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八方塞がり

「おはようございます勇者殿! いよいよこれから決戦ですね。

 露払いは任せて下さい」


「お、おはよう」


 ポーニーテールの赤髪をした女騎士の気合の入った挨拶で俺は目が覚めた。重いまぶたを開けるとルビーのように紅く光る真っ直ぐな彼女と目があった。


 白と金色を基調にした露出部が多く目のやり場に困る鎧――俗に言うビキニアーマーは女騎士の豊満で鍛え抜かれた無駄のないボディを際立たせている。

 これは俺の趣味だ。 


「悔しい事に私達はLV.99、これ以上は上がりません。それを遥かに上回ると言う魔王との戦いでは足でまといになります。

 ですがこの命に変えてでも四天王の足止めをしてみせます。なので勇者殿は安心して魔王を倒してください」


 四天王とは魔王の直属の部下でLV.99の4体の魔物達の事だ。俺が魔王と一騎打ちをして、その間彼女達が四天王と戦うと言うのが昨日立てた作戦だ。


 でも今の俺のステータスはLV.1。当然魔王に勝てる訳無い。なんなら彼女達にすらワンパンされる。


 取り敢えず仮病使って今日は休もうかな。うん、そうしよう。お腹痛いとか適当に言って、時間稼げばその間になんか妙案を思いつくかもしれない。


 そんな俺の甘い考えをブチ破る言葉を、腰まで届きそうな長い白銀の髪を輝かせている聖女が言う。


「でも勇者様、無茶は禁物です。必ず生きて帰って来て下さい。私の魔法で身も心を癒してあげますから」


「あ、ありがと。頼りにしてる」


 ――そうだったー!! どんな傷を負っても、どんな毒や病気にかかっても、ここにそれを治せる聖女が居るんだった。仮病は無理だ。


 青を中心としたミニスカートの修道服に紺色のニーソックスは聖女の大きな臀部と丁度良い太さの美脚を引き立てている。

 これも俺の趣味だ。


 でも個人的に聖女の一番の魅力はその透き通るようなウィスパーボイスと溢れでてる母性の塊だと思う。

 その大地のような包容力につられて無意識にママと呼んで我を忘れて甘えようとなった事がある。


「ご武運を祈っております、勇者様。あなたに神の祝福があらんことを」


 ――やめてくれ!! 

 聖女は神に仕える聖職者と言う設定だから悪気なく言ってるんだろうけど、()()()()と言うワードは今の俺にとってまさしく核地雷だ。


 さっき聞いたばかりの神の憎たらしい声が頭の中を木霊して回り、その邪悪さに吐き気を催した。


 落ち着け、何か別の手を考えろ! 仮病が無理ならドサクサに紛れて逃げようか?


 そんな不安そうな俺を心配したのか、エルフ娘ハンターは励ますように死亡フラグな言葉をはく。


「しゃきっとしなさい勇者!! この戦いが終わったら私達と結婚するんでしょ?」


「そ、そうだな」


 ――あ、ダメだこりゃ。ここに追跡のプロのハンターが居るんだった。素早さ12ぽっちじゃ逃げきれねぇや。


 金髪のツインテールに尖った耳、低めの身長にエルフ特有の緑の服を着たエルフ娘ハンターは貧乳だ。魔女と女騎士が巨乳で聖女が美乳の中、1人だけ貧乳なのを気にしている。だがそれがいい!

 モチロンこれも俺の趣味だ。


 最初会った時のエルフ娘ハンターは人里離れた森育ちで、人間が嫌いでいつもツンツンしてた。だが、一緒に冒険をして打ち解けてく内に立派なツンデレに進化したのだ。


「フフフ、流石のダーリンでも魔王には少しビビってるみたいね。

 でも大丈夫よ。私達が付いてるから。背中は任せて安心して前だけを見ていなさい」


 三角帽子から垂れるウェーブのかかった茶髪を風に揺らしながら魔女は言った。着ている黒いローブの胸元は大きくV字型に開いており、そこから女騎士に負けないくらいの谷間を覗かしている。

 その出で立ちはまさしく妖艶な魔性の女と言う雰囲気が似合う。

 全部俺の趣味だ。


 魔女は俺が転生してから初めて出会った人で、魔法やこの世界の事を教えてくれた、先生兼相棒のようなポジションだ。

 付き合いが一番長いせいか、魔女は俺の事をダーリンと呼ぶ。


 ヤバい、何してるんだおれ? 自慢の彼女達を丁寧に紹介してる場合じゃないだろ。


 仮病もダメ、逃げるのもダメ。詰んでないかこれ?

 いっそ神に力を奪われたって真実を告げようか? でも、こんな彼女達に役立たずと罵られて、追放されるくらいなら死ぬ方がマシな気がした。


 ハッハッハ、もう笑うしかないや。成るようになれ、なんくるないさ~


「むっ、勇者殿が笑っている!? 武者震いを超えて笑っておられる。魔王と戦うのが楽しみで仕方ないのか!」


 ――違うよ女騎士、これは全てがどうでも良くなった諦めの笑いだよ.


「モチロンですとも。これでこそ私達の憧れる最高の勇者様です」


 ――憧れは理解から最も遠い感情だよ聖女。


「フン、ようやく良い面構えになったじゃない。私が励ましたおかげよ。私達の勇者は強くてカッコいいんだから!」


 普段ならこんな可愛いい事を言ってくれたエルフ娘ハンターに、嫌がられながらも抱きついて頭ナデナデして高い高いするんだが、今は頭痛と吐き気が止まれねぇ。


「うんうん、じゃあ決着をつけに行くよダーリン!

 世界の平和を守る為に」


 ――いやぁー、誰か止めてくれー!


 こうして俺は結局何も出来ず、ドナドナと魔王城に出荷されていった。



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