第48話 失った自信
ジルベルトは、怒りをどうにかおさめて更に言葉を続けた。
「貴様のその表情……、知っているのだな?
レティシアの『力』について……
知るものはほぼ居ない筈のこの事を知っている……、貴様が言う転生だとかいう話は、ただの可笑しな貴様の妄想ではないという事であったという訳か
そして……、貴様がこの世界に生まれる前の前世とやらで、読んでいただとかいう物語の登場人物でしかないレティシアをここまで執拗に求める理由は、レティシアに運命を感じたからだけではなく、彼女の『力』も手に入れたいからなのであろう?」
ジルベルトの言葉に、嘲笑うかのような表情をルドガーは向けた。
「それはお前もだろ?
一度目のシアの人生では、あんなにもシアへ無惨な仕打ちをしておいて、二度目の人生で初めてシアのその『力』の存在を知ったお前は、手の平を返したかのような態度を取って彼女へ付け入ろうとした
シアの『力』を易々と手放したくはなく、偽りの優しさを向けようとしたではないか!
汚いのはお前だろ!?」
「レティシアの事を、貴様が軽々しく『シア』などと呼ぶな」
ジルベルトの怒りを含んだ低い声が響き渡る。
レティシアを抱き寄せているジルベルトの手に、更に力が入った。
その手は、僅かに怒りからか震えている事にレティシアは気が付く。
レティシアは、自分のこの誰にも言えない『力』に、今までどれだけ悩まされてきたのだろうかと思った───
レティシアが、自分には他の人間にはない『力』を持っているという事に物心付く頃には気が付いていた。
しかし、両親や兄からは、決してその力を他の者に使ってはいけない。『力』の存在自体知られてはいけないと、何度も言われていた。
そもそも、その『力』はよく使い方もわからず、相手にどんな作用があるのかもはっきりとわからない。
しかし、兄のアランに使ってしまった時に、アランが溢した「魔力や記憶力、色々な力が強くなっている」という言葉を自分なりに解釈し、強く自分が願えば相手の能力を増やしたり強くさせられる事が出来るのだと理解した。
そして幼い頃のあの日、傷付いたような表情のジルベルトを前に、思わず自分の力を使ってしまったのだ。
ジルベルトへ力を使ってしまった後、レティシアは三日間床に臥せった。
漸く身体の調子が元に戻ってきた時に、ジルベルトの婚約者候補に自分の名前があがっていた事を知ることとなる。
初めは婚約者候補になった事を、大好きな優しいジルベルトと結婚することが出来たら、彼とずっと一緒に居られるのだと、無邪気に王族と結婚するという意味すらよく理解もせずに喜んでいた。
しかし、年齢が上がり大きくなる度、自分の置かれている立場について考えさせられるような場面に、何度もレティシアは出会す事になる。
ジルベルトの他の婚約者候補の面々は、自分のような気が弱くオドオドとしているような令嬢は誰もいなかった。
彼女達は、自信に満ち溢れており、我こそが王太子であるジルベルトに相応しいと、積極的な行動に出る令嬢ばかりであった。
何度も催される婚約者候補の令嬢達が集まるお茶会等では、参加する度、自分とは違う魅力的な彼女達の姿に、レティシアは余計に卑屈になっている自分がいる事もわかっていた。
その訳は、その令嬢方へ負けずに立ち向かおうとする気力すら、レティシアはその時にはすでに、その令嬢方に折られていたのだ。
その始まりは、まだ婚約者候補に決まったばかりの頃に催された、ジルベルトと婚約者候補の令嬢方が集まる最初の茶会であった。
レティシアが、幼さからか思わず今までのようにジルベルトの事を愛称で「ジル」と呼んでしまった事に、令嬢方の反感を買ってしまったのだ。
ジルベルトが退席した後、出席している令嬢方からはレティシアへ対して直接ではないが、本人にわかるように辛辣な言葉を並べられた。
さらに、紅茶を間違えて溢してしまったと装いながら、わざとドレスへ紅茶をかけられるといった仕打ちも受けた。
そして、そのような仕打ちはこの日だけでなく、何度も繰り返される。
そのような仕打ちだけではなく、大切にしている物を隠されたり、壊されるような事。レティシアにも伝達されなければいけない報告を彼女にだけ伝えないなど、ジルベルトや他人には見えない所で婚約者候補の令嬢方は結束し徹底して執拗にレティシアを虐めた。
それはレティシアが言い返したり、周りの人間へその事を言い付けたりしない性格である事をわかった上での行動であった。
そうでなければ、令嬢方の中で一番身分の高いレティシアへ対して出来るような振る舞いではなかったからだ。
そして、そこまで徹底して虐めていた理由は、ジルベルトが自分達へとは違う愛情を、レティシアへだけ向けている事に気が付いての事だったのであろう。
その仕打ちは、時を重ねるに従ってどんどんと陰湿なものになっていく。
気の弱いレティシアが持っていた、小さな自信など打ち砕く事は簡単であった。
しかし、レティシアはその事を家族やジルベルトにも伝える事がどうしても出来ず、お茶を掛けられたり、物を壊される事も毎回ではなかった事から、家族や使用人には自分で誤ってそうしてしまったと誤魔化していた。
レティシア自身、そんな事を令嬢方からされていると、両親や兄、そしてなによりジルベルトには知られたくなかったのだ。
知られたくなかった訳は、知られる事は自分が他人からそんな風に蔑まされるような存在なのだと認める事と同じであり、それは恥ずかしくて、惨めで、そんな娘を、妹を持っているなど家族に思われ落胆されたくなかった。ジルベルトに自分はそんな惨めな存在なのだと、どうしても知られたくないという、レティシアの残された自尊心からであった。
しかし、そんな誤魔化しが長くジルベルトやレティシアの両親に通じる訳もなく、程無くして令嬢方のレティシアに対しての行いが明らかになる。
それに対し、一番怒りを露にしたのは勿論ジルベルトであった。
ジルベルトは徹底して、レティシアへ酷い仕打ちをしていた令嬢方を調べあげた。
だが、あからさまに令嬢方を糾弾すると、その反動がレティシアへ向く恐れもある事から、令嬢方の婚約者としての資質に欠ける部分を調べ、観衆の前でその部分を本人の失敗で露にしてしまうというような場面を幾つも作る。
それによって、資質がないと露呈した令嬢方を自分の婚約者候補から外していった。
ひとつきもすると、候補の顔触れがレティシア以外全て変更される事になっていた。
ジルベルトの本心としては、レティシア以外の候補者など必要はなかったが、そういう訳にもいかず、初めに候補となった令嬢達を外す代わりに、名前のあがっていなかった令嬢が候補としてあげられる事になったのだ。
更にレティシアが持ち合わせていた秘められた『力』の存在が、レティシアの自信を持てない今の性格を作り上げることに拍車をかけていく事となる。
ここまで読んで頂きありがとうございます!
ブックマークもありがとうございます!
◇作者の呟き
会話が少なく説明的な文章が続き申し訳ありません。
ここから少し、レティシアの過去の話が続きます。
全て隠していた伏線が明らかになってからでなければ、語れないような内容も含まれていたので、レティシアの性格形成の理由やジルベルトとの婚約に至った理由等をこの時点で語っています。
本来であれば初期に語るべき事も後半に入れています。
今回の話でさらっと語った虐められた事に対するレティシアの心情…両者に良い気持ちを持たれない方もいらっしゃるかと思います……
虐めの内容について詳しく書かずにさらっとながしてはいますが今回は話の流れで入れており、気持ちの良いお話でなく申し訳ありません。




