四天王VS勇者パーティー
「出たな、あれが四天王か」
魔王城に突入した俺達は、そこを守る魔物達を倒して行き、魔王の部屋の前にある広間に着いた。
広間の奥に見える大きな扉の向こうに魔王がいるらしいが、今の俺にとってはその扉が断頭台にしか見えない。
その扉を守るように噂の四天王が陣取ったいた。
剛力で全てを凪払う女オーガ、毒や幻等の魔法で相手を翻弄するサキュバス、高速で飛び回り空から攻撃してくるハーピー、強力な火のブレスを吐くラミアの四体だ。
「来たな、勇者共。ここは通さない。魔王様は私たちが守る
筋力強化 120%」
そう言い放ち、身体中の筋肉を血管がはち切れんばかりに隆起させた女オーガは背丈を超えるほどの大きな戦斧を振り回して襲いかかってきた。
LV.999の時の俺ならその戦斧の一撃を指二本で白羽取りして、なんかカッコイイセリフを言うんだけどなぁ……
『あくびが出るな、止まって見える』と『俺は弱い物イジメはしない主義なんだ。だから俺にやられた事をあの世で自慢しな』どっちが良いと思う?
これよりもっとカッコいいセリフ思い付いたら感想欄で教えて。別の作品で使わせてもらうよ。
「なら無理矢理押し通すまでだ。ここは任せて先に行ってくれ。
勇者殿には万全の状態で魔王と戦ってもらうためHPの一つ、MPの一つ消耗させない。
居合い抜き奥義 遠雷」
女オーガの一撃を女騎士は前に出てガン!! っと音を立てて火花を散らしながら受け止めた。
そこから連続で剣と戦斧は火花と爆音を携えてぶつかり合い、お互いの踏み抜く足場を陥没させている。
筋肉では女オーガが圧倒しているが、技で勝っている女騎士は上手に立ち回りながら戦斧をいなしている。
流石にLV.99の戦いてと言うべきか、LV.1の俺はその風圧に飛ばされそうになり、反射的に近くの物を掴んだ。
――ムニィ
「アンッ/// ダーリンそう言うのは全部終わってから好きなだけやりましょ」
「ちょっ、どこ触ってんのよ勇者!? 今はそれどころじゃないでしょ」
両手に柔らかい感触が来て見てみると、右手に魔女のたわわに実った豊満な胸を、左手にはエルフ娘ハンターのこの頃流行りの小さなお尻を鷲掴みしていた。
イェイ! ラッキースケベだ! って言ってる場合じゃねぇ。もしエルフ娘ハンターにいつものお約束されてたら10しかないHPが0になってたよ。多分そのまま首が飛んでいた。
その事実に気付くと興奮から一気に青ざめた。
「隙あり、毒の海に沈め!!
猛毒の帳」
そんな緊張感皆無な俺達の隙を縫って、サキュバスは部屋を充満するほど大量の猛毒をオーロラのように無差別に放出した。
さっきまでならこの毒を受けても、持ってたパッシブスキルの自己再生SSで回復が間に合うのだが、今なら1秒足らずで即死だ。
「させません!
浄化の聖光」
すかさず聖女は聖なる白い光で、サキュバスが放出した毒を浄化していく。
――あっぶね。聖女の浄化魔法が少しでも遅かったら毒で死んでた。
「灰塵にしてやる。喰らえ!
火龍の息吹き」
「あら、あなたの相手は私よ。ダーリンには手を出させない。
絶対零度」
ラミアは口から5mは超える炎の塊を吐き出し、それをすかさず魔女は同じくらいの氷の塊をだして相殺した。
熱いのか寒いのかよく分からないくらい混じりあった余波を受けて俺はくしゃみした。
二人はそのまま睨み合い、次の攻撃の準備をしている。
「消し飛べぇ!
