第39話 幻想か真実か
レティシアとジルベルトは、お互いの想いを通じ合わせるかのような口付けを交わす。
「レティ……」
レティシアは、熱の籠った瞳で自分を見詰めてくるジルベルトに、何もかも溶かされてしまうのではと感じた。
何度も繰り返される口付けに、心臓はずっと大きな音をたてている。
そして、またジルベルトとの距離が近付こうとした時、扉を叩く音とアランの声がした事に、レティシアの身体はビクリと揺れた。
「ジル! アルを連れてきたぞ、入るからな」
アランが扉を開けるのと、レティシアが慌ててジルベルトの膝の上から、長椅子の端へ離れたのは同時であった。
執務室の中に入ったアルフレッドは、ジルベルトの様子に戸惑う。
「な、なあ……、アラン?
何があったんだよ?
兄上の機嫌が凄い悪いけど──っ!? え……アラン……?」
アルフレッドがアランへ問い掛けようとすると、隣に居たアランもピリピリとした表情でジルベルトを見据えていた。
「レティシアを慰めるのはいいけどな、節度を弁えろと言ったはずだが?」
「レティの事を、ただ落ち着かせていただけだが、何か問題でも?」
ジルベルトとアランの間でピリッとした空気が流れた事に、レティシアとアルフレッドは戸惑うばかりであった。
「白々しい……
で?何があったんだ?」
ジルベルトは、ジルベルトとレティシアの座る長椅子の向かい側にアランとアルフレッドが座った事を見届けてから、レティシアを自分の側に寄せてふわりと頭を撫でる。
「レティ、話せるかい?
怖くはない?」
「うん……もう大丈夫」
レティシアがそう言いながらも、緊張した面持ちになった事に気が付いたジルベルトは、ギュッとレティシアの手を握り締める。
そのジルベルトの手の温もりに、レティシアは気持ちを強く持ち口を開いた。
「忙しいのに、皆の時間を取らせてごめんなさい……
あの……、さっきジルとお茶をしようと約束していた場所の近くで、ルドガー殿下に声を掛けられたの
気が付いたらルドガー殿下と二人きりになっていて、傍にいてくれた筈の近衛騎士の方達も見当たらなくなっていた事に、不審に思ってルドガー殿下から離れようとしたけれど、何かに阻まれて離れる事がそれ以上出来なかった
そうしたら、ルドガー殿下が側にいた近衛騎士の方達に幻影魔法を使って離れてもらったとか、私達の周辺に結界を張ったとか言われて……
王城はそういう魔術の使用の制限がかけられているし、規定も厳しいはずなのに、それを解いたとルドガー殿下は言われたの……」
レティシアの説明に、アランとジルベルトは訝しげな表情を浮かべながら状況を推測していく。
「魔術の性質上、王城の端にあたる庭園は、端という事もあり魔術制限の防壁は薄くなる可能性がある事は確かだ……
ルドガー殿下の魔力で、その穴を見つけたという事か……?」
「そうであっても、見逃せない事だ
我が国の一流の魔術師団が手掛けている防壁を、他国の者が解くなどあってはいけない事であるし、それだけ彼の力が強いという事でもある」
「近衛騎士は、武術の能力が高い者が多い事もあってか、魔力に疎い者もいる事は確かだな」
「それは、私の判断ミスだ
均等した力の者をレティに付けた筈であったのに、己に魔力を使われる事に気が付かないなんて、騎士としてあってはならない
再度、騎士達を鍛え直す事を、サイモンとオスカーに伝えておいた方がいいだろう」
「我が国の様々な穴を見付けて、そこを突いてきたという事か……
流石、実力主義の国の王太子といったところか……
その穴については、国政を揺るがしかねない事でもあるから、至急陛下や父上にも伝えて改善していった方がいいな」
「どれだけ実力があったとしても、人間性は疑うがね」
ジルベルトのその言葉に、アランは呆れたような表情を彼へ向けた。
「お前がそれを言うのか?
