第57話 混同する記憶
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『だから、今流行ってるの!
悪役令嬢がヒロインで、その悪役令嬢の窮地を救って愛してくれる王子様が現れるようなネット小説とかが!
この本も、ネット小説から書籍化した本なんだって!
馬鹿にするくらいなら、暇潰しに読んでみればいいじゃん!』
───これは誰だ? 誰の言葉だった……?
『読んだ? 馬鹿に出来ないでしょう?
悪役令嬢じゃ、なくなったシアみたいな女の子がいたら男的にはどうな訳?
やっぱりルドガー王子みたいに、全力でどんな時も守ってあげたくなる?
まぁ、この小説は女子の煩悩みたいな話だけどね
それより、お兄、今度の試験勉強教えてよ!
私ね、いつも友達から羨ましがられるんだよ?
お兄、みたいなお兄ちゃんがいていいねって──』
───ああ……、俺の妹か……、あいつに勉強を教える約束をしたのに、この後俺は………
あいつ……、俺が死んで泣いたんだろうか……
約束も守れないで、妹を泣かせて……
自慢の兄じゃなくて、最低な兄だったな……
親にとっても、先に死ぬなんて最低な子供だ……
───そうだ……、死んだ筈なのに以前の記憶を持ったまま転生って、訳がわからない状況でずっと混乱していた俺は、あの日見付けてしまったんだ。
両国の友好条約締結記念日に、オーガストラ王国を初めて訪れていた幼かったあの日……
『父上……、あの子は……?』
『ああ、この国の宰相であるハーヴィル公爵の長女であるレティシア嬢だな
この国の王族の遠戚でもあるそうだ
この国の王子達とも親しいようだと、昨夜の宴席で国王が言っていたな
お前と同じ年齢らしいぞ、まだ三歳になったばかりといっていたからな』
『レティシア……………、シア……』
───見付けた……、俺のこの生前の記憶が妄想なんかじゃないっていう、証拠を……
以前の俺を、肯定してくれる存在……
そう、強く思ったんだ。
まだ幼く、生前の記憶をそのまま持っている事に混乱して、許容量を越えそうであった己の精神を支えてくれる存在が、確かに居たと……
その存在に、強く縋り付きたかった。
そして、自分の知っている小説のシアと、彼女は同じだと決め付けた。
本当の彼女の事を知ろうともせずに、ただその存在を追い求め……
そうでもしないと幼い精神は、以前の記憶もあるっていうこの訳のわからない現状に、崩壊しそうだったから……
君が俺の傍に居たら、この今の現状を俺は受け入れられる。そう、思ったんだ。
だから……、シアをこの国まで迎えに来たのに───
────…………
そんな様々な記憶や感情が、ルドガーの頭を駆け巡る。
今まで、自分がそれだと信じ続けて進んでいた道筋が間違いだと言われるように、己の行動をジルベルトから指摘され、縋っていた細くて脆い道筋が、消されたように感じ混乱していたのだ。
そして、そんな混乱した感情が破裂するのは必然であった。
「彼女は、俺のシアだっ!!
お前のものなんかじゃないっっっ!!
今すぐシアの側から離れろ!
お前は、シアを死に追いやる悪魔であるのに!
彼女を守るだなんて、そんな大嘘をよくつける!!」
突然大声で喚き散らし始めたルドガーの様子に、その場に居た者は表情を険しくする。
ルドガーの後ろで控えていたオスカーとミカエルは、乱心したようなルドガーを制止する為、剣に手をかけようとする事をジルベルトは止めた。
ルドガーは、そんな周りの状況など見えていないかのように、レティシアにだけ視線を向け言葉を溢す。
「シア……俺達は結ばれれば幸せになれるんだ……
そういう結末なんだよ……
目を醒ましてくれ……
そして、俺の事だけを見詰めてくれよ……
でなければ、俺は……、こんな世界で以前の記憶を持ったままでどうするんだ?
シア……」
今まで周囲に見せてきたような、ルドガーの堂々とした姿ではなく、縋るような言葉でレティシアへ請うような目を向ける彼の姿を見て、彼女には今のルドガーの不安定な心情が伝わってきた。
ルドガーには、恐ろしい目にも沢山合わされたが、そんな姿を見せる目の前の存在を、レティシアは見て見ぬふりなど出来なかった。
そんなレティシアの態度は、他人から見れば偽善と取られてしまうかもしれないが、レティシアの性格上どうしても出来なかったのだ。
「ルドガー殿下……
貴方は以前の記憶を持ったまま、見知らぬ世界に誕生した事が怖かったのですか……?」
「この世界が怖い……?
