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第6話 隣国の王太子

 教室へ移動したレティシアとアルフレッドは、教室内に記されている自分達の席へ足を進めた。

 レティシアは、自分の席が気心の知れたアルフレッドと近かった事にホッとする。

 その時、レティシアを呼ぶ声に視線を上げると、レティシアが本音を言える存在のうちの一人がいた。


「レティ! 良かった!

 レティと同じクラスになれて」


「プリシラ」


 レティシアへ声を掛けたのは、ふわふわとしたヘーゼル色の髪を揺らし、髪色と同じ瞳を持つフォレスト侯爵家令嬢のプリシラ·フォレストで、レティシアとは幼い頃から仲良くしているレティシアが気を許せる友人の一人である。

 プリシラの兄も、ジルベルトやアランと同い年であり、幼い頃から兄妹でよく交流をしていた仲であった。


「学園のクラス分けは、家の爵位順ではなくて能力試験の成績順だという事で、レティと同じクラスになれるか心配だったのよ」


「私もプリシラと同じクラスになれて嬉しいわ

 私は仲の良いお友達が少ないから、不安だったの」


「レティであれば、能力的にアルフレッド殿下と同じクラスになれる事は確実でしょう?

 だけど、私はレティ程、学力や魔力がずば抜けて良い訳じゃないから、試験前とっても頑張ったのよ

 それでも10位ギリギリで、お兄様からは呆れられたわ」


「そんな事……、でも本当に、小さい頃から仲良くしてくれているアル……っ、で、殿下やプリシラと同じクラスになれて良かった」


 レティシアの言葉に、アルフレッドは不服そうな表情をレティシアへ向ける。


「レティ、敬称で呼ばなくていいといっただろ?」


「で、でも……、他の方々もいるし……

 愛称で呼ぶ事は……」


「アルフレッド殿下、レティの言う事も一理あるかもしれませんよ?

 まだ婚約者のいないご令嬢の方々は、殿下から声を掛けてもらいたい方々が多いですからね

 レティが気安く殿下へ声を掛けていると、レティへのご令嬢方の敵視が増えてしまうかもしれませんわ」


「敵視……」


「レティが、殿下の事を愛称でなく殿下と呼んでいる姿は、わたくしも違和感がありますけれど、女という生き物は幼い子どもであっても恐いですからね

 内輪だけでない場では、公的な場でなくとも、デビュー前ですが社交が既に始まっているのですよ」


「成長するという事は、面倒な世界に足を踏み入れる事だな……

 レティから殿下呼び……、違和感しかない」


「あ、あの……、アル殿下……だったら、少しは違和感ない?

 で、でも、やっぱり敬称を付けても、愛称呼びであったら不敬だと思われるかしら……?」


「仕方がないな……

 教室の中や、他の生徒のいる前ではアル殿下で手を打ってやる」


 そんな不貞腐れたような表情で、言葉を発するアルフレッドにレティシアはふわりと安堵の笑みを浮かべた。


「話は変わりますけれど

 わたくし、能力試験の首席はアルフレッド殿下であると思っておりましたが、本日発表された成績順位を拝見しまして驚きましたわ

 あ……、今のお話がご無礼でありましたら申し訳ありません」


 プリシラの言葉に、アルフレッドは一つ息を吐く。


「別に、無礼などではないが……

 まぁ、当然の結果だと思う

 国は違えども、王太子と第二王子でしかない者では、習得しなければならない事の量も、内容の濃さも全く違うからな

 これで、留学先とはいえ第二王子である俺に学力も魔力も負けるようであるなら、産まれ順ではなく実力を第一に求められるといわれているラノン王国の国王は、王太子の座を他の王子へ変えるかもしれない」


 その時、入り口から少しざわめきが聴こえてきた。

 今、まさに話題にしていた、ラノン王国の王太子であるルドガーが入室してきたのだ。

 紅い髪色に、髪色と同じ瞳を持つ長身のルドガー·ラノンは教室内を一度見渡すと、アルフレッドを見付けたようで、入り口からアルフレッドの元へ足を進める。

 座って話していたアルフレッドとレティシアにプリシラは、立ち上がる。

 レティシアとプリシラは、綺麗な淑女の礼(カーテシー)をルドガーへ向けた。


「アルフレッド王子、留学期間中学園でも仲良くしてくれるとありがたい」


「こちらこそ、ルドガー王子と学園でも交流出来ることを嬉しく思います」


 手を差し出したルドガーとアルフレッドが、握手を交わした後、ルドガーは淑女の礼(カーテシー)を自分へ向ける二人へ目を向けた。


「貴女方も顔を上げて楽にしてください

 アルフレッド王子、こちらのご令嬢方を自分にも紹介して頂けるだろうか?

