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失恋令嬢はハーレム王から愛される  作者: 凛蓮月
結婚してからの事。
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ハーブルムの事。

 

 それから私は、ハリードから毒耐性訓練、ミリアナ姉様と家庭教師からハーブルムに関する事を習っている。

 勉強はハーブルム言語も込みだ。


 この世界は共通言語があって、その他に母国語のある国もある。

 イーディスはほぼ共通言語だけど、隣国の言葉をいくつか習得する。商人や高位貴族は周りの国々の言葉を覚えておくと外交に便利だからだ。


 ハーブルムも共通言語だけど、たまにザラ様やフラヴィア様は聞き取れない言葉を話していた。

 それは私には理解できなかったけどミリアナ姉様があまりいい顔してなかったからあまり良くない言葉だったんだろう。

 だから私も馬鹿にされない為に、ハーブルムの言葉を学ぶ事にした。


 今日の授業は家庭教師から国の成り立ちについてから始まった。


「では、ハーブルムの成り立ちから説明致しましょう。

 この国はカナストラ大陸の南端にあり、大国ヴェーダの隣に位置する小国です。

 時のヴェーダの王弟が領地を貰って興したのが、この国の始まりです」


 ヴェーダと言えば国王陛下が正妃様と離縁して、側妃様だった方が正妃になったと聞いた。

 王太子時代からの婚約者だった正妃様より、輿入れたばかりの側妃の方がいいと言う一見あまり聞こえが良い話では無いけれど、国民はみな歓迎しているらしい。


 私としては正妃様を押し退けてのし上がった側妃様に興味があった。どうやって国王陛下を落としたんだろう?


「第四夫人、聞いてますか?」


「あ、はい、すみません」


 いけない、いけない。今は勉強に集中しなければ。


「とにかく、ハーブルムの起こりは以上です。

 次に現在の王とその治世についてです」


 つまりベルンハルトの事ですね。これはちゃんと聞かなきゃよね。自分に関わる事だもの。


「現在のハーブルム王の出生については詳細はあまり知られておりませんが、五歳頃までは市井でお過ごしでした。

 その後母君と別れられ、宰相家……第三夫人の実家に身を寄せられます」


 ここまではミリアナ姉様に聞いた通りだわ。


「第四夫人は異国からお出ででしたね」


「はい」


「この国に来て、どう思われましたか?」


 どう、って。


「港は活気があって、街もそんなには荒れてなくて…」


 そこまで言って、ふと気付く。


『はっきり言ってハーブルムの内政は安定してない。陛下も第一夫人と第三夫人は後ろ盾の為に結婚したようなもんだ』


 そう、ハリードは言っていた。

 私の戸惑いに気付いたのか、先生は話を続ける。


「今から三年程前のハーブルムは酷い有り様でした。先代王──現陛下の父親に当たる方や兄たちは残虐非道、好色、国庫が枯れる程湯水のように金を遣うという悪虐王でした。

 民は重税に苦しみ、街は荒れて人々は荒み、人心は王から、国から離れかけました」


 思っていたより酷かった。

 ベルンハルトのお兄さんが……そんな…。


「陛下は当時第五王子であらせられましたが、序列で申し上げるならば最低から数えたほうが早い方でした。ハーレム外の庶子でしたので。

 ですが陛下の上の兄達の行いは良いと言えず、下の者達は萎縮してしまっておりました。


 ……そして、三年前に暴動が起きたのです」


 それは……まさか、


「陛下を旗印に、王位簒奪が行われました。

 ……自身の父親はおろか、兄たちまでも屠り、陛下は王位を勝ち取られました」


 私は目を見開いた。


「そうして獲られた玉座に陛下は座ってらっしゃいます。

 その後の治世は素晴らしいものでした。

 民達の要望を聞き、腐った役人共を排除する。……その様は旅団の演目にもなったのですよ」


 家庭教師の先生はうっとりとした目で語った。

 でも、私には何だか寂しい事のように思えた。


「……っと、今日はここまでですね。また明日お話ししましょう」


「ありがとうございました…」


 先生が退室されても、私は椅子に座ったまま動けなかった。


「……どうせいるんでしょ。出てきなさいよ」


 ぽつりと呟くと、どこからかハリードが現れた。

 この国に、そもそもこの世界に魔法とかあるのかは分からないけれど、ハリードたちは何らかの能力はありそうだ。

 いつも空を見て会話してるみたいだし。


 知らない。

 知らないよ、そんなまるで別世界みたいな不思議な力がある国なんて。


「…なんか暗い顔してるな」


「別に」


「家庭教師から何か言われたのか?陛下に言って変えてもらうか?」


「いや、変えなくていいし」


 ハリードは訝しげな顔をして私を観察している。

 でもそんなの構ってられないくらい、私の中はぐちゃぐちゃだった。


「ベルンハルトってさ」


 一度、口を閉じて、また開く。


「ベルンハルト……は、寂しく、ないのかな…」


 ハリードはきょとんとして。

 やがて眉間にシワを寄せ。

 それから肩を震わせたかと思えば盛大に笑い出した。


「ひっひっひっは、ハッハッハ、あー、久々笑ったわ」


 未だにぷるぷるしながら笑うこの男には苛立ちしかない。


「そんな、笑うとこ?」


 ぷくっと頬を膨らませていると、次第に落ち着いてきたハリードは気まずそうに笑う。


「いや、陛下はいい奥さん連れてきたな、って」


 ハリードのその言葉に、今度は私が眉をひそめた。


「なにそれ」


「……そう思うならあんたが側にいてやればいいよ」


 急に真面目な顔をして言う。


「俺は陛下の心内なんか分からねぇ。だからあんたが陛下が寂しいんじゃないかと思うなら、あんたが寄り添ってやればいい」


 私が……ベルンハルトに……?


 でも。

 あいつには夫人が既に三人もいて。

 後宮にも妾がいる。


 私が寄り添う事をしてもいいのかな。

 それに…。


「私、命を狙われてるし」


 私といる事でベルンハルトも危険に晒されるんじゃ、と思ったら簡単には頼れない。


「さあ、どうだろうな。でも安心していいんじゃね?陛下はヤワな男じゃ無いし、これからは後ろ盾になるだろうし」


「えっ?」


「第一、第三夫人は実家、第二夫人は民衆、あんたは陛下。

 大人しく守られてるのもいんじゃね?」



 私はその言葉に何も言い返せなかった。

 でも、ベルンハルトにただ守られてるだけ、ってのも嫌だった。


「他に、後ろ盾になってくれそうなのは無いの?」


 その言葉にハリードは目を細めた。何かを探るような目。……あまりいい気はしないなぁ。


「あるっちゃあるが、無いっちゃ無い」

「それは」

「今は教えられない。機密事項だからな」


 ニヤリと笑うハリード。

 いちいち癇に障る奴。あまり好きじゃないな。


 でも、もしも後ろ盾になってくれそうな人がいるならお願いしたい。


 これからの展望を、私は朧気に思い描いていた。


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