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第51話 素直な気持ち

 レティシアの私室から侍女のエマが外に出てきたのと、ジルベルトがその場に訪れたのは同じであった。


「レティの侍女の……エマであったかな?

 レティの様子はどう?」


「あ……、は、はいっ……

 あの………、今朝よりも……幾分穏やかな表情をしておいでかと感じました」


「そうか……

 今、レティと話す事は出来る?

 レティの私室に入る事は、公爵家嫡男であるアランの了承は得ているよ」


「お嬢様に、お声掛け致しますね」


 レティシアは私室でエマが整えてくれたデイドレス姿で、鏡の前でぼんやりと自分の姿を見ていた時に、エマから声を掛けられる。


「お嬢様、ジルベルト殿下がお越しなのですが……

 扉をお開けしても宜しいでしょうか?」


「え……? ジルが?

 あ、大丈夫よ」


 エマが扉を開け、ジルベルトが顔を見せた。


「着替え中にごめんね

 レティと少し二人きりで話をしたいと思ったんだ

 一応アランの了承も貰ったのだけれど、部屋へ入っても構わないかい?」


「ええ、それは勿論大丈夫よ

 エマ、お茶の用意をお願い出来るかしら?」


「はい、畏まりました」


 エマがお茶の用意を終えて部屋を出ると、レティシアの私室にはレティシアとジルベルトの二人きりとなる。

 居室に置いてあるソファへと座ったジルベルトが、自分の隣を叩いてレティシアを呼んだ。


「レティ、ここに座ってくれると嬉しいのだけど」


 願いを乞うような表情で見詰めてくるジルベルトに、初め戸惑っていたレティシアもジルベルトの願いに逆らう事など出来なく、躊躇しながらも彼の隣へ腰をおろす。

 人が一人分空いているくらいの距離をとって、座ったレティシアとの距離が気に入らなかったジルベルトは、彼女の腰に手を回すと自分の方へぐいっと彼女を寄せた。


「そんな離れた場所では遠いよ」


「えっ!? ジ、ジルっ!?」


 寄せられた反動で、レティシアはジルベルトの胸元に倒れ込んでしまう。その時、仄かに香ってきたジルベルトの香りに、トクンとレティシアの心臓が跳ねる。

 顔を染めながらも、すぐ離れようとするレティシアをジルベルトはギユッと抱き締めた。


「あ、ジル……、あの……」


「怖かっただろう?」


 ジルベルトの言葉に、レティシアはコクリと小さく頷く。

 ジルベルトはレティシアを抱き締めながら、彼女の頭を何度も優しく撫でた。


「君に何もなくて本当に良かった……」


 ジルベルトの気持ちが、レティシアの心に染み入っていく。

 そして、レティシアは自分の素直な気持ちを口にした。


「でもね……怖かったけれど、ジルが助けに来てくれて、安心したし……

 それに、あんな緊迫している状況で不謹慎だとは思うけれど、ジルの言葉がとても嬉しかったの」


「私の言葉?」


「ジルが、私の『力』ではなくて、私自身を望んでいるって言ってくれた言葉……

 私……、ずっとジルの事を、私が持っているこの『力』で縛り付けてしまっていると思っていたの」


「縛り付けるって……、何でそんな事を…─?」


「自分に自信なんて全く持てなくて、そんな私がジルの婚約者候補に選ばれた事も、ずっと不思議だった

 ジルが私に、一緒に国を良くしていこうっていつも言ってくれていた言葉も、素直に受け取れなかったの

 他の婚約者候補のご令嬢方と、自分を比べて卑屈になるばかりで……

 そんな時に、お父様とお母様の話を聞いてしまったの

 私のこの『力』は、国を揺らがす事にも成りかねない

 私の『力』を使って、己の能力を上げようとする者が出てくるかもしれない

 だけどこんな『力』に頼らなくても、既に優れているジルが私には『力』を使わせないって言ってくれている、それならば……って

 そんな話を聞いて、ジルは国と私の事を考えて、自ら枷を嵌めてくれたのだと思っていたの……」


「なっ、何を言ってるんだ君はっ!

 私は、君を手に入れる事を枷であるなんて考えた事は一度もない!

 寧ろ反対じゃないか、君を堅苦しい王族の仕来たりで縛り付け、周囲に野望等が蔓延るような場所で、危険に晒すような立場に私は置こうとしているんだ

 それをわかっていながら、君の事を私は手放す事が出来なかった

 それは……レティ、君だったから……」


「うん……

 ジルは、ずっとそういう気持ちで私に接してくれていたのに、私は自信がないなんて事を言い訳にして、ずっと後ろ向きでいたの

 でも、ジルと気持ちが通じ合ってからは、そうではないのかもしれないって思えるようになってきた

 そして、今日改めてジルの言葉で直接ジルの本心を聞く事ができて、本当に嬉しかったの

 ジル、ありがとう」


 レティシアの柔らかい笑みに、ジルベルトは何とも言えない気持ちになる。

 久しぶりに見る事の出来たレティシアの柔らかな笑顔に、安堵する気持ちと、過去のレティシアの不安を取り除けなかった自分の不甲斐なさへの憤り、そんな相反する感情が交錯する。

 だが、漸くレティシアの本音を聞く事が出来たとも感じた。

 ジルベルトは、レティシアを抱き締めている力を更に強めて、そして言葉を紡ぐ。


「私が望んでいるのは……レティ、君だけだ

 君自身でなければ、いけないのだよ

 力なんて必要ない

 君がいれば、私はそれだけでいいのだから……」


「ジル……」


「愛しているよレティ」


「うん……、私もよ──」


 ───愛してる貴方を……


 レティシアの言葉が終わらないうちに、その言葉をも飲み込むように、ジルベルトの唇がレティシアの唇を塞いだ。




 ◇*◇*◇


 ジルベルト達はその後、ルドガーの対応などをその場にいる者達で話し合った後ハーヴィル邸をあとにした。

 レティシアが学園へ行くのかどうするのかは、暫く男女が別れて受ける授業もなく、今日中に国王やレティシアの父親である宰相にルドガーの件を伝え処遇も決めようと考えている事もある為、学園に行っているジルベルト達が傍にいられないハーヴィル邸に居るよりもいいのではないかと、そのまま通常通り学園へ通う事に決めた。


 もうじき夕暮れという時間に、ジルベルト達をエントランスでレティシアとアランは見送る。

 レティシアは、先程ジルベルトへ自分の素直な気持ちを伝える事が出来、学園でルドガーの件があったがその事を上書きしたぐらい穏やかな気持ちでいた。


「どうした?珍しく、機嫌がいいな」


「あ……、こんな状況で不謹慎よね?

 お兄様方にも、沢山迷惑をかけているのに」


「いや、辛そうな顔をされるより、いいさ

 さあ、中へ入るぞ」


「はい!」



 そんな穏やかな時間がこの時までは流れていた──





ここまで読んで頂きありがとうございます!

ブックマークもありがとうございます!

誤字脱字報告も感謝しております!


誤字脱字が多く読みにくい文章でお恥ずかしいです……最終チェックをもっと気をつけてまいりたいと思います。


◇お知らせ◇

さて、束の間の一時な今回のお話ですが、次話辺りから最終転換に入る予定でありますが、明日(7/11)の更新を私的な理由でお休みしたいと思います。申し訳ありません……更新再開する前に活動報告でご連絡致します。

今後ともどうぞ宜しくお願い致します!


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