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失恋令嬢はハーレム王から愛される  作者: 凛蓮月
結婚してからの事。

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21/53

近付く距離

 

 ヴェーダを出てからハーブルムに戻って来た。

 結局新婚旅行というか、視察だった。


 ま、こんなものなのかな…。

 とはいえ、まだ宮殿には帰って来ておらず、今日はハーブルムの端の方にある宿屋に泊まっている。

 当然、私とベルンハルトは同じ部屋。

 一応、ふ、夫婦だから……ね。


「どうした、ミア」


「別に、何でもないわ」


 ベルンハルトが夜着に着替えた私を膝にのせる。……たぶん奥方みんなにしてる事。


 ちなみに私は結婚から月のモノは来たけれど、いわゆる初夜は未だ無い。

 私は何も言わないし、ベルンハルトからも何も言われない。

 でも、髪に口付けるとか腰に手を回して自分に引き寄せるとかこうして二人の時にやたらとくっついて来る。

 今も私の髪をくるくると弄んでにやにやしてる。なんか悔しい。

 だから私もやり返す。

 脇腹をつねってみたり、ほっぺを指で押してみたり。


「ミア」


 ふいに手を取り、見つめられる。

 気のせいか、その瞳に宿るものには見覚えがある気がした。


 視線が絡み合う。

 ベルンハルトの顔が近付く。



 でも私は顔を逸してしまった。


 ベルンハルトは軽く溜息を吐いた。


「寝るか」


 ぽん、と頭に手を乗せられ、私は俯いてしまった。



 嫌じゃない。

 嫌じゃない、けど。

 イヤだ。


 他の夫人に同じ事、してる、よね。

 そう思うと踏み出せない。


 別に初めてなわけじゃないのに、どこかで躊躇してしまう。

 こんなグズグズする自分も嫌だし、妻としてベルンハルトの役に立ってない事も後ろめたい気持ちになる。


「ベル…ンハルト……」


 横になろうとする彼の夜着をキュッと摘んだ。


「どうした」


 ベルンハルトの左手が、私の頬を撫でる。

 指で耳たぶをつまんでみたり、耳朶をくすぐってみたり。


「もう、擽ったいわよ…」


 軽く抵抗してみるけど、ベルンハルトは優しく、意地悪にわらったままだった。

 だけど、急に頭を寄せられて。


 軽く唇が触れた。


「……っ」


 ばっと離れて思わず手で口を覆うと、私の顔は熱くなる。


 それから、啄むような口付けの嵐。

 拒む事もできなくて、したくなくて。

 でも、うっすらと目を開けてベルンハルトを見たら熱を帯びた瞳にゾクリとした。


 急に怖くなって、思わずベルンハルトの胸を押す。

 けれど、そのまま背中に手を回され抱き締められた。


「まだ、ダメか……?」


 掠れた低い声が耳の奥から頭を駆ける。

 私は頭を振った。

 ダメじゃない、ダメじゃない、けど。


 気持ちの伴わない行為はもうしたくない。

 自分だけが悦んで、相手は快楽の為のものなんて、もう嫌だ。


「こわい……から」

「怖い?」


 ぽんぽんと背中を叩く音が気持ちを落ち着かせる。


「もう、苦しく、なりたくない、から……」


「苦しく……なるの、か…?」


 分からない。

 でも、幸せな気持ちにはなれないと思う。


 嫌だな、こんな気持ち、持ちたくない。



 それからベルンハルトにずっと背中をさすられたまま、私はいつの間にか眠りについた。




 朝、目が覚めるとベルンハルトはもうベッドの中にはいなかった。

 冷たくなったシーツが私達の縮まらない距離を示しているみたい。

 自分から拒否したくせに、自分勝手だ、と私は唇を噛んだ。


 私の思い描いていた夫婦像はお互いに愛し合い、喧嘩し合い、支え合うようなものだった。


 けれど私が選んだ人は、複数の女性を渡り歩く人だった。

 そして私を選ばない。


 思った以上にアランを引き摺ってしまってる自分が嫌だ。割り切りたい、そう思うのに、何かが嫌だと拒否してしまう。


「こんなハズじゃ、なかったのにな……」



『ミア、辛いときこそ笑いなさい』


 ステラ叔母さまの言葉がよみがえる。


「無理だよ叔母さま、笑えないよ……」


 ぽろりとこぼれた雫がシーツに吸い込まれていく。


「うぅ……ふぅう〜〜〜〜……………」


 肩を震わせ嗚咽が漏れる。



 帰りたい。

 毒とか、そんなの気にしなくてもいい世界に帰りたい。

 気ままにお茶してお菓子食べて、優雅に夜会に行って。

 愛は無くてもそれなりの関係を築ける結婚をして。

 命の危険とか気にしなくていい場所に帰りたい。


 辛いよ。

 ミリアナ姉様はいるけど、いつも甘えてるわけにはいかない。


 強くなりたい。

 強くなりたいのに、心が着いていかない。


「ミア」


 急に聞こえた声にビクリと身体が反応した。

 急いで涙を引っ込めたいのに次から次へと溢れて止まらない。

 たまらず掛布を被って隠れる。

 すると、その上から私は抱き締められた。


「ミア、辛いか?」


 辛い、辛いよ。


「……ミア、国…に、帰る……か?」


 ベルンハルトが途切れ途切れに発した言葉。


 国に、帰る……?


「幸い、俺達は閨を共にしていない。今なら子作りの意思無しとして、離縁もできる」


 り、えん───



 思ってもみない言葉に鼓動が早くなる。


「ミア、お前の気持ちを聞かせてくれ」


 私の、気持ち。


 私は



 私は、


「離れ……たくない…」


 ぽつりと出た本音。

 ベルンハルトに聞こえたかどうかは分からない。


 けれど言葉にしたら、もう止まらなかった。


「一緒に、いたい」


 その瞬間、掛布がはぎ取られ、ベルンハルトが覆い被さって来た。

 啄むような口付けは段々と深くなっていく。

 暫くそうして、やがて唇を離すと。


「ミア、一緒にいろ。俺と、ずっと一緒にいろ」


 瞼に、頬に、額に口付けられる。


「じゃあ、帰るか、なんて言わないで」

「すまない」

「離縁、とか、言わないで……」

「…すまん……」

「連れて来た、責任取って」

「ああ、一生面倒見る」

「どこにも、行かな…で……」


 ぎゅっと、ベルンハルトの背中を抱き締める。

 彼の重みが愛おしい。


 このまま潰れてしまえばいいのに。

 私も、想いも、潰れてしまえば苦しくないのに。



「ミア」

 名を呼ばれ、また軽い口付け。


「……ミア…」


 ベルンハルトの瞳に熱が宿る。


「…お前は俺の特別だ。お前だけは……俺が望んだ。だから……」


 私はベルンハルトの頬を持って自分に引き寄せた。


「今は、何も言わないで」


 言ってしまえば欲が出るから。


 あなたを、自分だけの人にしたくなるから。



 それからベルンハルトと、ずっと口付けしあっていた。


 それは、束の間の幸せだったのかもしれない。





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