最終話 重なり合う二人の想い
ルドガーが城を離れた後、レティシアとジルベルトは王城にある二人の思い出の池の畔へ、二人で一緒に訪れていた。
ジルベルトはその場に座りながら、まだ複雑な表情を浮かべるレティシアを、後ろから包み込むように抱き締める。
「レティ、まだ不安な事がある?」
「ジル……
これで……、良かったのかな?」
「これでって……? 彼の処遇の事かい?
本来なら、もっと厳しい処遇であるべきではあるのだろうけれど……
それは君も望まなかったし、私も様々な点から考えてあの処遇がいいと納得した
だからもう、君が彼に対して、そんなに思い悩まなくとも良いんだよ
後は彼の国が、彼への対応をどうするのか考えるだけだからね
それよりも、レティ……」
「え?」
ジルベルトは、レティシアを抱き締めながら自然な流れで自分の膝の上へ彼女を座らせ、彼女をさらに強い力で抱き締めながら問い掛けた。
「彼に対して、君が伝えた言葉を今も覚えているかい?」
「伝えた言葉……?」
「『自分は彼が知る物語の登場人物ではない』って、言った言葉」
「うん」
ジルベルトがレティシアの首もとに顔を埋めた事に、ピクリとレティシアは身体を揺らした。
「君も、もうあの物語に囚われていない?」
「え……?」
「序章にすぎなくとも、君が予言書かもしれないと不安を感じたあの書物の結末への不安は、もうない?
あの書物の中に登場する悪役令嬢のレティシアと、この世界の現実の君とでは、全く違う存在だと思えるようになった?」
ジルベルトが言わんとすることは、レティシアにもわかった。
後ろから自分の胸元に回されているジルベルトの腕をギュッと握った瞬間、首もとに顔を埋めているジルベルトは更に頬や唇を彼女の首筋へすり寄せた感触に、レティシアの身体は大きく震えた。
「………っ……、ジルっ…………っ……
……不安が全くないといったら、嘘になっちゃうけれど
それでも、あの書物の結末のようにはなりたくはないし、あの書物の中の自分と、同じような振る舞いはしたくはない
私は、まだまだ自分を変えていかなければいけないと思っているけれど、私は私で作られた物語の登場人物ではないって、今は強く思う」
「そうか……、うん……
それなら、レティがこれからも不安を感じないよう、私も君の中にある不安を消していってあげる
私は君へ、惜しみ無く永遠に愛を捧げていくよ……
私が君以外など眼中にないことを、嫌っていうほど教えてあげるから覚悟して?
レティは、作られた存在なんかじゃない
たった一人しかいない、私の掛け替えのない存在であるのだよ」
ジルベルトが自分の首筋の所で話す度、その熱と吐息にビクリとレティシアの身体が反応し揺れる。
その時、チリッと首筋に痛みが走った。
「……っ!? え……?ジル……?」
「こんな印だけでなく、早く……全て私のものに出来たら……、少しは安心できるのに……」
「安心? 何……? ジル?」
ジルベルトは、レティシアの首もとから少し顔をあげると、彼の方へ顔を向けていたレティシアの唇へ自分のそれを重ねた。
口付けの合間に、ジルベルトはレティシアへ問いかけるも、その返答を聞く前に再度彼女の唇を塞ぐ。
「私はレティだけしか見えていないから、だからレティもよそ見はしないでくれる?」
「………っ……よそ見なんて……んっ……」
「君は本当にわかっていないんだから……」
ジルベルトは、レティシアへ口付けを落としながら様々な事を頭に思い浮かべていった。
(………君の周りには、どうしてこんなにも様々な男達が群がるのだろうね……
ルドガーのあの目、あれは完全に引き下がった者の目ではなかった
アルの事もあるし、オスカーもだ……、それに他の者達の目も……
婚約者にしただけじゃ本当に安心出来ない……
そんな事、君は全く考えもしないのだろうけど……)
何度も繰り返されるジルベルトの口付けが漸く途切れると、息を荒くしたレティシアはくたりと、ジルベルトの胸元に必然的に凭れ掛かる。
そんな彼女の髪の毛を梳くように、ジルベルトの指先が動く。
その動きがとても気持ちが良く、レティシアを安心させた。
ジルベルトの表情をぼんやりと見詰めていたレティシアが、ポツリと言葉を溢す。
「私……、もっと……ジルに相応しいって、周りからも思ってもらえるようになりたいな……」
