千夜の中の一夜
大変長らくおまたせ致しましたm(_ _ )m
ぼちぼち第二部開始していきます(*•̀ᴗ•́*)و
よろしくお願いします。
何も知らずに異国に来て。
何も分からずに複数の奥様と大多数の妾がいる王と結婚して。
あれよあれよと夕食後に侍女からおめかしされて。
寝所に薄着でぽいっとされた。
これどう見てもアレよね?
私まだ心の準備できてないんですが。
……なんて。
純潔でもないくせに。
窓から見える空に輝く月を見て溜め息を吐く。
(あああああ。こういう時って純潔を装う為の細工するんじゃなかったっけ……。あと痛そうにして……いや相手はハーレム持ちの百戦錬磨の王だしめちゃくちゃ上手いんじゃ…そしたら演技とかいらないしあなたのお気に召すまま私を食べて☆的にお任せしちゃっていいんじゃ)
なんて、ぐるぐる頭の中で考えていた。
「どうした、故郷が恋しくなったか」
「びゃいっ!?」
いつの間にか部屋に入って来たベルンハルトに、後ろから抱き締められた。
「今日は輿入れての初夜だな。俺を待っていたか?」
耳元で囁やかれる声にドキドキする。
「…別に、侍女たちが準備してくれただけなので」
恥ずかしくてつい可愛げのない言葉になってしまう。
ベルンハルトは私の髪を指先でくるくる絡ませて遊んでいた。
「気の利く侍女を持って国は安泰だな。
だが、申し訳無いが残念な知らせだ」
ベルンハルトが拘束を解き、私を自分に向かわせた。
「せっかくの初夜なんだが。今日のところはお前を抱くつもりは無い」
至極真面目な顔をしてるけど。
ん?
抱くつもりはない?
初夜なのに?
どういう事?
「お前は純潔では無いだろう?
他所の子を身篭ってないとも限らんとの宰相達の言葉だ。こればかりは仕方無い。みんな通る道だ。すまんな」
あー、そういう。
確かにどこの子か分からない子を王家に連ねるわけにはいかないものね。
「いえ。私も……愛し愛されてからしたいので構いませんわ」
ベルンハルトの眉がぴくりと反応する。
月のものが来てもやんわり断った形になったからかしら。
「俺は既にお前を愛しているからな。あとはお前が俺を愛すれば良い。
しかし。
妬けるな。お前に棲み着いて離れない奴はどんな奴なんだ?」
どかりとベッドに腰を降ろし、私を引き寄せ己の膝に座らせる。
この体勢ちょっと恥ずかしいなあ、と思いながらもポツリと答えた。
「俺様で、自信家で…、腹黒で傲慢で我儘で下半身奔放で……。
一途で不器用でヘタレで鈍感で……どうしようも無いバカです…」
「まだ好きなのか?」
「いいえ。もう、好きじゃありません。あんな奴……」
あんなやつ。
私を弄んだ最低な男。
『可愛い。ミア、可愛いよ』
アノ時の言葉を思い出して胸が苦しくなる。
思えば可愛い可愛いとは言ってくれたけど。
『好きだよ』とか『愛してる』とか言われた事無かった。
私だけ大好きで、私だけ酔わされて。
彼は常に一線引いてたと思うと悲しくなってくる。
もうあんなバカを想って泣きたくないのに、長年の片想いで実らなかった初恋で胸が苦しい。
そんな私を、ベルンハルトは自分に引き寄せ抱き締める。
「忘れてしまえ、そんな奴」
彼の甘い匂いが鼻を擽る。
簡単に忘れてしまえるならこんな想いはしてない。
本当に大好きだった。
純潔を捧げて後悔はしてない。
「責任とる」って言われて嬉しくないわけは無かった。
だけど、これ以上惨めになりたくなかった。
夫になる人が叶わない恋を抱えたまま結婚しても虚しいだけ。
いつかは忘れられる距離にいるならまだしも、相手は実の兄のお嫁さんになる人だ。
親戚付き合いで顔を合わせる頻度も高い。
ずっとぐずぐず引きずるに決まってる。
だから。
拒絶した。
ベルンハルトに対して気持ちはまだ無い。
けど、今はちょっとだけ甘えたい。
この温もりが有難くて、私は彼の胸に顔を埋めた。
「はー、勿体ねぇ。お前くらいなもんだぞ。俺が寝所を共にしてただ寝るだけの女は」
私の頭をしっかり抱き締めながらベルンハルトは言う。
つまりは寝所を共にして寝なかった女性は今迄いなかったと思えばちょっとだけムカっとする。
まぁ仕方無いよね。王様なんだし。
「不満があるなら他の夫人のとこ行けばいいのに」
そう言って背中に回した腕の力をほんの少しだけ込めた。
「そう言う事言いながら俺を離さないようにするとかお前何なの。俺をどうしたいわけ」
笑いながらもぎゅうぎゅうしてくる。
ちょっと苦しい。
でも。
嫌じゃない。
「今日は一応お前との初夜だし、他の女のとこなんか行かねえよ。暫くの結婚休暇もお前と一緒にいる。
だからさっさと前の奴なんざ忘れてしまえ」
何なの。
何でサラリと口説くのこの人は。
ちらりと上目遣いで見上げる。
ベルンハルトは自信たっぷりに笑っている。
何となく悔しくて顎にちゅってしてみた。
「もう今日は寝るわ。おやすみ!」
呆けた彼を横目に、恥ずかしくなった私は布団に身体を埋めた。
「……はぁ、ホント。暗殺者よりタチ悪いよお前…」
そう言いながら布団に入り、私を後ろから抱き締め、腕枕をしてきた。
「早く日にち経たねえかなぁ……」
身体を密着させてぼそっと耳元で呟かれて私は心臓がドキドキしていた。
背中がすごく暖かくて。
失恋で冷えた心がそこから溶ける気がした。
案外、この人がいるならこの国でやっていけるかも、なんて。
思ってしまった私がバカでした。