これはいつの日かの運命
黒い水を含んだ曇天の下、顔を曇らせた少年が歩みを進めていた。不規則な迷いのある足取り、その中には葛藤があるように見えた。
沈みゆく意識をかろうじて保ちながら、体を制御する。これ以上足を踏み出さないように、これ以上進まないように。たが、その努力もむなしく、足は内なる者、いや内にいた者によって動かされる。体は既にそいつに占拠され、五感、意識はほとんど残されていない。
ポツッと、一滴の水滴が落ちる。それにつられて、水滴が群になっていく。
うつむいていた顔をあげられると、雨粒が顔に降り注ぐ。目に入っても今は構っている状態ではなかった。
どうして、こう気分の沈んでいるときは雨が降るのだろう。でも今なら都合がいい、雨は手についた血を洗い、雨の音は悲鳴を掻き消し、雨でぼやける視界は眼下に広がる凄惨な光景から目を背けさせてくれる。
今までに何度か意識が飛ぶことがあった。その度に必ず足元に死体があって、顔は返り血に濡れていた。何があったのか、それが明確に表現されているのにも関わらず、自分にはどうしようもなかった、そう言い訳し、目を背ける。これ以上死者がでないように、早く止めてくれと願いながら。
できるだけ歩幅が小さくなるように、一秒でもあの城につくのを遅くなるように無意識の力に対抗する。だが、瞬きすら管理できないのだ、足を遅くすることはなかった。
消えかけた聴覚がもう一つの足音を聞いた。ずっしりと地面を踏みしめる聞きなれた足音。
消えかけた視覚が一つのシルエットを捉えた。
ずっと追いかけていた姿。そして一番来てはしくなかった人。足が止まる。
……ああ…………嫌だ……
相手が腰を落とし戦闘体制へ入った。
……嫌だ…………嫌だ嫌だ嫌だ……
だんだんと意識が遠ざかる。自分の体は突っ立ったままで戦闘姿勢はみられない。だが、また意識が戻った時に眼下に広がっているだろう光景を察し、必死に拒絶する。それは、自分の死ではなくーー
…………殺したく……なかった……
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