「君以外に私に相応しい存在はいないよ」
レティシアは、じっとジルベルトを見詰める。
「レティ?」
「ジル……、何か不安に思っているよね?」
「え?」
「瞳が揺れてる
ジルは不安があっても、あまり外には見せないけれど、それでも私、気付いたの
瞳を揺らしている時のジルは、何か不安を隠しているって……
私じゃ、頼りないかもしれないけれど……
でも、ジルが不安を溢せるような、すこしでも寄り掛かれるような、そんな存在になりたいと思う
そんな存在になれるように頑張るから……
だから……、私の前では我慢しないで欲しいの」
そんな言葉を言ったレティシアに、ジルベルトは胸を掴まれたような感覚を感じた。
「君って子は……
どこまで、私の事を甘やかすのだろうね……」
「え……?」
ジルベルトは、またギュッとレティシアの事を抱き締めた。
「君の前では格好つけたくとも、つけられない……
おそらく、これからも君へ弱音を溢す事が沢山あるかもしれない
そんな私でも変わらずに、傍にいてくれる?」
「うん
だって、ジルはいつも私の事をそうして支えてくれるじゃない
私もジルの事を支えたいから……
私のほうこそ、ずっとジルの傍にいさせて欲しい……」
(君は……、その言葉がどんなものよりも、私にとって嬉しい言葉なのか知っているのだろうか……?
どんな事があっても、君が嫌だといったとしても、もう二度と離しはしないから……
私だけの妖精姫……)
「レティ……愛しているよ」
「私も……愛してる……」
レティシアは、ジルベルトに抱き締められながら想いを伝え合い、そして思う。
(この奇跡のような、お互いの気持ちを通じ合わせられている今に感謝しかない……
臆病な自分が、この幸せをあの時に自分から手放してしまっていたかもしれないと思うと、恐怖しかない
あの日、あんな書物の物語に振り回されて、彼の元へ婚約解消を告げた自分を叱咤したい
そんな私の事を見捨てないでいてくれた彼には、いくら感謝の言葉を言っても足りないくらい……
どんな事があっても、前を見詰めていく強い気持ちを持ちたいと今は強く思うの……
ジル……、本当にありがとう……
ずっと、愛しているわ)
───この幸せがずっと続きますように……
fin……
R2.7.21
ここまで読んで頂きありがとうございます!
ブックマークもありがとうございます!
誤字脱字報告もありがとうございます!
これで、このお話の本編は終わりとさせて頂きたいと思います。
不完全燃焼な終わり方でありましたら申し訳ありません。
主軸としていた『今生きている自分』を認めてあげるという事でこんな終わり方にしました。
まだ、他のキャラクターで中途半端になっているようなキャラクターもいたり……アルフレッドやオスカーのような……
でも、そのキャラクターの心情も取り入れてしまうと、さらにダラダラしそうでしたので、ルドガーの一件が終わったここで一先ず区切りを付けました。
レティシアとジルベルトの二人は、番外編として少しエピソードを入れたいとは思っておりますが……まだ溺愛が入れ足りないので……
他のキャラクターに関してのエピソードは、このままこの物語の続編を作っていくのか、他の作品にしてしまうのか、自分の中でまだ定まっておりません。
幾つかエピソードはあるので、それを纏めてみてどうするのか考えたいと思います。
でも、このレティシアのようなヒロインの話に続編は需要があるのかわかりませんが……
なんせ、後ろ向きキャラなので……エンディングでは少し改善されたのかな?
お話が無事にエンディングをむかえられたのも、皆様のおかげだと思っております。
沢山の方にサイト内に多くある小説の中から、このお話を見付けて足を運んで頂き感謝しかありません。
感想、評価ポイント、ブックマークも沢山頂きありがとうございます!
誤字脱字も多く文章も読みにくかったと思います。誤字脱字報告もとても助かりました!ありがとうございます!
本当にどうもありがとうございました!
自分の中にあるエピソードを入れた番外編を投稿するまで、まだ連載中とさせて頂きたいと思います。
番外編の投稿は少しお時間を頂くこと先にお伝え致します。
投稿するさいは活動報告でお知らせしますね!
R2.7.21 一ノ瀬葵




