第30話 兄弟の対話
クラスメートからお祝いの言葉をかけられている、目の前の存在を見詰めながら、アルフレッドは小さな溜め息をついた。
(兄上から話をしたいと、わざわざ先触れが届いたのは先日
レティが学園を休んで、さらに兄上も講義を受けずに王城へ戻ったと聞いた日の夜であった
あの日、学園では少し騒ぎになっていた
いつも冷静な兄上が、取り乱しているような姿があったと……
レティやルドガー王子まで学園を休み、兄上は講義を受けずに王城に戻るなんて、何かあったのではないだろうかと思ってはいた
先触れ通り、兄上が人払いをしている俺の私室へ来た時に、ルドガー王子とは何か大きな事があった訳ではないと聞いて少し安堵した
しかし、その後に続いた言葉に、様々な感情が交錯したんだ───)
───先日の夜
『悪かったね
お前の部屋にまで押し掛けて
しかし、二人きりで話をしたかったのだよ』
『別にそれはいいけど……、今日何かあったのか?
少し学園がざわついていたんだよ
兄上が、いつもとは違う様子だったとか、それにレティやルドガー王子が、急遽欠席になった事もあったし……』
『ああ、今日、ルドガー王子とも少し私と関わりはあったけれど、そんなに大事にはなっていないから心配はしなくていい
ただ、少し気にかかる事はあるのだけれどね……
それとは別に、アルには私から先に伝えておかなければいけないと思って、今日こうして時間をつくってもらったのだよ』
『わざわざ、先触れまで届けて?
何? こんなあらたまってする話って……?』
『レティの事なんだ』
ジルベルトの口からレティシアの名前が出てきた瞬間、アルフレッドの身体がピクリと反応した。
『恐らく、数日後に私とレティとの婚約が確定した事が、国内外へ周知されると思う』
アルフレッドは、ずっと疑問に思っていた事があった。
レティシアとジルベルトの婚約が内定してから時間がしばらく経っており、何故確定したと周知を出さないのかずっと疑問であった。
二人の婚約の話は、無理矢理決められたようなものではない事はアルフレッドも知っており、内定のままジルベルトが放置しているのが不思議であったのだ。
『そっか……
漸く、確定したんだ
兄上、おめでとう……』
「おめでとう」と、口にした時、アルフレッドは自分の胸にチクリ痛みが走った事がわかった。
『私に、そんな簡単におめでとうなどと言っていいのか?』
『え……?』
『私が、お前の気持ちに気が付いていないとでも思ったのかい?
本当にアルは、私とレティの婚約を心から祝えているのか?』
『………な、何を……そんなの……』
ジルベルトの言葉にアルフレッドは、戸惑う。
『そうか
お前のレティへ向ける想いなど、その程度であったのだな?
それならば、私が思案しなくとも問題がなかったという訳だ』
『………っ!
俺に、どうすれって言うんだよ!!
兄上とレティの婚約の話が進んでいるなか、第二王子でしかない俺が、二人の間に入れるとでも思っているのかよ!?
兄上は、俺の心の中を掻き乱してどうしたいんだ!
俺が必死で蓋をしようとした想いの蓋を抉じ開けて、何が楽しいんだよ!』
続いたジルベルトの言葉に、アルフレッドは頭に血がのぼったように、声を荒げた。
そんなアルフレッドを、ジルベルトは見据える。
『やっと、本音を言ったな
私にとって、アルは大事な弟であるのだよ
だからこそ、お前の気持ちに気が付かない振りをしたまま騙すように、レティシアとの婚約の話を進めたいとは思っていなかった
そこまで本気ならば、どうして私にぶつかってこなかった?
お前が第二王子という立場を気にしていた事はわかるが、私にはまだ婚約者候補は数名いて、その時レティシアは候補者の一人でしかなかった
その時に、動こうと思えば動けたはずだ
立場を言い訳にして、自分が傷付く事をお前は恐れていただけなのではないのか?』
『……っ!!
