラヴィアの元へ行く』


 意を決して想いを告げようとした所へそう言われて。

 私は自室に逃げ帰った。

 ベルンハルトは追い掛けては来なかった。でもそれでいいと思ってる。

 あとから来るから、と言ってたけど正直どんな顔をして会えばいいか分からない。


 胸の内に発生したドロドロとしたものは何度も溜息と一緒に飲み込んだ。




 今夜は何だか眠れない。

 何度もベッドの上でゴロゴロとしてしまう。


 今頃ベルンハルトはフラヴィア様と情熱的な時間を過ごしているんだろう。

 この国の王としての義務もあるだろうけど、基本は女性を悦ばせる事が好きな人だ。


「……別に、気にしてないし」


 こういう時、あの子もこんな気持ちだったのだろうかと今更胸が痛む。


 私が寝取ったばかりに悲しい思いをさせてしまったあの子。


「ほんと、同じ事が返ってくるなんて、ね」


 無意識にぎゅっと掛布を握った。


 誰かのものを奪ってしまったから。

 私だけを見てくれる事の無い人の所へ嫁ぐ事になった。


 せめて私だけを愛してくれる人と結婚したかった。


「バカは私ね………」


 誰かを傷付けた後悔と、その結果の報い。

 ここにいる限り一人の男を複数の女性で取り合わなければならない。

 ベルンハルトがいない時間は嫌でも自分の孤独を突き付けられる。

 だから早目に寝たかったのに、今日は何だか目が冴えてしまった。


 暫くベッドの上でごろごろしていたけれど、眠れなくて。

 私は散歩に出る事にした。



 ガウンを羽織って廊下に出ると庭の方へ足を向けた。

 夜風に当たれば気が紛れるかもしれない。

 少し運動して疲れれば眠気も来るだろう。

 そう気軽に考えていた。


「おい、お前また狙われたいのか」


 そこにいたのは黒装束に身を包んだハリードだった。

 いつの間に来たのよと、内心どっきどきだ。


「眠れないからちょっと散歩よ」


 平気な振りして答えると、ハリードははぁ、と溜息をついた。


「闇に紛れてお前一人消すなんざ容易い事だ。悪い事は言わねえから部屋に戻れ」


 命令口調にかちんと来て、ぶっきらぼうに言い返した。


「ちょっと散歩したらすぐ戻るわよ」


「いいから戻れ」


「夜風に当たりたいだけよ。すぐ戻るから」


「殺されてぇのか?」


 ヒュッと喉が鳴る。

 凄みのある低い声で脅される。

 ちょっと散歩に行こうとしたくらいで何よ…。


「ああ、王が来るぞ。早く部屋に戻れ」


 ハリードが空中を見て喋る。

 と言うか、何?王が来る?どこに?


 あいつは今フラヴィア様と熱ーい時間を過ごしているんじゃ……。


「ミア」


 それは耳に響く低い声。

 いつの間にかその声に呼ばれるだけで切なくなるようになった。

 振り返ると、そこにいるのは、いるはずの無い男。


 どうして───。



『今夜はフラヴィアの元へ行く』



 そう言ってたのに、私のもとに帰って来る、ズルい人。

 ゆっくり近付いて来て、私の目の前で立ち止まる。


 会いたくて、会いたくない人。

 情事の名残があるのか、色気が滲み出ている。


「夜は危険だ。部屋に戻るぞ」


 そうして私の手を取ろうとするのを、思わず払ってしまった。


「……ぁっ…」


 今は何となく触られたくない。

 他の夫人を抱いたその腕で。


 私が払ってしまった手を気にしていると、ベルンハルトはフッと鼻で笑った。


「相変わらず警戒心の強い猫だな。ほら、行くぞ」


 有無を言わさず腕を取る。


 なんて強引なんだろう。

 その手で私じゃない女を抱いた癖に。

 王としての義務とか知らない。



 自室に戻るとベッドに促される。

 だけど今日は何故だか一緒に寝るのが嫌だった。


「私はソファで寝るわ」


 そう言ってソファに横になろうとすると、強い力で引っ張られた。


「それは許さん。お前は俺と寝るんだ」


「今日は嫌!他の夫人との後なんて、絶対に嫌よ…」


 この男は夫人を平等に愛する人。

 夫人だけじゃない。一度でもお手付きになれば分け隔てない。

 誰も特別にはなれない。

 夜は私と寝るのも、ただ私が危険だからであって、私が特別ってわけじゃない。


 それを感じてしまって、悲しくて、悔しくて。


 それでも幸せを感じてしまう自分が情けなくて。


 だからこそ、独りで寝たかった。

 これ以上を望んでしまうから。


「ミア」


「いや、来ないで」


「ミア」


 ふわりと抱き締められる。

 ベルンハルトの匂いの中に混じるフラヴィア様の香水の匂い。

 それが私の心を締め付ける。


「お前が嫌だと言っても、俺はお前を離さない。他の女は良いが、お前だけは他の男にやらない。

 俺は王だからどうしてもお前だけのものにはなれないが、お前だけは、俺が望んだ唯一だ」


 そんなこと言うなんてズルい…。


「これからも今日みたいな夜は訪れる。その度お前を傷付けるんだろうな…」


 そう言いながら私の肩に顔を埋める。


「この国の女はこれが前提だが、お前は違うんだな…。だがそれでも俺はお前が欲しい」


 ベルンハルトがあまりにも強く抱き締めるから。

 悲しくて、満たされるのに辛くて。

 辛いのに幸せで。

 頭の中がぐちゃぐちゃになる。


 今だって肩に残る痕を見付けて心は嵐のようなのに。



 どうしようも無くこの男が好きなことが悔しい。


 どうして私は、私だけを愛してくれる人に出会えないんだろう。


 自分を愛してくれる人が何人もいるあの子が羨ましい。

 それでも、私はこの男の手を離せない。


 やがてベルンハルトは私を横抱きにし、ベッドへ連れて行く。


「今日はもう寝ろ。明日に差し支える」


 そうして今日も、後ろに温もりを感じながら眠る。


 がっしりと抱き締められたまま。



 それが嬉しくて。





 温かくて。





 とても辛くて。



 幸せなのに















 とても苦しい。







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