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失恋令嬢はハーレム王から愛される  作者: 凛蓮月
結婚する前のこと。
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最初の晩餐

 

 ホッと一息をついていたら、扉をノックする音がして返事をすると侍女が入室してきた。

 私の歓迎の晩餐が開かれるので身支度をしてくれるらしい。

 何から何まで至れり尽くせり。

 あっという間に侍女たちの手によってめかしこまれた私の前にある鏡の中には見慣れない女性が座っていた。


 茶色の猫っ毛はふわふわでくるんとして垂らされ、濃すぎないメイク、でも妖しげな雰囲気を醸し出す。

 服装もコルセットは取り払われ、すっごくスッキリしてる。

 露出は高いけど、コルセットが無いだけ素晴らしい衣装だと思う。

 胸元は大胆に、でも下品では無いようにレースがあしらわれてる。

 腰の辺りは身体のラインに沿ってぴったりとして、足にスリットが入ってるから歩きにくいことも無さそう。


 私にはちょっぴりオトナなドレス。


 ──アランが見たら惚れるんじゃない?


 なんて、未練がましい考えが浮かんだのでササッと取り払った。

 アランが好きなのは清楚な子。

 こんな、胸を強調するような、大胆なドレスじゃなくて、ぴっちりした淑女らしい、でも可愛さと美しさが合わさったみたいな、そんなドレスが似合う子。


 そんな考えをしてるからか、鏡の中の私の顔はなんだか哀しげな目をしてて。


(もう、ホント、いい加減にしてほしい)


 あんな、酷いやつ。

 色んな女の子や未亡人に誘われてホイホイ着いて行くようなやつ。

 私を愛人にならいいんだけど、とか言ったやつなんか。


 無意識にぎゅっとくちびるを引き結ぶ。

 噛み締めなかったのは唇に乗せた紅が取れちゃうから。

 その代わり、ドレスをぎゅっと握り締める。


 もういい加減忘れるんだ。


 あんな、やつ。



 そうよ、ベルンハルトを好きになればいいのよ。

 結婚するんだし。


 いや、でもベルンハルトには妻が私を入れて4人。

 そういやその他にもチラホラとか言ってた気がする。


 好きになったら、また競わなきゃいけないのかな。

 アランの時みたいに、また振り向いてくれなかったら。


 また自分が苦しいだけだ。


『愛してる』


 初めて言われた言葉。

 でもこれはきっと、他の奥さんたちにも言ってるだろう。

 私だけが特別なわけじゃない。


 自惚れちゃダメだ。



 ……そう思うのにじわじわと侵食してくるみたいに拡がってくる。


 これは、きっと。

 失恋したばかりだから弱ってるだけ。

 今の私は弱ってるから染み込んでくるだけだ。


 しっかりしなさい、ミア。

 自分を正して、姿勢は真っ直ぐ。



『辛いときこそ笑顔ですよ、ミア。淑女の最大の武器は笑顔。

 どんなに苦しくても、どんなに辛くても、笑いなさい。余裕な振りをするのよ。

 私は何でもないって顔をするの。それがあなたの武器になるわ』



 淑女教育やり直しのときにステラ叔母さまから頂いた言葉。



 大丈夫、やれる。



「第四夫人様、晩餐会場までご案内致します」


「分かりました」


 メイドの言葉に返事をして私は立ち上がった。




「ミア〜似合うわよ〜」


 部屋を出た途端、ミリアナ様に声を掛けられた。

 ミリアナ様はマーメイドラインのドレス。


「ありがとうございます、ミリアナ様」


「ん〜……姉様、がいいな」


「姉様?ですか?」


「うん。私、妹が欲しかったの。だから私のことは『ミリアナ姉様』って呼んで」


 相変わらずニコニコと話してくるミリアナ様にすっかり毒気が抜かれる。

 ショートカットでさっぱりしてる風なのになんだか可愛らしいし。

 ベルンハルトもすみに置けないよね。


「じゃ、行こっか」


「はい、ミリアナ……姉様」


 ちょっと照れるな。けど、ミリアナ姉様は嬉しそうに笑うから、いいのかな。

 それになんだかイベリナ姉様に似てる気がする。

 だからかな。親しみが持てるのは。



 晩餐会場に着くと、既に後宮の方々は席に着いていた。

 そこへ私とミリアナ姉様。

 あまり間を開けずに黒髪美人様、暫くして、ベルンハルトにエスコートされたザラ様が入場する。


「寝所発表があった時は晩餐の時に陛下と一緒に入場するのよ」


 ミリアナ姉様がこそっと耳打ちしてくれた。

 なるほど、先程ザラ様のとこに行くって言ってたからか。


「ちなみに、ザラ様は第一夫人。あちらにいる黒髪の方はフラヴィア様。第二夫人よ」


 ようやく黒髪美人様の名前が判明した。

 思わずじっと見てしまうと、フラヴィア様と目が合って、柔らかに微笑まれた。

 何だかなー、ちょっと苦手……かも?



「皆の者、揃ったか。では今日はミアの歓迎の晩餐だ。これからもよろしく頼むぞ」


「「「「はい、陛下。承知致しました」」」」


 女性たちが声を揃えていう。

 わ、私も言わなきゃなのかな?


「うむ」


 ベルンハルトは満足そうに頷くと、グラスを持ち上げ乾杯をした。




 次々と運ばれてくる料理。

 味付けはイーディス国よりちょっと濃いめ?

 でもこれはこれで美味しい。

 これから先ずっと食べる事になるだろう。

 初めて食べるのもあるかもしれない。

 残さず漏れ無く食べ尽くさなきゃ、失礼にあたるよね。



「いい食べっぷりだな、ミア」


 もくもく食べてると、ベルンハルトから声をかけられた。


「はい。とても美味しいです」


 しっかり飲み込んでから答える。


「沢山食え。おかわりもあるぞ」


「ありがとうございます」


 何だか子どもに言ってるみたいな感覚?

 ちょっとモヤっとするなぁ。


「時にザラ、急に結婚式の準備を頼んですまなかったな。だがお前の采配はいつも素晴らしい。無理言ってすまんが頼むぞ」


「……承知しております、陛下」


 わっ、ザラ様なんだか満更でもなさそうな顔だ。


「フラヴィアもザラに協力してやってくれ。お前のセンスは抜群だからな」


「ありがとうございます、陛下」


 フラヴィア様は相変わらず優しげな顔で微笑む。

 相変わらず読めない方。


「ミリアナ、ミアの世話を頼むぞ。人懐こいお前なら大丈夫だろうが」


「お任せください、陛下。早速仲良くなりましたので」


 ミリアナ姉様はニコニコだ。


 何て言うか。


 アランもだったけど、女性に対する態度が一貫してる。

 優しいように見えて、何だろう。すごく違和感。


 一人一人に労いの言葉をかけて、温かい感じはするのに、気持ちが無いような、そんな感じ。



 ちらりとベルンハルトを見てみる。

 優雅に食事を食べてる。

 目が合って、ニヤリと笑われた。


 慌ててばっと目を逸らす。


 顔だけはいい。

 でも、好きになるのはそれだけじゃないと思う。


 私はこれからやっていけるんだろうか。


 最初の晩餐は不安を芽生えさせたまま。



 あっという間に結婚式の日になった。



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