何だよそれ……』
ジルベルトのアルフレッドに向ける目は、普段の優しい目ではなく、鋭い視線を向けられていた。
『私も余裕などなかったからね
レティは全く私の事など恋愛対象になど見ていなく、揚げ句には私と距離を取り始めた
その中で、お前には素の顔を見せていた事に、どれだけ焦燥感を感じた事かわからない
お前が本気になって動けば、どんな結末があったのかわからないと言っているんだ
お前は第二王子でありながら、頑なに婚約者候補を置く事を、父上や母上に断り続け拒否していた事も知っていた。
それは、レティシアという存在がお前の中に居たからなのであろう?
私は不安材料を残しておきたくないのだよ
私の中でお前は、上位にくる程のレティシアに対しての不安材料だ
お前が、このままレティシアの事を諦められるなら何も言わないが、そうでないのなら、お前の事を抑えなければ私は安心できない
だからこそ、お前の本心が知りたかった』
『本心が知りたいって……
婚約を確定させてから問い質すなんて、趣味が悪いのにも程がある
俺が兄上とレティとの間に入って、確定した婚約関係を滅茶苦茶にするかもしれないとは考えていないのかよ!?』
『……お前は私と違って、レティを泣かすことはしないと思っているからね』
『違ってって……、レティを泣かしたのか!?』
『………それだけ、私も愚かになる程必死であったのだよ
それでもレティは、私へ自身で悩みながらも自分の本心に気が付き、答えてくれた
だからこそ、私達の事を脅かすような不安なものは、一つ残らず取り除きたいのだ
お前もそのうちの大きな壁の一つだと思っている
お前自身が想いを消化しないまま燻らせていたら、大きな隔たりになり得ると思ったのだよ
こんな事をして、自分の性格が悪い事もやり方が汚い事も理解したうえだ
それだけ、お前は私にとっては脅威であるからね
ただ、もう一つ脅威を見付けてしまったのは、私の誤算であったが……』
『もう一つ?』
『ルドガー王子だよ
以前からレティへ向ける視線が気にかかってはいたが
今日確信した
彼はレティシアを望んでいるとね
彼とのやり取りは、国際問題になりかねないから慎重にいかなければいけないが、婚約確定の周知がされて、尚且つ婚約式まで執り行えば下手にあちらも動けないだろう
だが、お前は違う
私以外で、一番レティに近い存在であるからね』
強い視線を自分へ向けるジルベルトに、アルフレッドは一つ息を吐く。
『兄上とレティとの間に、何か綻びがあるのなら放っておかないで、間に入ろうと考えた事は事実だよ
だけど、レティが兄上の事をレティ自身では気が付いていないようだったけれど、それでも周囲にいる存在とは違うように見ていた事に、俺は気が付いていた
レティは自分の気持ちに気が付いたんだろ?
そんな時に俺が気持ちを伝えたって、あいつを動揺させて苦しませるだけなんだ……そんな事わかりきっている
それでも、簡単に消化できるような気持ちじゃないけれど……』
そんな言葉を溢したアルフレッドへ、ジルベルトは真剣な表情で向き合った。
『お前のような優しい存在の隣が、レティにとっては穏やかな気持ちで居られたのかもしれないな
それでも、どうしても……
その相手がお前だとしても、レティは譲れない存在であるんだ
それはアル、お前にも覚えておいて欲しいと私は思ったんだ』
『兄上……───』
────ぼんやりと、先日のジルベルトとのやり取りを思い出し、アルフレッドはまた一つ息を吐く。
(あの日は、あれ以上何か結論を言われたとか、そんな事はなかった……
俺は……どうしたいのだろうか……
レティが幸せなら、その隣が俺でなくともいいと思えるようになるのだろうか……)
そんな複雑な思いが、アルフレッドの心を締め付けていった。
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作者のつぶやき
恋愛小説のヒーローとしては、ジルベルトはあまり好まれないような性格をしているのかもしれません……
今回のお話でさらにそれが顕著になってはいないかと心配にもなっております……
ジルベルトはアルフレッドの事を本当に大切な弟と思っているのです。ですが、ジルベルトにとってはレティシアとアルフレッドがとても仲が良いことが不安でたまらなく、大人げもなくこのようにアルフレッドへわざわざ告げに来たという……見方によっては性格悪いですよね……
みなさまは、現在レティシアの周りにいる男性人の中でどなたがお好みですか?(まだ、本性を現していない存在もいますが……)
そんな賛否がわかれそうな今回のお話でした。




