第28話 甘美な幸せ
作者指数的、糖度増量中……?な、予定です。
───どうしても手に入れたくて仕方がなかった君のそれは、思っていた以上に堪らなく甘美で、この味を一度知ってしまえば、もう二度と知らなかった頃には戻る事は出来なく手放せないくらいの中毒性をもっていると、強く感じさせられた。
抱き締められながらレティシアへ降り続け、止まることのない口付けの雨に、レティシアは身動ぎをするが、それは余計にジルベルトの彼女を抱き締める腕の力が強まるだけであった。
心臓はドクドクと、ジルベルトへ聞こえてしまうのではないかと思うくらい鳴り響き、レティシアは何も考える事も出来ない。
「……っ……ジ、ジルっ!
……っも、もうっ………んっ……」
「レティ、もう逃がさないと言っただろう?」
「逃げたりなんかしないわっ!
だからもうっ……、
こ、これ以上は心臓がもたないっ……」
ジルベルトは、キョトンとしたような表情をレティシアへ向けると笑みを浮かべた。
レティシアの手を握りしめ、その手の平にチュッとジルベルトは唇を寄せると、その手の平を自分の胸に置いた事にレティシアは更に狼狽える。
「ジ、ジルっ!? な、何をっ!?」
「どう?」
「えっ!?」
「私の鼓動も高鳴り過ぎて、どうにかなってしまいそうだとは思わないかい?」
手の平に直接伝わるジルベルトの心臓の鼓動に、レティシアは驚いたような顔を彼へ向けた。
「私は余裕だと思っていたのかい?
私だってそんな余裕などないよ
ずっと、手に入れたくて仕方がなかった君の心という唯一のものを、手にする事が出来たのだからね
だから、もう少しだけこのままでいさせて欲しい……」
ジルベルトはそう言うと、再度ギュッとレティシアを抱き締め彼女の首もとに顔を埋めた。
レティシアの温もりも、匂いも堪能するかのように……
ジルベルトの鼻や唇が首筋に触れ、レティシアの身体はピクリと揺れる。
「っ!? やっ、ジルっ! くすぐったいっ!!」
「もう少しだけ……」
傍で感じるレティシアの温もりを感じながら、様々な想いがジルベルトの胸の中には広がっていった。
(そう……、漸く手にする事が出来たのだ
君の心を……
私の唯一無二の存在……
君はわかっているのだろうか?
君を失うかもしれないと感じた、私のあの焦燥感を……
君の心を手に入れるために、私が様々な事を利用し、画策した事を君が知ったら、どう思うのだろうか?
君が私へ気持ちを寄せているのか、半信半疑で賭けでしかない状況で、君に嫉妬をしてもらって気持ちに気付かせようとする為に、彼女の拾った書物にも出てくる例の令嬢との関わりを利用した
本来私が願い出れば、クラス役員の変更など簡単であったのにも関わらず、レティシアのクラス役員が彼女だった事に驚きはしたが、そのまま彼女をクラス役員に置いたまま、私との接点を多くしその様子をレティシアへ見せたりと、上げればきりがない……
浅はかで、汚く、利己的で誉められるような方法でない事はわかってはいた
レティシアを苦しませて泣かせた事は、私の計算外の事であったが、冷静にしっかりと考えれば、彼女が傷付く事は容易に想像出来たであろうし、方法もいくらでもあったのだから、己の見極めが甘かったと悔やみもした
そんな事をレティシアが知ったら、恐らく私の事を軽蔑するかもしれない
だけれど、私はそんな愚かな事をしてまでも、彼女自身で己の気持ちに早く気が付かせたかった……
そして、君の心も含めた全てが欲しかったのだ
こんな愚かな私で──)
「ごめんね……レティ……」
「え……?」
ジルベルトの溢れ落ちた言葉に、レティシアが彼へ顔を向けようとすると、もう一度ジルベルトの口付けが落ちてきた。
それは、ゆっくりとまるでジルベルトが自分の想いを伝えるかのような口付けで、戸惑いや恥ずかしさとは別にレティシアの胸には気持ちが込み上げ、瞳に涙が浮かぶ。
