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第7話 生徒会役員

 入学式から数日経っていたが、特に何事もなく穏やかに日々が過ぎている事に、レティシアは安堵していた。

 ある日の放課後、レティシアとアルフレッドとプリシラは一年生ではあるが生徒会室に呼ばれていた。

 その訳は、学園に入る前から交流があり仲良くしている者達が揃っている事もあって、少し話そうとジルベルトが三人を呼んだのだ。


 生徒会長であるジルベルト、副会長のアラン、会計と書記を兼務しているプリシラの兄でフォレスト侯爵家嫡男のミカエル、父親が騎士団長を務めるマルクス公爵家次男で庶務のオスカーが、生徒会室では待っていた。

 彼等は、未来のジルベルトの側近候補でもあった。


「漸く、この顔ぶれで学園で過ごせるね」


 ジルベルトは、にっこりと笑みを浮かべながらそう言うと、その言葉に頷きニコニコしながらオスカーが三人へ近寄る。

 そして、レティシアとプリシラへ色気を含んだような笑みを向けた。


「でも、本当に三人とも大きくなったよね~

 最近は、忙しくてなかなか三人に会えなかったけど、レティシア嬢もプリシラ嬢もこんなに成長して、すっかりレディだね

 俺のお嫁さんになって欲しいぐらいだよ」


「おい、(レティシア)を口説くな!」


「プリシラ、危ないからオスカーから離れなさい」


 アランと、ミカエルは各々自分の妹達をオスカーから離そうとする。


「二人とも酷くない?その対応

 親友の妹と、遊ぼうなんて考えないよ

 俺が嫡男だったら、遊びではなく真剣に婚約者に、って求婚するんだろうけど、俺はスペアだからさ

 流石に、由緒あるハーヴィル家やフォレスト家の一人娘が、そんなスペアの俺の所へ嫁ぐ訳にもいかないしね

 そもそも二人には、立派な婚約者がいるのに手を出す訳がないじゃないか

 だから、そんな睨まないでよ殿下

 本気で殿下の婚約者を、口説いた訳じゃないんだからさ?」


 オスカーの言葉に、ピリッとした鋭い視線を向けていたジルベルトは、溜め息を一つつく。


「オスカー

 そんなに軽い振る舞いをしていると、何時か痛い目をみる事になるよ

 冗談だとしても、レティへそのようにお前が接する様子は、私は見たくはない

 それに、お前は次男といえども、剣や武術に関してはマルクス騎士団長を凌ぐとも言われているんだ

 自分の事を、そんな風にスペアだなんて言わない方がいい」


「痛い目かぁ、それは嫌だな~

 それに凌ぐって言われているの事は、俺へのおべっかだよ

 俺の後ろにいる父上へ取り入る為の、道具に過ぎないんだよ俺はね、俺以上におべっかを使われている相手は兄上だろうけど

 次男の立場って難しいと思うよ、兄上より目立っても駄目、劣っても駄目、自慢の弟でいなければいけないからさ

 兄上にとっては、俺は恥ずかしい弟なんだろうけどね

 ね、アルフレッド殿下はこうも優秀な兄上を持ってさ、考える所はない?

 っていうか、この発言って不敬な発言かな?

 取り消させて貰えると嬉しいかな、ははは」


 終始笑顔で話すオスカーに、レティシアはここしばらく彼とはあまり会う事もなかったせいか、以前のオスカーの雰囲気とは全く違うように感じた。

 レティシアが、オスカーと幼い頃に会っていた頃は、中性的な容貌で同い年の幼馴染みのなかでは背丈も低かったが、現在は背が高くなりジルベルトやアランと同じくらいの背丈に成長していた。

 オスカーは、ブロンドの髪色に空色の瞳の中性的な容貌から、男性的な顔付きになり、体つきも今でも細身ではあるが騎士の家系らしくしっかりとした筋肉がついているような風貌に変わっていた。

 ただ、レティシアが感じた違う雰囲気とは、このような外見が成長し変わっただけでなく、内面も変わってしまったように感じたのだ。

 以前の彼は武術が大好きで、無邪気や天真爛漫というような言葉が似合うような雰囲気だったように思うが、今の彼は軽い口調で話す振る舞いが、かえって作られたような姿に見えた。


 少しの時間生徒会室で過ごした後、ミカエルとプリシラは家で用があると先に二人で帰宅し、オスカーも同じように先に帰宅していた。

 ジルベルトとアランが、生徒会の事で少し時間がかかるというので、レティシアとアルフレッドは先に馬車停めまで向かう事にすると伝えると、渋るジルベルトをアランは呆れながら宥めていた。

 レティシアとアルフレッドが、馬車停めまで向かう為に歩いている学園の廊下は、放課後という事もあってか、生徒達は家や寮へ帰っており人気がなかった。

 生徒会室で感じた違和感を、レティシアはポツリと呟く。


「あのね、オスカー様って何かあったのかしら?」


「オスカー?