死を運ぶ風」
次は、空からハーピーは大きく羽ばたき、ナイフのように尖った羽根を大量に複雑な軌道の風に乗せて無数に飛ばして来た。
「任せて。
矢の雨 風の導き」
エルフ娘ハンターはそれを迎撃すべく無数の矢を同時に放ち、風でそれを操った。
今この上空には矢と羽根がまるでフ◯ンネルのようにぶつかり合い、せめぎ合っている。
四人の勇者パーティーはそれぞれの相手の四天王と激戦を繰り広げる中、俺はポツンと立っていた。
流れ弾が一発当たろうものなら即死なので動けないので、何も出来ないし何もしない。
――その時
「これで決める! 破滅の息吹き」
「受けてたつわ! 灼熱地獄」
魔女とラミアの放つ最大火力の超巨大火球がぶつかり合い、大爆発を起こした。
その余波で部屋中に燃える熱風が吹き乱れ、黒煙が充満した。
当然この熱風を浴びれば即死だが……
「危ない、勇者様! 聖なる防壁」
聖女の張ったバリアに守られ事なきを得た。
「――今よ勇者。行けぇぇぇ! 風の導き」
エルフ娘ハンターの風精霊の魔法で、俺の体はフワリと浮き奥の扉目掛けて飛んでいった。
「「「「何、しまった!」」」」
部屋はまだ黒煙にまみれて視界が悪い中、四天王達の一瞬の隙をついて俺はウルトラマ◯ンのように空を飛び、彼女らを通り過ぎていく。
「あら、よそ見とは良い度胸ね。あなた達の相手は私よ」
「あとは任せたぞ、勇者殿。私達の分まで魔王をボコボコにしてくれ」
「世界を救ってください。勇者様に神のご加護があらん事を」
「絶対生きて帰ってね。私を未亡人にするんじゃないわよ勇者」
それぞれの期待を背負い俺はいよいよ魔王の部屋に突入させられた。まぁそんな重い物を背負う力はもうないんだけどね。
部屋に入ると、奥の玉座には浅黒い肌に羊のような立派な捻れた角を持つ魔王がどっしりと座っていた。
さてここからどうしようか? ぶっちゃけノープランだ。大人しく瞬殺されるのが関の山だが……
「良く来たな、勇者。早速だが世界の半分やるから平和条約結ばないか?」
何!? いきなり願ってもみない展開キター!!
俺この先生き残れそうかも。
「もちろんだとも。戦わないで済むのならそうすべき。やっぱ平和が一番。言葉が通じるなら話し合いすべきだ! ラブ&ピースだ」
昨日まで悪い魔族は皆殺しで、汚物は消毒だヒャッハーオレツエーしていたのは内緒の話だ。
手の平をドリルにして天元突破す気か? と罵しられようが生き残る為なら喜んでこの手の平を返しまくろう。
「よ、よかったぁ勇者が話の分かる人で」
魔王は何故かホッと一息ついて言った。その安心した様子に俺は違和感を覚えた。
どうして魔王は俺と会うなりそんな事を聞いた?
それに世界の半分をやろうと聞かれて、はいと答えるとだいたいバッドエンドになるもんじゃないのか?
美味しい話には裏がある。ついさっき身をもって経験したばかりだ。同じミスを犯さない為にも探りを入れてみよう。
「ちなみにどうして急に平和条約を結ぶ気になったんだ。魔王?」
「そうだな……殺し殺されの復讐の連鎖に嫌気が差したんだ。どっかでこの連鎖を断ち切らないと、どちらかが全滅するまで争うんじゃないかと思って……」
魔王は何度もアニメ等で聞いた事のある最もらしい事を言うが、正直魔王が言うセリフじゃないだろ感が強すぎて信用出来ない。
何よりその言葉に深みを感じず、行き当たりばったりで言ってるように思えた。さっきから行き当たりばったりな行動しかしてない俺だから余計シンパシーを感じた。
本当に戦いたくなくて始めから平和条約結ぶつもりだったのか? でもそれなら部下である四天王に戦わせる必要がないだろう。
使者を出して話し合いの場を設けた方が効率的だし、和平するならその方が確実だ。互いの損傷も防げる。
じゃあ何でわざわざ四天王にここを守らせた? 彼女らに命令出来ないのか? 魔王もLV.99を軽く超えてるから命令出来るはずだ。なのになぜ……?
「どうした、勇者。考え事か? で、どうなんだ?
平和条約を結ぶのか、結ばないのか?」
ずっと悩んで無言の俺を見て魔王は必死な形相で焦ったように言った。
「いや、俺も始めから戦う気はないよ魔王」
やべっ、失敗した。魔王に気圧され、うっかり言ってはいけない事を言ってしまった。
「――始めから……?」
当然のように俺の失言に魔王は引っ掛かる。
広い魔王の玉座の間でただ二人、俺と魔王はお互いに違和感を感じあい、複雑な悩ましい顔でにらめっこしている。
――そうだ! この作品のタイトルは神の玩具達だ。
【神の玩具】このワードは間違いなく、神の遊びで力を与えられたり取り上げられたりした俺の事を指す。
達と言う事はそんな奴が複数いるはずだ……
ひらめいた。この違和感の正体は――
「「もしかして、君も神にLV.1にされた?」」