(ジルの気持ちが、まるで私に流れ込んでくるかのよう……
自分がいかに子どもだったのかと思う
今思えば、ジルは言葉に表さなくとも、私の事を慈しむような表情でいつも見ていてくれていた
それは私にとって、とても居心地が良くて……
それなのに、どうして今までジルの想いに気が付かなかったのだろう
こんなにも、強い想いを向けてくれていたのに……
単純に思う……
嬉しいと……
自分の気が付いた想いを受け止めてくれただけではなくて、ジルも私と同じ気持ちだったということが嬉しい
そう、強く思うの)
想いを伝えるかのような、ジルベルトの優しくてそして温かな口付けに、今までの事も合わさりレティシアの足にはもう殆ど力が入らなく、そのままかくんと力が抜けた。
レティシアの事を抱き締めていたジルベルトは、足の力の抜けた彼女を想定内かのように自然に支える。
「止められなくてごめんね」
そんな、申し訳なさそうな表情を向けたジルベルトに、レティシアは更に顔が熱くなる事がわかった。
ジルベルトの早急な行動に少し抗議の気持ちも込め、背の高いジルベルトに抱き締められている状況から、必然的に上目遣いになりながらも、レティシアは彼を膨れたように見詰める。
そんなレティシアの様子に、ジルベルトは穏やかな表情を浮かべ彼女の頬へ掌をあてた。
「レティ、そんな目で私の事を見ても逆効果だよ?
私にとっては可愛いだけだからね」
「……っ!? ジルっ!!」
「うん、でも君のペースを考えずに、嬉しくて自分を止められなかったのは事実だからね
次からは、レティのペースに合わせられるように努力するよ」
更に笑みを深めて、ジルベルトはそんな言葉を言った。
そのまま二人で池の畔の芝の上に座ると、ジルベルトはレティシアの頭を優しく撫で、そのまま彼女の髪の毛を掬い自分の唇に寄せる。
「講義……、さぼってしまったわね……
ジルの講義の時間まで……
ごめんなさい」
「レティが、ルドガー王子と一緒に馬車に乗って学園を出たと聞いて、本当に驚いたし、心配になったよ」
「うん……断ったのだけれど……」
「相手は王族で、尚且つ隣国の王太子だという事に強く言えなかったのだろう?
理解はしているが、気持ちは別だよ
私は君が思っている以上に嫉妬深いから、もうこれからは私でない男とは、二人きりで馬車に乗っては駄目だからね」
ジルベルトのそんな言葉に、「ふふふ」とレティシアは柔らかな笑みを浮かべた。
その彼女の微笑みを見たジルベルトは、さらに表情を緩める。
「漸く、見られた」
「え……?」
「レティの笑顔
君の苦しそうで泣きそうな顔でない、君の本当の笑顔が漸く見られて嬉しい」
ジルベルトの言葉に、レティシアは笑みを更に深める。
温かで幸せな二人の時間であった。
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作者のちょっと解説
ジルベルトの利己的な行動に(エリカの存在を利用してレティシアに気持ちを気付かせようとするような…しかも不安にさせてまで)批判が出そうな予感もしますが……
恋愛感情は綺麗なものだけではないのでは…と、いうような作者の考えも織り込んでおります。
恐らくジルベルトはレティシアに対しては余裕が殆どなくそんな考えに至るという、将来の国王としてどうなのか?というような感じではありますが、このように表現しました。
ジルベルトは真っ直ぐな性質ではないと自分でも認識しています。人前の笑顔の裏では色々と抱え、様々な考えを持っている。所謂、腹黒キャラ?をめざしていますが、表現できているかは謎です…
難しい……
題名を『まだ、恋を知らない…』としていますが、両思いになりましたが、まだお話としては前半部分で中間地点にも到着しておりません。もう少ししたら中間地点には到着する予定であります。




