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4.表と裏

「ありがとう、これで君も俺たちの仲間入りだ。歓迎する」

 そういって何度目かの握手を交わす。手からは人間らしい暖かさ、そして安心感が伝わってきた。


「さて、一区切り終わったことだから軽く交流会といきますか!」

 トンっと膝を叩いてアンクは立ち上がった。

「交流会?」

「そうだ、広間で男女二人を見ただろう?あの二人がカルトの同期、これからの仲間になる。ある程度仲良くなってもらわないとな」

 そういいながらドアノブを回し廊下に出て、振り返った。

「こちらに両隣に一つづつ扉があります。どちらかが男、もう一つが女の子の部屋、さぁどっちを選ぶ?」

 アンクはつられるように廊下に出て、左右を見た。

 どっちって言われてもなぁ。情報がないから選びようがないんだよなぁ。て言うか、女の子が先でも男が先でも緊張するから……

 適当に答えればいいのだが、逆に迷ってしまう。なんでもいい何か決め手になるものは……と探すが面白いほどに左右対称の廊下であった。

 ふと右手に感触が残っていることに気づく。握手したときのほのかな熱が選択を促すようであった。

「じゃあ右で」


 舵を右に向け歩みを進める。数メートルの距離の移動。目が覚めてから二度目となる人との対面。一歩ごとに緊張感が高まった。

 コンコン、とアンクのノックの後一人の男が扉から覗いた。

「アンク、来たのですね。おおっ、その子がアンクのベイシーですか。僕はレイ・クラリス、そこの彼のベイサーです。よろしくお願いしますね」

 と言って部屋の中に目線を一度送る。

 丁寧な口調で出てきたのは男としては少し長めの黄緑色の髪の毛男性……と言うよりは、青年の方が近いと感じる体格や顔立ち。決して弱々しい体ではないのだがアンクと比べると身長、体格共にアンクに及ばないように思われた。アンクが良すぎるのかもしれないが。

 だが、カルトにはレイでも、部屋の中の人物よでもなく、またもや現れた聞きなれない単語に引っ掛かった。

「あっ、まさかアンク、説明し忘れてるんなんてことないですよね?」

 少しの戸惑いの間を感じたレイが呆れたような目をアンク向ける。

 一方のアンクはやってしまった、と言うように目を手で覆った。

「もういいです、僕から伝えるので。ごめんなさカルトくん、頼りなくて」

「いえいえ、アンクさんには助けてもらって、感謝しかないです」

 良くできた子だ、といって説明を続けた。

「僕やアンクにはカルトくんみたいな新人を補助する役割がありまして、一人前になるまではペアとして活動するんです。その役割の呼び名として僕たちをベイサー、カルトくん達をベイシーと呼ぶのですよ。」

 なるほど、先生と生徒みたいなものかな。これからの活動をサポートしてくれる、まだまだ不安が残る身としてはありがたいことだ。

「全く、何度忘れたらアンクは気が済むんですか」

「ごめんごめんって、他は完璧だよ……たぶん」

 だぶんって、と言って呆れ、ため息をつく。

 包容力のあるようで少し抜けているところもあるみたいだ。


「じゃあ、レイ、俺はこれから用事があるから少しの間カルトを預かっといてくれ」

「え? これからだと言うのにどこへ?」

「外せない用事だ。すぐ戻るよ」

 うまくやれよ、とだけ言い残しアンクは行ってしまう。

「まぁいい、紹介しますよ。彼はオスト・ファルニス」

 慣れているのか、レイは素早く切り替えて中へと案内する。

 176cmほどだろうか、レイと比べると高めの身長、キリッとした目付きは睨まれてるのか真顔なのかわからなくなる。紺に近い髪を短く切り揃えており、読んでいた本を閉じてこちらを凝視した。こちらに向ける目線は鋭く、敵意はなくともすくんでしまう。

 えっ睨まれてるの?なんで?初対面だから何かしたって訳じゃないはずなんだけど。

 こちらの奥を見通すような瞳、思わず背け笑い誤魔化したくなるがなんとか表情を引き締める。

 数分だっただろうか、先に緩んだのは相手であった。口角をあげ満足したように笑った。

「はははっ、十分だ。これからよろしくな、カルト」

 なにかがオストのなかで自己完結したのだろう、それをカルトは知ることはないのだが。

 突き出された拳をあわせ、骨からの振動で相手との友好の印を交わす。

「で、交流会ってなにするんだ?」

 オストがこちらに言葉を投げる。だが、あいにくカルトもわからなかったため二人の視線はレイへと向いた。

「うーん、自己紹介とでも思ってたんですがそれも難しそうですよね」

 何より名前以外のことがわからない。どうしても一往復で終了してしまう。

「レイ、なんか言い感じで時間潰してくれよ」

「そういわれましても……話の種はあまり持ち合わせてないもので」

「まぁいいや、無言の時間も悪くない」

 今さらだが、オストとレイの何気ない会話でオストの少し無遠慮な言葉遣いが気に留まる。本来の立場では逆であるべきなのだが、それをレイは受け入れている。

 一方のオストもそんな言葉のなかにもしっかりとレイへの敬意が現れている。

 先ほどまで読んでいた本をオストが動いてレイに返す。このひとつのアクションのなかにレイへの礼儀がある。

 ほんの少し前に、あったはずの二人の間に早くも信頼関係が築かれつつあった。



 そう少しも経たないうちにこの部屋に二度目のノックが響く。開かれた扉からアンクの巨体が……と思っていたのだが、現れたのは真反対のかわいらしい少女、といっても年はアンクと同じく17歳程だろうか。白髪に光を照り返しながら、こちらへ微笑む。顔に少し緊張感も見えたが、突如現れた一輪の花に部屋の雰囲気は華やいだ。

