第45話 真相
レティシアは、今は講義中で武道場にいる筈のルドガーが、何故自分の目の前にいるのかわからなかった。
それに、廊下で待機していた護衛はどうしたのだろうか?と思う。
そんな狼狽えているレティシアを他所に、エリカはルドガーへ何も疑う事もなく返事を返していた。
「ルドガー殿下どうしたのですか?
今の時間は、武道場での講義ではありませんでしたか?」
「少し医務室に用があったんだよ」
「もしかして、怪我をなされたのですか!?
大丈夫ですか!?
でも、校医の先生がいらっしゃらなくて……
私、探して来ますね!」
そんなエリカの言葉にレティシアは焦る。
一人にしないでと……
この目の前にいるルドガーと、二人きりにしないで欲しいと──
「エリカ様っ、待っ──」
「レティシア様は、殿下に付いていてあげてください!」
レティシアの願いはエリカには届かず、そう言い残してエリカが出ていった医務室の入り口をレティシアが茫然と見詰めていると、ルドガーが口を開いた。
「本当に良い子であるよね?
それこそ、ヒロインに相応しいような明るくて優しい性格で、ジルベルト王子にお似合いな存在だと改めて思わないか?
それに、登場人物は少し違うけれど、君はこの場面に思い当たる事はない?
本来は、この医務室では怪我をしたエリカ嬢が、この場所に一人でいる所にジルベルト王子が現れて、エリカ嬢の手当てをする
その場面に覚えがあるだろう?」
ルドガーの言葉に、レティシアが先程まで既視感を感じていたのは、あの書物に今ルドガーが語った場面があった為であったのだと理解した。
それとは別に、ルドガーの発したお似合いという言葉に、レティシアの胸が痛む。
「………っ………」
ルドガーが医務室へ足を踏み入れると、レティシアは自分へ近寄ってくる彼に拒否反応からかその場から後退る。
そんなレティシアへ笑みを浮かべながら、ルドガーは医務室の扉を閉め鍵を掛けた。
さらに、辺りに結界のような魔力を施した事に、レティシアの背筋に嫌な汗が流れ落ちる。
「と、扉の前に……、護衛が立っていた筈ですが……?」
「ああ、彼なら少し眠ってもらっている
簡単な催眠術であるから、身体に影響などないよ?」
「が、学園では……、魔術を使う制限が……」
「君は以前に見たよね?
俺の得意な事を……
結界などを解く事が、俺は得意であるって」
ジルベルトが警戒し、学園にも魔術の制限を掛ける結界を貼り直したと言っていた筈なのに何故?と、レティシアは思った。
そんなレティシアの表情に、「くくっ」とルドガーは笑みを溢す。
「学園全体に張り直された結界は、いくら俺でもこの短期間では解く事は出来なかったよ
だけど、ここはさ、医務室であって校医が治癒魔法も使う場所であるから、結界が張られていない
学園の中では、魔術を使える唯一の場所の一つ
だから、俺も魔術が使えるという事だ
張り直された結界も解けると思ったけれど、彼も無能ではなかったのだね」
ルドガーの言葉に、レティシアはエリカの怪我が放っておけなかったからとはいえ、やはり無闇に自分の考えで行動に移したのは短絡的で、浅はかであったと感じた。
あんなにも、ジルベルト達が自分を守る為に気をつけてくれていたのに、その思いを踏みにじってしまったとも思う……
しかし、悔やんでも今の現状をどうする事も出来なく、恐怖から手足がガタガタと震えていった。
「君と話しをしたいのに、なかなか君に近付く事が出来なくて憤りが募ったよ
シアは俺のものであるのに、俺が近付けないっておかしな話だろう?」
目の前の存在から、自分の事を「シア」と呼ばれる事に嫌悪感が増す。
「どうして……、私なのですか?
私は……、ルドガー殿下の運命の相手などではありません!
それに、私をそういう風に呼ばないでください!」
「シアは、俺の運命の相手だよ?
それに、この呼び方は君はとても嬉しそうに喜んでいたじゃないか?
俺からだけの特別な呼ばれ方だって
シアと呼んでいいのは俺だけ……
俺だけにしか呼ばせないとも、二人で約束しただろう?」
「そんな約束なんてしていませんっ!」
「したんだよ……
いや、これからするんだよ
俺と想いを伝えあった後にね?
本当にストーリー通りに進まないなんて、なんの不具合なんだ?」
「不具合……?」
ルドガーがレティシアの目の前まで近付く。
後退りしていたレティシアの後ろは、既に壁で逃げ場はない。
ルドガーがレティシアのある部分に視線を落とすと、徐に彼女の左手を持ち上げた。
突然手を握られた事に、レティシアの全身に嫌悪感からか、ゾクリと寒気が走った。
「やっ……」
「この指輪は、本来はシアに贈られる事はなかった指輪であるのに……」
「え……?」
「ジルベルトの本当の運命の相手であるエリカへ、ジルベルトが想いを伝えた時に自分の守護石の指輪を贈るものであって、シアの指に嵌めてはいけないものなんだ」
「どうして……、守護石の事を……知って……」
オーガストラ王国の王族が、婚約者へ指輪を贈る事はこの国の貴族なら皆知っている事柄である。
だが、その指輪に埋められている石が王族が持つ守護石だという事は極秘であり、何より王族が守護石という物を持っている事自体、ごく限られた者しかこの国の者でも知り得ない事であった。
そして、突然目の前のルドガーが、ジルベルト達の事を呼び捨てで呼び始めた事も合わせて、レティシアは理解が追い付かない。
「だから、言っただろう?