そうじゃない……、俺は……」
「……前世という過去のご自分が、本当に存在していたのかどうなのかが、わからなくなる事が怖かったのですか……?」
「シアと共に幸せな結末に辿り着く事が……、妹が薦めてくれた小説の結末だったから……
その真実があれば……、この二つの記憶が混同する気持ち悪い感覚も受け入れられるって……」
レティシアは、この目の前で今にも心を壊しそうな脆い存在が、今まで周囲へ見せていた畏怖をも感じるような姿の存在と、同一人物だと思えないくらいであった。
しかし、今、ルドガーの口から溢れ落ちた言葉は、彼の本心であるのだろうと思った。
そして、ルドガーがあんなにも自分へ執着していた理由は、彼の中で二つの記憶が混同し混乱する中、自分の精神を壊さない為の縋り付きたくなる程の支えだと思って、信じ続けていたからなのかもしれないと伝わってきた。
何故だかレティシアの脳裏には、ラノルの花の栞をくれた時のルドガーの微笑みが思い浮かぶ。
あの微笑みは、打算からの微笑みだったのかどうなのかは、今ではわからない。
しかし、あの柔らかな笑みは、ルドガーの心からの本当の微笑みであったのではないかと思う。
生前の記憶があった為に、周囲が理解出来ないような行動に出てしまっただけで、本来の彼であるなら今のルドガーのような行動はとらなかったのではないかと感じた。
この世界は作られた物語ではなくて、皆別々の感情を持ち其々の人生を生きている現実の世界であるのだという真実を、再度言葉で伝えてしまったら彼は壊れてしまうかもしれない。
しかし、聖女のように自分を犠牲にしてまで、彼を支えようと考える事は自分には出来ないとレティシアは思う。
レティシアは、胸が締め付けられるように苦しくなりながら、「自分の幸せを選んでごめんなさい」と、ルドガーへ小さく呟いた。
「ルドガー殿下……
それでもわたくしは、ジルベルト殿下と未来を歩んで行きたいのです
ルドガー殿下の信じる未来には、わたくしは一緒に参ることはできません
わたくしは、ルドガー殿下が知る物語のレティシアではないんです
そして、今のルドガー殿下も物語の登場人物ではなく、現実に存在するのです
前世という記憶の存在も、今のルドガー殿下も、真実なのだとわたくしは思います
だから、今のご自分を認めてあげてください……」
なんて利己的で薄っぺらい言葉なのだろうと、レティシアは自分のルドガーへ掛けた言葉に複雑な思いを感じた。
こんな言葉を貰っても、ルドガーの心が救われる事はなく、ただの綺麗事でしかない言葉であると……
レティシアは、自分はルドガーの支えになんてなれないくせに、こんな綺麗事を言っている自分は、偽善者だと罵られても仕方がないと思う。
そんなレティシアの心情を表情から悟ったのか、ジルベルトはギュッと彼女の手を握りしめた。
ここまで読んで頂きありがとうございます!
◇作者の呟き
ルドガーの心情の語りと、本来の物語の流れを合わせてしまい読みにくい部分もあったかと思います…申し訳ありません……
さて、今回の話でルドガーがどうしてレティシアにそこまで固執していたのか?という理由を語らせました。
作者的に巷に沢山ある転生物の小説を読んでいて、登場人物はわりとあっさりその事を受け入れているものが多いけれど、実際自分の身に起きたらどうなのだろうか……と、考えたのがきっかけで、それが今回のこのお話の元になっています。
転生した場所が今生きている世界と同じであれば、混乱しつつも受け入れやすいのかもしれないけれど、異世界へなんて転生してしまったら簡単に受け入れられるのだろうか……とも、思ったりもしたのです。
他の作品にケチを付けるつもりはなく、単なる私の一つの考えなのですが……お気を悪くされた方がいらっしゃったら申し訳ありません……
転生物の小説は私自身大好きで色々と読み漁っております。
そういう考えから、今回のお話では転生した事をなかなか受け入れられない状態の存在を作ってみたのです。
それが、ルドガーで今までの彼の行動は全て受け入れられない現状を受け入れる為、そして自分の精神をギリギリ病まないようと踠く為に自分の中でこの世界とそっくりな登場人物がいた小説に固執しているという心理から行動していたというように描いていきました。
そういうこともあり、恋愛ものにも絡めたかったので敢えて転生したのは敵役になるルドガーにしました。
また、小説とレティシア達のいる世界は別物という事も表現したかったので、小説と本物のレティシアの性格は全く違う性格にし、悪役令嬢になれないような性格にしたのもその理由の一つです。
悪役令嬢という言葉すら存在しない世界で、悪役にもなれないような気弱な性格である事から題名の横にある副題にそのようなレティシアの疑問のような言葉を取り入れました。
そんな、副題も含めてのネタばらしでした。
皆様の想像どうりでしたでしょうか?
エンディングまで残り僅かになるかとは思いますがもう少しだけお付き合い頂けると嬉しいです。