 先程、貴殿と楽しそうに話されていましたね」


「ええ

 二人は、自分と幼い頃から親しくしている令嬢であります

 我が国の宰相のハーヴィル公爵息女である、レティシア·ハーヴィルと、財務大臣のフォレスト侯爵息女である、プリシラ·フォレストです」


「アルフレッド殿下からご紹介頂きました、レティシア·ハーヴィルと申します

 殿下と同じ時に同じ場所でご一緒に学べる事、光栄にございます」


「同じく、アルフレッド殿下からご紹介頂きました、プリシラ·フォレストと申します

 殿下のご高名は、我が国でも耳にしておりますわ

 そんな殿下にお会い出来、幸せにございます」


「オーガストラ王国で、沢山の事を学べる事を自分も楽しみにしているんだ

 こちらの学園の方針として、学園内では身分は関係なく交流をしながら学ぶ事を重視していると聞いている

 だから、俺にも気安く関わってくれると嬉しい

 これから宜しく」


 気安い雰囲気で、二人へ笑みを浮かべるルドガーに、王族である気品を感じながらも、身分を感じさせない取っ付きやすさをレティシアは感じる。

 そんな事をぼんやりと考えていたレティシアへ、アルフレッドと話していたルドガーが、此方を時折気にしているような雰囲気をレティシアは感じとった。

 自分が何か無作法をとってしまったのかと、不安を覚えるレティシアへ、ルドガーは笑みを向け言葉を発した。


「留学という形でこちらへ来たが、こうして話せる相手が出来て嬉しく思うよ

 これでも、友人が出来るか緊張していたんだ

 レティシア嬢、君の事はよく知っているよ

 ようやく会えて嬉しい」


 そんな事を言ったルドガーに、今初めて会った自分の事を彼に話した相手は一人しかいないと、レティシアは思った。


「あの……、(わたくし)の事はジルベルト殿下から、お聞きになっていたのですか?」


「ああ、君とジルベルト王子との間柄もよく知っている」


「まだ……、周知前ですので……

 正式なご挨拶が出来なく、申し訳ありません」


「いいんだよ

 まだ、周知前であるからね

 そんなに俺の前では緊張しないでほしいな

 これから交流も増えると思うし、もっと気楽に接して欲しい」


 レティシアはそういうルドガーへ、ふわりとした笑みを向けた。

 彼は隣国の王太子であり、さらに現在は我が国へ留学しており、学園では同じ学年の同じクラスだ。

 このままジルベルトとの婚約の話が進めば、彼との関わりが多くはなるのだろうと感じた。


 そんな時に、視線の先に自分の今一番危惧する存在が目に入る。

 ルドガーもアルフレッドも、そんな表情を強張らせたレティシアにすぐ気が付いた。


「レティシア嬢? どうかしたのか?」


「レティ? やっぱりまだ具合が悪いんじゃないのか?」


「あ……、いえ……

 お見苦しい所をお見せして、申し訳ありません

 大丈夫ですので……」


「取り敢えず、座った方がいい

 顔色が真っ青だ」


 そう言って、レティシアの背に手を触れようとしたルドガーより先に、アルフレッドがレティシアの肩を寄せて椅子に座らせた。一瞬、ルドガーへ鋭い視線を向けたアルフレッドは、表情をすぐに変え、笑みをルドガーへ向ける。


「ルドガー王子、そろそろ講師も来ると思われますので、こちらは大丈夫です」


「………そうか……

 レティシア嬢、あまり無理しないようにね」


「ありがとうございます

 ご心配おかけして申し訳ありません」


 ルドガーがその場から離れ、アルフレッドの後ろの席へ座ると、少し不機嫌なアルフレッドにレティシアは首を傾げる。


「あの……

 どうか……したの?」


「お前は本当に無自覚すぎ……

 それに無防備すぎるし……」


「え?」


「レティ、大丈夫?」


「あ、プリシラにも心配かけてしまってごめんね

 私は大丈夫

 プリシラも、そろそろ自分の席へ戻った方がいいわ」


「うん、また後でね」


 手を振りレティシアの元から離れるプリシラへ、すれ違いざまにおじきをした存在は、成績順で割り振られている席へ座る為にレティシアの前の席へ来ると、レティシアへ笑みを向け制服のスカートを摘まみ礼を向けた。

 この国の仕来たりで、初対面で爵位が下の者は上の者が言葉を発するまで話す事は出来ないとされている。

 しかし、学園内では爵位は関係なく交流する事となっているので、レティシアの目の前の存在はレティシアやアルフレッドが言葉を発する前に、挨拶を始めた。


「はじめまして、エリカ·シュタインと申します

 これから宜しくお願い致します」


「あ……、レティシア·ハーヴィルと申します

 こちらこそ宜しくお願い致します」


 反射的にレティシアも立ち上がり挨拶をした時に、急に立ち上がったせいなのか、目の前の存在へ緊張したからなのかわからないが、ぐらりと身体が揺れた事に後ろにいたアルフレッドは慌ててレティシアを支えた。

 そして、そのままレティシアを椅子へ座らせる。


「お前は座っていろ! また、倒れるぞ!

 ……シュタイン嬢、宜しく」


「アルフレッド殿下と同じクラスになれるなんて、光栄でございますわ」


 レティシアは、愛らしい笑みを浮かべたエリカを見て、握りしめていた手のひらにじっとりと汗をかいている事が自分でもわかった。

 この先、自分に待ち受けている運命はどんな事なのだろうかと、大きな不安を感じながら……


ここまで読んで頂きありがとうございます!

ブックマークありがとうございます!



作者の覚書


プリシラ·フォレスト

レティシアの幼い頃からの友人。

小柄でヘーゼル色の髪色と瞳。

プリシラの兄はジルベルトやアランと同じ年であり友人同士である。


ルドガー·ラノン

オーガストラ王国へ留学している隣国(ラノン王国)の王太子。

入学の際の適性試験ではアルフレッドを抜いて首席をとる。

赤い髪色と瞳を持ちジルベルトと同じくらいの長身でがっしりとした体躯。


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