第46話 能力
ルドガーの与える恐怖の中にいたレティシアにとって、目に入ったジルベルトとアルフレッドの姿は、何よりも安堵するものであった。
「ジル……アル……」
二人の姿に、訝しげな表情をルドガーは向ける。
そんなルドガーの表情を見たジルベルトは、目の奥は笑っていない笑みを浮かべながら、ルドガーへ言葉を発した。
「何故、この結界を破れたのかという顔かな?
それとも、貴殿がお得意の幻影魔術を見破ったのは、何故かと感じているのだろうか?」
ジルベルトとアルフレッドの後ろには、アランやオスカーにミカエルの姿もあった。
ジルベルト達が医務室に足を踏み入れようとした時、ルドガーは辺りへ結界を張ったが、その瞬間その結界をアルフレッドが持つ剣が切り裂いた事に、ルドガーは目を見張る。
アルフレッドの手にしている剣には、アルフレッドの守護石が埋め込まれ、梟のモチーフが彫られていた。
その剣は、王族だけが持つ事が許されている聖剣と呼ばれるものであった。
「何を……?」
「貴殿が、アルの事をどの程度評価していたのかわからないが……
アルは私よりも魔力に秀でているのだよ
だからこそ、貴殿が貴殿付きの補佐官へ施した幻影魔術を見破るなど、造作ないことだ
上手く貴殿に化けていたようだがね」
表情を険しくし、苛立つルドガーをアルフレッドは何も言わず静かに見据える。
「俺の幻影魔術を見破っただと……?
ただの王太子のスペアである奴が?」
「アルフレッドは、私のスペアなどではない!」
ルドガーの言葉に、無言のままであるアルフレッドの代わりに反応したのはジルベルトであった。
ジルベルトは表情を消し、怒りを含ませた声色で言葉を発した事に、ビリッと辺りは冷気をも含んだような雰囲気になった。
「貴殿は、私の弟を見誤り過ぎだ
アルフレッドは私が唯一脅威だと思える存在だ
貴殿の事も脅威に成り得るかもしれないと思った事もあったが、この程度の魔力で、況してや相手の力量も正しく認識出来ないようでは、問題外であったようだな」
ジルベルトの言葉に、ルドガーは嘲笑うような表情を浮かべる。
「この程度の学園の能力試験で、全力の出していない俺に負けて二位になる奴が脅威だとは、この国の王太子であるあんたの程度など、たかが知れていると思うけどな」
そのルドガーの言葉に、ジルベルトは「くくく…」と、笑いだした。
「何が可笑しい?」
ジルベルトのその様子に、ルドガーは苛つく。
「その思考が、問題外であるというのだよ
王族である者が、自分の能力を学園の試験とはいえ多くの者がいる前で、全てを出すと思うのか?
それでなくとも、アルフレッドの能力は内乱を避ける為に、王政への反乱軍に利用されないよう極秘であり、その能力を知る者はこの国の限られた人間だけだ
さらに、アルフレッド自身も目立つ事を嫌い、私へ遠慮してしまうような性格であって、自分で自分の能力の高さを認めようとしない
その事は私も良いことだとは感じていないが……
今回の試験ではかなり手を抜いてしまったようだけれど、弟の能力は本物であって、貴殿の能力など比べ物にならない
まあ、貴殿のように自尊心の高い者には、そんな事を言っても信じないだろうけどね
貴殿が、それを信じるか信じないかはどうでもいい
そんな事よりも、レティシアから離れてもらおうか……」
「負け惜しみを……
自分の力だけではどうにもならずに、頭数を揃えないと何も出来ない
さらに、身内贔屓で能力が高いなど見栄をはって語った、そのご自慢な能力の高い弟に守ってもらわなければ、自分の婚約者を奪いにこられない者に、シアを渡す訳がないだろう?
あんたにはお似合いの女が用意されているんだから、俺の邪魔をしないでくれ──」
その言葉と同時に、レティシアの腕を掴んだルドガーの手首にピタリとあてられたのは、アルフレッドの持つ聖剣と似てはいるが、守護石の色や彫られたモチーフの違う、もう一体の聖剣であった。
「何……?」
「その腕を切り落とされたくなかったら、レティシアからその汚い手を離せ」
低く冷たい声が辺りに響き渡る。
ルドガーには、今どのようにジルベルトが自分へ近付いて剣を抜き、ピタリと自分の腕にあてたのか見えなかった。
この部屋にいる者で、今の太刀筋を含めたジルベルトの動きが見えたのは、彼と同等に剣を交える事が出来るオスカーだけであろう。
ジルベルトは、ルドガーに向けた剣を静かに下ろした。
「私自身の能力が、誰よりも秀でていると慢心しているつもりはない
だが、言わせてもらうならば貴様程度の能力よりは、優れているとは思う」
ジルベルトの言葉に、ルドガーの感情が少しずつ露になり、怒りを含ませた表情をジルベルトへ向ける。
「俺を愚弄するというのか……?」
「愚弄?
愚弄とは、対等に戦おうと思える相手への接し方であろう?
自分の力に溺れ、相手の力量を過小評価するような者など、対等と思える訳がない
問題外だ
愚弄しようとも思わない」
「血が流れれば、国同士が戦になるかもしれないという事を理解しての行動か?」
「……だから、血が流れない寸前で止めたであろう?
私が、国の事など何も考えずに行動出来るような立場であれば、レティシアへ貴様が触れた時点で貴様がこうして立っている事も、話すことも出来ていないだろうし、その四肢も既に繋がっていない
王族という立場に、何度煩わしさを感じた事か……
だが、それも己の責務だと思ってはいる
貴様のように、自国の事も考えず己の欲だけを求めて、他国に入国してくる王族もいるのだと感心したがね」
「……………」
「もう一度だけ言う
その汚い手をレティシアから離せ
利き腕を失くしたくないのならな?」
ジルベルトの本気を察したのか、ルドガーはレティシアの手を離す。
ルドガーが手を離すと、すかさずジルベルトはレティシアを自分の元へ抱き寄せた。
レティシアの存在を自分の傍で漸く確認出来た事に、小さくジルベルトは息を吐く。
そして、目の前にいるルドガーを表情を消して見据えた。
「一つ、貴様に問いたい
レティシアに渡していた私の石を通して、貴様がレティシアへ語っていた、理解しがたい話を私も初めから聞いていた
どれも現実味のない作り話のようにしか私には思えないが、その話が万が一にでも真実であったとして……
何故、そこまでレティシアに執着するように求めるのだ?
運命と貴様は言うが……、その運命とは何をもって運命だと貴様は思っている?
レティシアは、貴様が好んでいた物語に出てくる作り物の存在ではない
この世界に生きる一人の人間だ
レティシアの何を求めている?
レティシア自身だけを、貴様は求めていると言うのか?」
ルドガーは、ジルベルトが問い掛けた言葉にピクリと身体を揺らした。
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