やり方はどうであれ、考え方に関してはお前もかなりものだと思うけどな?」
「私は人のものに、こんな執拗に追い立てて手を出そうとしたりなんかしないよ」
「どうだか……、レティシアが関わったら周りが見えなくなる奴が、よく言うよ」
ジルベルトは、アランの言葉に一つ息を吐きレティシアへ視線を向ける。
「レティ、そんな状況で彼から何を言われたのだ?」
レティシアは、ジルベルトを見詰めてから視線を一度落とし、次に前にいるアランとアルフレッドに視線を向けた後、再度ジルベルトへ視線を向けた。
そんなレティシアへ、ジルベルトは握っている手に力をこめる。
レティシアは、ゆっくりとルドガーの語った言葉を口にした。
「………鬼気迫るように……、あの書物の物語は、作り物ではなくて事実だって……」
レティシアの言葉に、三人は呆れたような表情になる。
「ここまで頭のきれる者が、語る言葉の内容だとは思わないな
レティシア、本当にそんな事をルドガー殿下が言っていたのか?」
「私だって、おかしな事を仰有っていると感じたし、何度もあれはただの作りものの物語だって伝えたけれど……
それに、それだけでなくて、あの書物に書かれている物語は、私の一度目の人生だって……
私が命を落とす直前に、強く『やり直す事が出来たなら次は同じような結末にしない』って願ったから、事が起こる前に戻ったって言っていて……
それを、えっと……、『逆行』? したっていう言葉で、ルドガー殿下は言っていたの
それで、入学式の前まで戻って、人生をやり直せるようになったって……
今は二度目の人生を歩んでいるのに、私は未だに一度目の人生で起こった事を思い出していないとも言っていて
その二度目の人生をおくる時に、ルドガー殿下が私の本当の運命の相手になったのだとも言っていたの
それが凄く怖くて……」
レティシアの言葉に、三人とも訝しげな表情を浮かべた。
「は? そんな夢物語のような事を信じろと?」
「訳がわからないな……
彼のこれまでの計画的な行動と、そんな非現実的な話を語る姿とでは、大きな違和感しか感じない
それよりも……」
この部屋に来た時からずっと、言葉を発する事もなく黙っていたアルフレッドにジルベルトは目を向ける。
「アル、随分静かだね
アルはルドガー王子の事をどう感じているのだ?」
「え……? いや……、俺もそんな話は信じられないと思う……」
ジルベルトやアランが、レティシアの語る事に次々と自分の考えを述べる姿に、アルフレッドは自分の考えを口に出す事が出来なかった。
先日の婚約式の舞踏会で、レティシアの異変に必死で助けようとするジルベルトの姿を見た時から、自分とジルベルトの差をより大きく感じていたのだ。
(兄上は、俺のレティへ向ける想いへ対しては休戦するといったけれど、こう何度も起こるレティの危機的な状況に対応している兄上の姿を見る度、自分と兄上の力の差を、まざまざと見せ付けられているように感じる……
そして、それはレティへ対しての兄上の想いの強さも突き付けられているようにも感じた
それに比べて俺は、なにも出来ずにただ傍観しているだけで……
そんな俺を兄上は、何故脅威だなんて思うんだろうか……?
ルドガー王子の力と比べたって、俺は……)
「アル」
「え……?」
「お前が何を感じているのかはわからないが、お前は私に豪語したのだからね」
「兄上……?」
「私が傍に付いていられない時に、レティを守ると
その気持ちは偽りだったのかい?」
「それは違うっ!」
「だったら、誰かと自分を比べて落ち込んでなどいないで、自分の力でどうにか出来る事を探る方が、先決なのではないか?
グジグジと自分の中で卑屈になっているのであれば、私がこの場にお前を呼んだ事は間違いであったのかもしれない
何故、私がお前をレティの話を聞かせる為に、ここに呼んだかわかるか?」
「何故って……?」
「本音で言えば、私自身だけの力でレティを守りたい
だが、それは物理的に無理な話ではある事はいくら私であっても理解している
籠の中の鳥ではないレティを、片時も私の側から離さないなんて事は出来ないのだからね
私は、私が側にいられない学園で過ごす時間に、アル自身がレティを守ると言った言葉を信頼して、この場にお前を呼んだ
アルにはその事をよく考えて欲しい」
アルフレッドはジルベルトの思いに、握っていた拳により力をが入った。
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