3.リスタートライン
メルクス王国はコルナト淵樹海に囲まれた三国のうちの一国。
昔からこの三国は昔から領土争いを繰り返し、幾度となく大規模な戦闘が繰り広げられた。それによる死者や荒れ果てた土地などは数えきれない。征服され不当な扱いを受けることを避けるため、自分達が生き残るために。
だがそれは国家間の話で、人や物資は盛ん行き来している。一国のみの産業では経済がうまく回らず、対立しながらの交流はすでに暗黙の了解になっている。また、国民同士も大半の人は友好的で交流の機会も多く持っているという。もはや国家のみでの対立なのである。
この世界における戦闘は数ではなく質が重視される。魔術が発展した世界において素の人間などはホコリ同然。一万人が束になろうと魔術の前では一瞬で残骸へと変化する。そのため、一般市民に徴兵を命ずるのではなく、どれだけ魔術に長けた人を集められるかに重きをおくようになり、国家間での戦闘は数人の精鋭同士の戦いへと収束した。
長年、各国は自らの目的のため、強兵に努めてきた。本来は家系や稀に現れる魔力適正の高い人物を育成していくのが一般的であったが、メルクス王国は魔術適正の高い人間を意図的に製造する方法を見つけ出した。国中から残留魔力のついた品々を集め、それを魔術により人化させている。
「そしてそれらはマニュと呼ばれ、メルクス王国において国力を左右する重要な兵力となっている。……カルト、こんな感じでどうだろうか」
カルトは自らの名前を見つけたあと、アンクから現状の説明を受けた。
「俺は物から作られた存在…………といわれましてもね」
一回は国王から受けた説明、だが何度受けても信じられないというようにカルトは自分の手や足をつまんで感触を確かめる。
「今では人間と同じさ、皮膚、骨、間接とかほとんどが人間。違いを見つける方が大変さ」
「すごいですね。自分が証拠であるって言うのになかなか信じられません」
「そりゃそうだ。信じられないことをやってのけるこれが魔術の力なんだよ。まぁそれをした俺の力でもあるんだけどな」
誇らしげにアンクは言ったが、カルトは違う方へ興味を持った。
「そうだ魔術! どんな感じなんですか?」
男の性というべきなのかどうしても魔術という言葉には反応してしまう。
アンクは触れられなかったことに落胆しながらも、質問に答えた。
「今回使ったのは<生命の書 第三頁 リライフ>。これは無機物から新たな生命を生み出す魔術。それを受けた君は無機物から生まれた有機物ってわけだ。」
ここでやっとカルトはあることに気づいた。
「ああ、だから記憶がなかったんですね。むしろ記憶がある方がおかしいですよね……ん?」
解決と入れ換えにまた新たな疑問が浮かんだ。
「でも俺しゃべれますよ。言語も自分達が人だってことも、こればベットって言う寝具だってこともすでに知ってます。記憶がないならこれはなんなんです?」
ベットをトントンと叩きながら尋ねる。
「人間ってのはある程度人格ができてないと人間的活動において影響があるそうだ。見た目は大人で知性は赤ん坊だったら大変なことになるだろう? だからリライフはただ単に生命を与えるだけでなく、素材や術士から基礎情報をコピーするんだ。」
「じゃあ俺がこうやって会話できてるのもアンクさんの情報が含まれてるからなんですね。」
「そゆこと、カルトは優秀な人材になれるぞ。なんたって俺がベースなんだからな」
冗談なのか、根っからの自負なのか、それをスルーしながらカルトの中から疑問は消えていく。その顔からはある程度不安の要素は消え去っていた。
「ということでだ。納得した早々悪いがあの件答えをいただいてもいいか?」
あの件とはおそらくこの国での傭兵の件だろう。戦うことになれば人の命を奪うこともあるだろうし、命の危険も付きまとうだろう。だが断れば強行策。それが抹殺なのか強制服従なのかはわからない。この選択肢も軽々しくは取れないのだ。
どちらの選択にも躊躇いがあり、だが一つを選ばなければならない。これから歩む道を決める大きな選択に迷いを持たずにはいられなかった。
「悪い、やはり少し早かったな。こちらが急ぎすぎた。もう少し考えてくれてもいい。納得した解答をくれ……」
撤回し少し猶予をくれるようだったが、その言葉を遮り、決断を下した。
「いえ、やります」
目をしっかりと見て、決意を伝えた。急かされたからではない。迷いながらでもどこかで深い決心はしてたのだろう。
確かに人を殺すのは褒められることではないし、したいとも思わない。だが、ここで断って自分の身を危険に晒しにいく必要はない。殺せと言われてもその行為の善悪の決断はその都度すればいい。それに、奪うだけではない。もしかすると助けられる命もあるかもしれない。自分が持っている可能性、その使い道を捨てるのはもったいないと思う。
合理的な考えをもって出された答え。それにアンクは強い意思を感じ取った。意思力、判断力、自分を信じる心、どれもがアンクの心を振わせた。
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