 後ろからも少女より大人びた女性が現れ、レイと話しているようだった。

「私はセグレナ・モカレット、後ろにいるのが私ベイサーのエルナト・カレヌスよろしくね」

 清楚な容姿から放たれる声。それはそよ風のような優しさで耳のなかを優雅に流れていった。

 男どもは、急に現れた宝石に対応できるわけでもなく、見とれるだけの沈黙がつづいた。

 それを破ったのは、後ろのセグレナと紹介された女性の意味ありげな目線。セグレナと比べてしまうからだろうか、大人の女性らしい艶やかさがでている。

「私のベイシーに見とれるのは仕方ないとして、するべきことを忘れたらいけないよ」

 自分達が失礼なことに気づき。カルト、オストともに意識が戻され、慌てて名乗った。

「よろしくな、セグレナ」

 きちんと名前は呼んだつもりだった。だが、セグレナからの反応はなく、もしや間違えたのではと思い尋ねる。

「セグレナ……であってるよな?間違ってたらごめん」

「いやいや、あってるよ。私はセグレナ・モカレット。んー、なんて言うかあんまりしっくり来ないと言うか、かわいくないと言うか」

「この心は?」

「カルトにオスト、みんな三文字なのに私だけ四文字だし……濁点あるし……」

 恥ずかしがりながらも、言葉を紡いでいく。

「改名……するの?」

「そこまでではないんだけど……」

 女子の悩み、その大半は正解などないのだろう。慣れてなどいないカルトが頭を悩ます。しかし、そのなか隣で手を打つ音が聞こえた。

「あだ名ってのはどうだ」

「それそれ!」

 眉を寄せていたセグレナの顔に笑顔が戻る。

「じゃあ、セグレナの下二桁とってレナではどうだろう」

「桁って言うなよ」

 オストの突っ込みが飛んでくるが、レナは気に入ってくれたようで、目を輝かせていた。




 カツカツ……

 廊下の暗闇に足音だけが吸い込まれていく。人がいないのか、城が広すぎるのか、人とすれ違うことは少ない。

 皆と別れ、アンクは一人ある場所に向かっていた。マニュの自室は城内中心部からは離れた位置にあるため長距離の移動。

 城の上層中心部、とりわけ周囲よりも豪華な扉の前に立った。メイドへ用件を伝え、入ることを許可される。

 アンクの自室の何倍ほどだろうか、大広間まではいかないものの一人の自室としては広すぎるほどの部屋。その中心にそれにふさわしい人物が優雅に紅茶をすすっていた。

「失礼します、女王殿下。アンク・レドルドであります。」

「いらっしゃい。プライベートに時間を裂いてもらって申し訳ないですね。とりあえずこちらにどうぞ」

 そういって、女王自らもうひとつの椅子をひく。

「いえ、それには及びません。わたしはそのままで。」

「遠慮しないで、今日は正式な場じゃないんですから、そんなに堅くなられてしまったら、私が落ち着けませんわ」

 そこまで言われれば、これ以上断るのも逆に失礼だと思い、厚意に甘える。

「あの件ですね?」

 もう一口紅茶をすすってから、話を切り出す。

「はい、先ほど彼の件に一段落つきました。異常なく一つ山は越えたかと。」

「そう、よかった。あなたには面倒をかけてしまいましたね。本当にありがとうございます」

「いえ、わたしは殿下にお仕えする身です。なんなりとおっしゃってください。ただ……」

 アンクは言葉を詰まらす。地位が高いにもかかわらず、女王殿下の物腰は柔らかく、寛容であるようだが、言葉一つ一つに注意しなければいけない。

「よかったのでしょうか? 失礼ながらこれは褒められたことではないでしょう。お気持ちわからなくもないですが、もし知られてしまえばわたしはともかく女王殿下が」

「すでに知られているでしょうね」

「えっ」

 予想外の展開に焦りを出してしまう。

「あの人……国王陛下には」

「落ち着いているようですが、大丈夫なのですか?」

「たぶんですが、あの方から漏れる心配はないかと。それにもう止められることじゃありませんから。」

 女王が目を背ける。不安、心配あるものの後悔は感じられない。自分のしたことに強い決心も持っていた。

「本当に何もなかったのですか? ほんの些細なことでも構わないのです。あの子のことを知っていたい、見ていたいのです。他人が言うこととしてはおかしいのですがね」

 ふふっ、と自分への嘲笑を向ける。

「関係ないことかもしれませんが、名前を思い出す時に一度強い頭痛があったようで、すぐに収まったのでとりわけ言うことではと思ったのですが」

「普通ではないと?」

「少なくとも私の時はなかったですね。エルナトや、他のマニュからも聞いたことはありません。個人差の範疇だと考えてはいるのですが、引き続き報告します」

「よろしくお願いします。あなたにはこれから苦労させてしまうでしょう。全て私の個人的な希望、これの責任は私がとります。ですから、どうか……」

「お任せください。命にかえてでも」

ここまでお読みいただきありがとうございます。


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