第53話 変わりたいと願う気持ち
次の日の朝、いつも通り王室の紋の入った馬車が、ハーヴィル家の屋敷のエントランス前に停まった。
中からは、朝日に照らされたプラチナブロンドの髪の毛を輝かせている存在が降りてくる。
その存在の姿をレティシアは見詰めた。
「おはようレティ」
「ジル……おはよう」
レティシアの手を握り、彼女が馬車に乗る事をジルベルトはエスコートする。
昨夜は、話がある程度まとまった後、遅い時間ではあったが渋るジルベルトをなんとか説得し、レティシアは護衛を伴い両親とアランと共に屋敷へ戻ってきていたのだ。
「アランは、先に学園へ行ったのかい?」
「ええ……」
レティシアが馬車の座席に座った事を確認すると、ジルベルトは馬車へ乗り込み彼女の向かい側へ腰をおろした後、御者へ出立の合図を送った。
レティシアは、目の前のジルベルトの事をじっと見詰める。
そんなレティシアの視線にジルベルトは気が付くと、彼女へ笑みを返した。
「レティ、どうかしたのかい?
先程から私の顔を見詰めてばかりで、今日は大人しいね?」
レティシアは、ジルベルトから視線をそらす事なく口を開いた。
「エリカ様を何処に連れていかれたのですか?」
突然の思ってもいないレティシアの言葉に、ジルベルトは困ったような表情を彼女へ向ける。
「レティ、突然どうしたのだい?
シュタイン嬢が何処かにいってしまったかのような言葉だが、どうしたというのだ?
シュタイン嬢の居場所を、何故私に聞くのかな?
そもそもシュタイン嬢を何処へ連れて、って私は昨日、君とずっと一緒に居たであろう?」
レティシアは、ジルベルトから視線を外す事なく、彼を見据えたまま再度口を開いた。
「いいえ
貴方以外思い当たりません
エリカ様をどうされたのですか?
ルドガー殿下」
レティシアの言葉に、ジルベルトは表情を消して彼女へ目を向ける。
「私はジルベルトだよ
どうして、ルドガー王子だなんて、そんな事を言うのかな?」
レティシアは、ギュッと自分の手を握りしめると再度強い眼差しで目の前の存在を見詰めた。
「私には、アルフレッド殿下のように魔力で人を判別したり、幻影魔術を見破るなんて力はなく、そんなことはできません
だけど、目の前の存在が幼い頃から見詰め続け、慕ってきた相手であるのか、そうではないのか気が付かない程度の想いの寄せ方はしてはおりません
ジルベルト殿下の小さな癖まで、覚えているぐらいです
貴方が馬車から降りてきた時から、ジルベルト殿下ではないとわかりました
そして、馬車に乗り込んでからの幾つかの仕草で、目の前の存在は、違う人間がジルベルト殿下に模しているのだと確信致しました
そこまで精巧に姿を変えられ、尚且つそのような姿で私の事を迎えにくるような事をする人物は、ルドガー殿下しかおられないと思ったのです」
レティシアの言葉に、暫く口を開かずにいた目の前の存在は「くくく」と、突然笑いだした。
そんな姿にも、レティシアは視線をそらす事はなくじっと見据えていた。
「想いの大きさで、魔術を見破ったと言いたいのか?
君は、俺が知っているシアの性格と比べて、君と話すようになってからずっと違和感があり、引っ掛かっていた
何故、こうまでも俺の知っているシアと違うのだろうかとね
まぁ、過保護に育てられ、面白味のないような性格であるとは思ったが、それ以上に思い入れは深かったし性格も許容範囲ではあったから、それでも良いかとは思ってはいた
だが、やはり俺が惹かれた面も持ち合わせていたのだな」
魔術を解いたのか、ジルベルトの姿からみる間にルドガーの容姿へ変化していく様を間近で見たレティシアは、怯みそうになる。
強い気持ちでいなければ、目の前の大きな威圧感の存在から逃げ出したいという気持ちになったであろう。
しかし、強い気持ちを持ち彼から目をそらす事をしなかったが、無意識に指輪をお守りのようにギュッと握りしめていた。
「それにしても、昨日あんなにも自分が慕うのはジルベルトだと豪語していたのにも関わらず、あいつでないとわかりながら、何故この馬車へ乗り込んだ?」
「エリカ様が、昨日学園から帰宅していないという報告を知りました。
学園にも姿はなくて、行方がわかっておりません。
恐らくエリカ様の居場所を知っているのは、ルドガー殿下だけだと思ったのです
だから……」
「それだけで?
自分の身を危険に晒してでも、彼女の居場所が知りたいと思ったのか?
たかが、クラスメート一人の為に?
しかも、相手は君が警戒している俺だ
ここまでの経緯からも、彼女が俺と何らかの関わりがあると思わなかったのか?」
「自分でもそう考えました
けれど、見過ごせなかったのです
もし、エリカ様がルドガー殿下と何も関わりがなく、万が一にでも何か彼女にあったなら、関係のない人を私が関わっているこの事態に巻き込んでしまうなんて、あってはならないと思ったのです
だから、自らルドガー殿下に直接尋ねたいと、名乗りをあげました」
レティシアは、ルドガーから視線を反らさずに語った───
昨夜、レティシア達は、アルフレッドからエリカの行方がわからなくなっている事を、王城へジルベルトと共に着いた時に知らされていた。
そして、ルドガーが王城に居ない事と何か関係があるのではないかという事に、その場にいた者は皆そう感じた。
その後レティシアは、人払いをした国王の執務室で自分達も含めた数名で話し合っていた時、次にルドガーが自分へまた接触する事があるならば、そんなに時間を開けずに接触するだろうと思い、その時に真意をルドガーから聞き出したいと、自ら名乗りを上げたのだ。
その事に、怒りを露にしたのはジルベルトであった。
───昨夜の国王執務室で……
『何を君は言っているのだ!!』
怒りからか、ジルベルトは珍しく声を荒げ口調も荒々しくなる。
『ジル落ち着け』
『アランっ! これが落ち着いて居られると思うのか!?
アランは、今のレティシアの言葉を受け入れるというのか!?
私は絶対に反対だ!
何故、君が一人の令嬢の為に、そんな危険の中に飛び込まなければいけない?
そんな必要などないだろう!
彼女の捜索は、騎士団を使えばいい!
君が自ら出ていく必要などない!』
『……わかってる
ジルが私の事を心配してくれている気持ちも、私がでしゃばって足手まといになるかもしれないという事も
だけど、もしかしたら無関係なエリカ様を、この事に巻き込んでしまったと考えたら……
私の自己満足なのかもしれない
それでも、私でも何か出来る事があるならばって思ったの』
『私は反対だ……』
『ジル……、ジルは私に教えてくれたじゃない
この国の民を守りたいって……
ジルの婚約者として、私も同じ気持ちなの
エリカ様だって、この国の大切な民の一人よ?
王太子であるジルの婚約者になった私の一件に巻き込んでしまったのに、知らないふりはしたくないの
これからは……、守られるだけではなくて、私もジルの大切なものを一緒に守りたいって強く思ったの
だから──』
『君はわかっているのか?
君のその考えは、私の一番大切な者を危険に晒すということを……
そうなった時に、私がどうなってしまうのかという事を理解しているのか!?』
そんな言葉を、ジルベルトから強い眼差しで見詰められながら掛けられた時に、レティシアは自分の考えは自己満足で、短絡的な考えかもしれないと思ったが、それでも自分は変わりたいと強く思った───
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