1.覚醒そして困惑
強い衝撃と共に、俺の意識は覚醒した。
「ぐっ……」
何が起こった?!
だが、状況を確認する前に全身に異変を感じた。心臓が激しく脈を打ち、血が全身へと送り出され、通ってなかったところへ新たに血が通う。神経も敏感になっているので、血流をはっきりと感じる。それは体内を虫が駆け巡るような感覚。吐き気がするほどの気持ち悪さであるが、それを感じるより先に全身に痛みを感じた。
「っ!」
声が自然にでてしまうが、それは上手く声にならない。
腹の中で何かがうごめくように内蔵が作られていく、骨と間接も上手く動くようになっていくが、それに痛みが伴う。
それはほんの少しの間だったのかもしれないが、終わりの見えないトンネルを歩くように長く感じられた。
何度か意識が飛びかけ、何度も終われと願った。
流れ落ちた汗が床に突いた手に落ちる。なんとか深呼吸ができるぐらいに落ち着き、ようやく俺は顔をあげ周囲を確認できた。
ここはどこかの広い部屋だろうか。装飾、周囲の人の服装などから、豪華な場所だとわかる。
玉座に座った男が平然とこちらを見下ろしていた。四十代後半ぐらいだろうか、少し年のいった顔立ち、染めているのかもしれないが、白髪のない茶髪で、もしかするともう少し若いのかもしれないが。だが、こんな状況を動じることなく見物し、罪悪感の何も感じていない。ただ、何ともわからない重さがびしびしと伝わってくる。
俺はつい無意識に目を背けてしまう。
その他に、両隣には女性と男性が一人ずつ、裸に毛布をかけられている状態で座り込んでいた。同じく自分も同じ状況であることに気づく。女性の方はまだ荒く息をたてていた。一方、男性の方は、息も落ち着いている、周囲の様子も確認できているようだった。
あっ……
目があった。だが、何をする暇もなく太い声に意識を持っていかれる。
「よく耐えて、我が呼び声に応じてくれた、マニュ諸君、感謝しよう。聞きたいことも多くあると思うが、まず服を準備したので着替えてほしい。ご案内しろ」
玉座の男の声だ。はっきりと通る声。
それを受け従者らしき人がこちらに向かってくる。三人それぞれに一人づつ、こちらに手を伸ばし立つのを助けてくれた。状況はいまいち掴めないが、とりあえず従おうと思う。
足に力が入らなかったのだが、肩を貸してくれ、なんとか別室へと向かった。更衣室に案内され、服を着替える。
その最中、案内してくれた人は外に待ってくれているようなので、布越しに声をかけてみた。
「お手伝いありがとうございました。今僕はどんな状況にあるんでしょうか」
「…………」
「これからどうなるんですか」
「…………」
だが返事はなかった。
まずは自分なりに考えてみた。最後の記憶をたどる。しかし、記憶の端を掴ませてくれることはない、それだけでなく自分人生の中のどの記憶が見つかることはなかった。記憶を消されたことも考えたが、手がかりをない今は判断ができなかった。
とくかく服を着て外へでる。服はフリーサイズなのか少しゆったりとした服装だった。
そして彼の顔を見た。覗き込むように見たが、フードを被っていたため、口元しか見えず、また何か声をかけてくることもなかった。
再び、広間に戻った俺たちは立ったまま、玉座の男の話を聞いた。他の二人も同じような服に身を包んでいた。
「改めて感謝する。マニュ諸君、私は国王グラム・ヴァイアスである。今諸君達が置かれている状況について説明しよう。君達はマニュと呼ばれる魔法によって命を与えられた存在である。呼び出したのは我らであり、その目的は君達の戦闘能力である。つまり、君達には我が軍の兵士として戦闘に参加してほしい」
そう国王に説明されるが、いまいち実感わいていない。マニュ?兵士?自分のこともいまいちわかっていないのだ、そんなことを言われてもピント来ない。他の二人も同じようで、慌ててる様子も抗議する様子もない。
だが、もっと続くであろうと思われた国王からの説明は最後の一言を残して終了した。
「してほしい、とはいったものの君たちに拒否権はない。こちらとしても強行策は望まない、よく考えて了承してほしい」
それだけいって国王は退出していった。
とにかくよくわからなかった。不十分な説明に、強制的な要望、そんなので理解できるわけがない。
更なる情報を求めようとするも、可能な人はいない。
途方にくれるかと思っていたとき、更衣室に案内してくれた人が声をかけてきた。
「今から部屋に案内する。混乱していると思うがついてきてほしい」
初めて聞いた声、男らしい声ながらも優しさを含んだ声、物腰のやわらかな言葉遣い、先程の国王とは違った雰囲気であった。
困惑の中にいた俺は、その声に引かれるように、あとをついていった。
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