俺は全部知っているって
シアの事も、ジルベルトの事も、色々と俺はずっと前から知っているんだよ
誰かにそれらを探らせた訳じゃない
俺自身が、初めから知っているんだ」
笑みを浮かべて、訳のわからない事を色々と言葉にする目の前の存在に、レティシアは恐怖しかない。
ルドガーの言葉は、理解が出来なく気味が悪く感じるばかりであった。
「この世界の事は、俺が生まれる前から知っていた事なのだからな」
「う、生まれる……前……?」
「シアは転生ってわかるか?」
レティシアにとって、初めて聞く言葉に彼女は首を小さく横に振る事しか出来ない。
「この世界には輪廻転生という考え方がないから、わからないのも当然ではあるよな?
人は生まれるより前にも、違う肉体で違う人生を送っている……
命の事を、魂とも呼ぶ考え方があるんだ
その魂は一つで、死んでもまた違う肉体が与えられ、その魂は来世で別の人生を送るっていう宗教的な考え方の事を、輪廻転生って言うって俺は前世で解釈していた
だけど、それは考え方であって本当にそんな事が起こるとは思ってもいないし、況してや前世の記憶を持ったまま、今世で生まれ変わるなんてあり得ない、ただの物語のような作り物の世界の話だと俺も以前は思っていた
しかも生まれ変わったその場所が、作り物の世界だなんて冗談か?って思った……
だが、自分の身に起これば信じるしかないと思わないか?」
(ぜ、前世?
前世って何? 何を言ってるの? 怖い……)
この目の前の人間は、何の話をしているのだろうかと自分の理解を越えた話に、レティシアの思考は追い付いてこなく、この時はただただ恐怖しかなかった。
「この世界は、俺の前世で俺が読んでいた小説という物語の世界と全く同じだったんだよ」
ルドガーの指先がレティシアの頬に触れたのと同時に、レティシアは自分の指輪をギュッと握り締めた時、「バチンッ」という何かが弾けた音と、医務室の扉が鋭い物で破られたのは同時で、そこにはジルベルトとアルフレッドが立っていた。
ここまで読んで頂きありがとうございます!
ブックマークもありがとうございます!
◇作者の呟き◇
(ネタバレはないかとは思いますが、最終話まで色々と想像して楽しみたい方は読まれない方が確かかもしれません。
それでも大丈夫という方はお付き合いくださいませ。)
さて……ここが一番大きな転換部分でありました。
第32話に転換と副タイトルを付けていたのは、今回のルドガーの真相を明かした言葉へ持っていく序章として付けていました。
この展開に皆様の反応が怖かったりもしております……
徐々に小出しにこの流れにもっていくような文面は出していたので、恐らく大半の方々はルドガーに何かあるっていう事は気が付かれていたのでは?と、思います。
ルドガーがレティシアへ明かした自分は転生者という事柄は、このお話のスタート時から決めておりました。
なるべく、ルドガーにはそういう目を向けられないように前半はルドガーにあまりレティシアを絡めず物語を進めレティシアの恋物語を主軸に進めて、この後半に差し掛かった所でルドガーから明かす事も決めていた事です。
まだ、幾つか伏線が残っている部分があるのでもう少し続きますが、皆さんの想像をひっくり……返せたのか………。捻りも無く想像通りだったのか……はわかりません。。。
こんな展開で、皆様がどう感じられたのか……受け入れてもらえたのか、それともガッカリさせてしまったのか……後者でしたら申し訳ありません…
転生というキーワードが無いから読んでいたとか、転生とかお腹いっぱいだという方がいらっしゃったらごめんなさい…
キーワードに付いてはこの後の展開も含めてガイドラインを確認し、運営様に確認を直接とった上で『異世界転生』のキーワード設定はしておりません。
もっと、違う展開をご希望だった方にも申し訳がないのですが、もう少しだけ色々と解明されていない部分や事柄、そして残っている伏線もあるので、皆様の気力がまだ残っていらっしゃればもう少しだけ、このお話にお付き合い頂ければと思います。ペコリ……
ネタバレになっていましたら申し訳ありません…
一ノ瀬葵
おまけの呟き…
私は輪廻転生についての解釈は人によって様々だと思っております。このルドガーが語っている解釈は作者である私の解釈であるので、皆様の解釈とのズレがあれば申し訳ありません。
この転生については、ルドガーからの語りとしてまたお話に入れるつもりでもあります。しつこかったらごめんなさい(ー_ー;)
謝ってばかりですね(汗)