 オスカーに何かって……、何でだ?」


「何が、って言われると、どんな言葉にしたら良いのかわからないのだけれど、王城でお会いしていた頃のような雰囲気と、今日の雰囲気が少し違ったように感じたから……」


「違う? 昔からオスカーは、あんなような軽い振る舞いをしていたじゃないか?」


「そうだとは思うのだけれど……

 さっき感じたのは、何か……無理矢理明るくしているというか……」


「何が違うのか俺は気が付かなかったが、レティが何か違うと感じたのは俺達がオスカーに会っていなかったこの月日の間で、オスカーも色々と考える場面があって日々を過ごしていたからなのだと思う

 それに、何となくオスカーの言っている事も、わかる気がする」


「わかる?」


「二番目はスペアだって言っていた事だよ」


「え……?」


「この国では、何か特別な事情がない限り、正妻との子であれば生まれ順で、生まれたその日から立ち位置が殆んど決まってしまう

 別にそれが不満だとかそういう事を言いたい訳でも、一番目の立ち位置に付きたいだなんて思った事もないが……

 それでも、自分の存在意義は何処にあるのだろうかと、時折考える事は俺もある……」


 アルフレッドの心の中の影を覗いてしまったように感じ、アルフレッドの溢した言葉にレティシアは、思わず言葉が出てしまった。


「アルもオスカー様も、スペアなんかではないわ!

 掛け替えのない大切な一人の存在よ

 誰かの替わりでなんかない……

 だから、そんな事を言わないで!」


「…………っ……

 本当に……お前はいつもそういう事を言うんだよな……」


(いつもお前は……、誰もが持っている心の中の傷を無意識に癒してくれるんだ……だから──)


 レティシアの言葉に、アルフレッドは表情を緩め、彼女の頭を撫でようと手を伸ばしかけた時──


「私は、アルの事をスペアだなんて思ってはいないよ」


「兄上……」


 後ろから聴こえた声は、ジルベルトの声であった。

 アルフレッドは、伸ばしかけた手を静かに下ろす。


「二人へ伝えなければいけない事があって、追い掛けてきたら

 そんな事を話しているのだから

 アル、お前の事をスペアだなんて、私は一度も思った事はないよ

 お前は掛け替えのない、大切な弟だ

 これからも、この王国をより良くする為に、お前と力を合わせていかなければならないと思っているのだから、もっと自分に自信を持ってくれなければ駄目だよ」


「それは……わかっているよ……

 ただ、オスカーの言葉がわかるような気もすると、話していただけで……」


「そうか」


「それより、俺達に伝えたい事って何だよ?

 兄上が直接伝える為に追い掛けてくるなんて……」


「それだけど、アランとの生徒会の仕事が少し長引きそうだから、二人は私達を待たずに、先に帰っていいと伝えようと思ってね」


「え……そんな事を……わざわざ……?」


(その程度の内容なんて、侍従やメイドや護衛に言伝てを頼べば済む話じゃないか……何で兄上がわざわざ──)


 アルフレッドは、ジルベルトの表情に兄が自分に伝えたかった事が、別の事であると気が付いた。


「レティ、本当は君の事をハーヴィル家の屋敷まで私が送りたかったのだが、一人で帰す事になってごめんね」


「えっ!?

 そ、そんな事は気になさらないで……、大……丈夫

 もう、子どもじゃないのだし、ひとりで帰れるわ

 お兄様にも、そう伝えておいて……、くれ……、る?」


 他の生徒もいない場で、口調をどうしたら良いのか狼狽えるレティシアは、ジルベルトから自分へ向ける強い気持ちのはいった視線を向けられて以前と同じような親しげな口調で答えた。

 その事にジルベルトは、満足気な表情を浮かべる。


「アランにも伝えておくよ

 次は屋敷まで私に送らせて欲しいな

 アル、そういう事だからレティを馬車停めまでしっかり送ってくれるとありがたい」


「それは、当然──」


「だけどね、もうアルも幼い子どもではないのだから、自分の婚約者でない令嬢に、気安く触れる事はあまり良くない事であるから気を付けた方がいい」


「……っ…………

 そんな事は……わかっている……」


「わかっているならいいんだよ」


 アルフレッドは、にっこりと笑みを自分へ向ける兄が、わざわざ自分達を追い掛けてきた真意を確信した。


(兄上は、俺に忠告しにわざわざ追い掛けてきたんだ

 どちらかというと、俺には昔から兄上は甘かった

 俺の欲しい物を察すると、自分が持っているものなら譲ってくれ、なければ探してまで手に入れてくれた

 だけど……、この世界に一つだけしかない、この唯一の存在は絶対に渡す事は出来ないと……

 欲しいと思う事すら認めないと……

 そうなんだよな?

 凡そ欠点なんて見付ける事すら出来ないこの目の前の存在は、俺にとって憧れや、尊敬という感情を物心つく頃から、強く抱く存在であった

 自分と比べる事すら馬鹿らしくなるくらい完璧なこの存在に、敵うものなんて俺には一つもなくて、そしてそれは自分にとって家族以外に大切だと思えるような相手すらも、兄上の手中にあるなんて……)


 何ともいえない様々な感情が交錯するような感覚を、アルフレッドは覚えた。


ここまで読んで頂きありがとうございます!

ブックマークありがとうございます!



作者の覚書


オスカー·マルクス

マルクス公爵家の次男。父親はこの王国の騎士団長。ジルベルト達と同い年で古くからの友人。

ブロンドヘアに空色の瞳でジルベルトと同じくらいの長身に細身でありながらもしっかりと鍛えられている。

生徒会では庶務の役についている。

軽い雰囲気で周囲と関わっている。



ミカエル·フォレスト

プリシラの兄でフォレスト侯爵家嫡男。

プリシラと同じヘーゼル色の髪色と瞳で眼鏡をかけている。

ジルベルト達と同い年で彼も昔からの友人。

同い年の友人同士である四人の中では一番背が低い。

生徒会では会計と書記を兼務している。



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