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失恋令嬢はハーレム王から愛される  作者: 凛蓮月
結婚してからの事。
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孤児院への訪問

 

 口付けの応酬を「朝食の時間です」とやって来たジュードさんにより中断され、何となくギクシャクしながら朝食を取ってから仕度をして。


 ベルンハルトに連れられてやって来たのは町外れにある教会。その隣にある孤児院だった。


「まあ、あなた様は!ようこそいらっしゃいましたわ。さあさ、どうぞ中へ」


 扉を開けて出迎えてくれたのは朗らかな表情にシワの入ったシスターだった。


「みな息災か?」


「あっ!王様!」

「おうさま〜!遊びにきたの〜?」

「王様あっちで遊ぼうぜ!」

「こーらお前たち、王様は忙しいんだからな」


 これは……。

 ベルンハルトが子どもたちに囲まれてる。

 女性たちに囲まれるのはまあ、見てきたけどこれはまた意外だわ。

 その光景に圧倒されながら見てたら、男の子が私に近付いてきた。


「王様、こっちのねーちゃん誰?あんたきれいだな!将来俺の嫁さんになれよ!」


「ルナスずりぃ!俺が最初に目ぇつけたんだぞ!」


「うるせーサハル、こいつは俺んだ!」


 目の前でいきなり言い争いを始められても、私は君たちの嫁にはなれませんよ〜?

 でも喧嘩はヒートアップしてきて、私は止めた方がいいのか見守った方がいいのか戸惑ってしまった。


 そしたら後ろから体重をかけられる。

 頭の上に顎をのせ、胸の前に腕を回す──ベルンハルト。


「お前ら勝手な事言ってんじゃねーよ。ミアは俺の妻だ。誰にもやらねぇよ」


 べ、ベルンハルトさん怒ってる?

 というかそもそも子ども。相手は子どもだよ?


「王様と結婚してんなら言えよ!失恋したじゃないかよ!」


「ひでぇや!幼子の気持ちを弄んだのかよっ」


「えっ、いや、えっ」


 二人は身をよじよじして泣き真似してる。

 えっ、これ私が悪いの?えー……。

 途方に暮れる私の手をそっと取る女の子。


「大丈夫、あいつらは悲劇のヒーローごっこで遊んでるだけよ。こないだ機織りのユスラにも同じ事言ってたわ」


 悲劇のヒーローごっこって何それ?そんなもの流行らせないで欲しいわ。

 でも、まあ。

 私が何かしちゃったわけじゃないみたいで良かった。

 ルナスとサハルは飽きたのか、もう違う遊びを始めてる。

 子どもは切り替え早いなぁ。羨ましい……。


「いいなあ、子ども……」


 未だ頭上に顎を乗せたままのベルンハルトがぼそっと呟いた。

 色々と意味深な言葉だな……。


「ベルンハルトも……いるじゃない、子ども…」


 そう。ベルンハルトには子どもが一人いる。

 第一夫人ザラ様がご生母だ。

 確か名前はザイード。年はもうすぐ3つ、って言ってたっけ。

 普段はザラ様のお部屋にいるからまだ会った事は無いけれど、きっとかわいいんだろうなぁ。


「ミア、ちょっと来い」


「えっ」


 ベルンハルトに引かれ、人気のない場所まで連れて来られた。

 辺りに誰もいない事を確認して、ベルンハルトは私に耳打ちする。


「ザラの子は俺の子ではない」



「……っ!?」


 私は大きな声を出す寸前で自分の口を押さえた。

 ベルンハルトも私の手の上から押さえる。


 おかげで心臓がどっこどっこ鳴っている。

 そして段々苦しくなってきたのでベルンハルトの手をペチペチと叩いた。


 やがてその手がするりと降りていく。


 私は大きく息を吸って呼吸を整える。

 聞き間違えじゃなければ今とんでもない事を聞いた気がするな……?


「そ、それは……確定…なの?」


「ああ」


「責任逃れじゃなくて?」


「違う」


 真剣な目をしたベルンハルト。瞳が少し揺れているのは私に信じてほしいから?とか、都合良く考えちゃうな…。


「ザイードは俺が殺した兄上の子だ」


「………!!」


 また声が出そうになったから私はとっさに口を真一文字に結んだ。


「ザラは元々兄上の婚約者だった。だが俺が王位を簒奪した。ザラの父はそのまま娘を俺に嫁がせたんだ。その時には腹に子がいたようだ」


 まさかの事実に私は言葉が出なかった。


「ザラは初夜で身篭ったと言い張っているがな。産み月が2ヶ月程ズレてるんだよ」


 それは間違い無いのかな?

 私は弟が産まれたときの記憶を必死に辿ったけど思い出せなかった。

 まだ物心つくかつかないかくらいだったから当然か。

 お母様が「あなたに弟か妹ができたのよ」って言われて、「わーい」って喜んでたらいつの間にかお腹が大きくなってお母様が叫んだら産まれた感じ。

 具体的にどれくらいの期間お腹の中で育てるとかは覚えてない。


 でも、ベルンハルトがそう言うならそうなんだろう。


「…ベルンハルトは、自分の子が欲しいの?」


 聞いてから、後悔した。


 ベルンハルトの顔が悲しげになったから。



「俺に……。

 父や兄を殺した俺に子はできないんだよ……」


 悲痛に歪め、今にも泣きそうになったベルンハルトが痛々しくて、私は思わず抱き締めた。


 大丈夫だよ、とか無責任な事は言えない。

 でもベルンハルトにとっては、王位を手にした事はあまり良い事ではないのかもしれない。


「……いつか」


 背中に回した手に力を込める。


「いつか、私が……」



 その先は言葉にできなかった。

 まだ私にはその覚悟はできてないみたい。


 でも、メイラに言われた事、ミリアナ姉様に言われた事を、思い出す。


 ベルンハルトが望んでくれるのならば、先を目指していいのかもしれない。


「ミア」


 名を呼んで、ことさらに腕の力が強くなる。


「ミア、俺のものになれ」


 耳元で囁く掠れた声。

 それは色気も孕んで私の鼓動を早めてくる。


 私はベルンハルトの胸に顔を埋め、小さく頷いた。

 ぴくりと、ベルンハルトが反応する。

 耳元の吐息が熱い。


「でも、ここじゃ、ダメ」


「分かってる。……帰るぞ」


 ベルンハルトは私を引っ張って足早に進んで行く。


「まあ、お帰りですか?」


「ああ、また来る」


「陛下、お気を付けて。あなたの先行きに幸多からん事を」


 シスターにぺこりと頭を下げ、ベルンハルトに連れられて行く。

 もっとお話したかったな。また来れるときはあるのかな。


 そもそも何でここに来たんだろう?


 馬車に乗るとベルンハルトは御者に行き先を告げて出発させた。


「もうちょっと、いたかったな」


 窓の向こう、遠くなる孤児院を見ながらつぶやいた。


「また来れば良い。俺もたまに行く。……あそこは俺が母親に捨てられて宰相の家に行くまでにいた場所だからな。短期間ではあったが、実家のようなもんだ」


 ベルンハルトの瞳が寂しそうにしていたから、手を伸ばして頭を撫でた。


 大人しく撫でられるベルンハルトが何だか可愛いや。愛おしく思えてくる。


 私が守りたい。


 おかしいな。男の人なのに。

 私より7つも上の人なのに。

 何だか泣いてるような気がして。


 ベルンハルトは私の肩に頭を乗せた。


 馬車が止まるまで私はずっと、彼の頭を撫で続けていた。





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