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第27話 向き合う気持ち

 ルドガーがその場を離れた後、ジルベルトはレティシアへ顔を向けた。


「レティ

 君と向き合って、二人で話をしたい

 私に、君の時間を少しでいいから、くれないだろうか?」


「………っ……」


 レティシアが表情を強張らせた事に、ジルベルトの胸がぐっと苦しくなる。

 ジルベルトの言葉に、なかなか言葉を返す事が出来ないレティシアの背中を押したのは、兄であるアランであった。


「レティシア

 一度しっかりと向き合う事は、大事な事であると思う

 自分が思っている事とは別の事が見える事もあるし、向き合ってみてから自分なりの結論を出した方が、後悔せずに納得できるのではないかと俺は思うが……

 決めるのはレティシア自身だ

 どうする?」


「………私は──」


 アランの言葉に、レティシアの心の中で強く感じた思いは一つであった。


(逃げたくない……

 この想いを伝えないまま、ジルと向き合う事を避けていたら

 どんな結末だとしても、後悔しかないと思うから……

 だから───)









 レティシアの手をひき、ジルベルトは王城の端にある、ある場所へ足を進めていた。

 その道のりはレティシアも覚えのある道のりであり、その場所へ辿り着くと懐かしさを覚えた。


「……ここ………」


「うん

 幼い頃二人で話をしたり、本を読んだり、よく一緒に過ごしたね」


 その場所は、樹木に囲まれた池がある場所で、その池の畔で幼い頃からレティシアとジルベルトは、よく一緒に過ごしていた場所であった。


「私にとっては大切な場所なんだ

 レティと共に過ごしたという、大切な思い出のある場所であって、何より私にとって大切な想いに気が付いた場所でもあるからね」


「大切な……想い……?」


 ジルベルトは、優しい表情でレティシアを見詰める。

 ジルベルトに見詰められ、レティシアが視線を彷徨わせた事に、ジルベルトの表情には切なげな表情が浮かんだ。


「レティ……

 私の事が怖いかい?」


 ジルベルトのそんな言葉に、レティシアは戸惑いの表情を浮かべながらも、顔を横にふるふると振る。


「怖くなんてない……」


「君にそんな怯えたような表情をさせてしまったのは、私が原因であるのだと思っているよ

 もっと、君の気持ちや様子に気を配るべきだった」


 レティシアは、ジルベルトの彼自身を責めるような言葉に、慌てて否定する。


「ち、違うのっ!!

 ジルが悪い訳じゃない!

 私自身の気持ちが原因なの!

 ジルだって……、こんな事……

 こんな私の気持ちを知ってしまったら、絶対に私の事が嫌になってしまうから!」


「レティ

 君の笑顔を奪って、表情を曇らせている原因を、私では知るにはあたいしないだろうか?」


「それは……」


「君の気持ちが知りたいのだよ

 そんな表情にさせるくらいの気持ちとは、何なんだ?

 私は君のどんな事も知りたい

 良い所は勿論、君が良くないと感じる事であったって……

 君の全てを受け止めるのは私しか居ないと、私以外には絶対に受け止めさせたくないと、強く思っているのだから」


 ジルベルトの強い想いに、レティシアは自分の中に抱えた感情を伝えようと決心した。


「………約束してくれる?」


「約束?」


「私の言葉を聞いて、私に対して嫌悪感を少しでも感じたならば……

 私との婚約を破棄して欲しいの……

 嫌だと思っているのに、偽ってまで側に置いてはもらいたくないから……」


「嫌悪感?

 婚約破棄………?

 そんな事、約束なんて出来ないと言ったら?」


「ジルっ!」


 ジルベルトの表情に悲壮感が漂う。


「君はそんなに、私との婚約をなかった事にしたいのか?」


「だって……、ジルが偽りの気持ちを私へ向けたまま、貴方の隣に居るなんて出来ないものっ!

 そんなの堪えられないの!!

 そんな……、義務感だけで側に置かれて、私でない他の方へ真実の気持ちを向けるようになっていく、ジルの事を見なければならないなんて……

 私は自分の感情を、きっと抑えられなくなってしまうから……」


 レティシアの瞳からポロポロと涙が零れ落ちていく姿を見て、ジルベルトは抱き締めて宥めたい気持ちを必死で抑えた。

 そのまま、堪えながらレティシアの次の言葉を待った。


「やっぱり、あの書物に書いてある事は真実だったのよ……

 私は……、私は……エリカ様へ、酷い感情を持ってしまったの

 ジルを取られたくないって……、ジルを取らないでって……

 私しか知らないジルの小さな事に、もうこれ以上気が付かないでほしいって……

 ジルの側へエリカ様には近寄って欲しくなかった、二人で話だってして欲しくない

 こんな……、ジルは私の所有物なんかじゃないのに、自分勝手にそう思って、そんな自分が怖くなったの

 自分に対して嫌悪感を抱いたし、ジルにはそんな私の感情を知られる事が怖かった

 知られてしまったら、もう二度とジルから笑顔なんて向けられなくなるって……そう思ったから……」


 ジルベルトは、涙でぐしゃぐしゃのレティシアを堪えられず、ギュッと抱き締める。


「レティは、その気持ちをなんて言うのか知っているかい?」


「ジル……?」


「君は私の事をどう想っている?

 もう、気が付いているだろう?

 レティ教えて?

 君の気持ちを教えて欲しいんだ」


「………私の恋は……物語のように、綺麗なものなんかではなかったわ……

 ジルの事を好きだって、ずっと気が付かないなんて、何て愚かなんだろうって思ったけれど、こんな感情を感じて気が付くなんて……」


 レティシアの言葉に、彼女を抱き締めているジルベルトの腕に力が入った。


「やっと、気付いてくれたんだね」


「え……?」


「私は、レティがその気持ちに気が付いてくれる事を、ずっと待っていた

 私は……、ずっと自分の想いを言葉にして、君に伝えたい事を我慢する事が苦しくて仕方がなかった」


「ジル?」


 ジルベルトの語る言葉にレティシアは、彼の腕の中で彼の事を信じがたいような表情で見詰める。


「こんな立場でなければ……

 発した言葉に、嫌でも強制力を持たせてしまう王族というこの立場でなければ、態度だけでなく言葉でも私の君へ向ける想いを沢山伝えていきたかった

 そうすれば、君の想いに君自身がもっと早く気が付けるようにする事も出来たのだと思う

 だが、この立場は言葉に出してしまえば、君の気持ちを自分で気が付かせる前に、忠誠心という貴族の(しがらみ)で縛ってしまうと思ったから、どうしても言葉に出せなかった

 こんなにも、自分の立場を呪った事なんてなかったよ

 レティ、私は君の事をずっと前から愛している

 君しかいらないと思うくらいに」


「………え?」


「君は嫌悪感を感じたのだろうが……

 本当にその相手を深く想っているのであれば、君が言ったような誰にも取られたくないという感情は、程度の差があれ当たり前の事だよ

 君が感じた独占欲なんて可愛いぐらいだ」


「可愛いって、こんな気持ちなんか……」


「君は知らないんだよ、私の独占欲(その感情)は君のものなんかとは比べ物にならないくらい、強い事を……

 それこそ我を忘れるくらい、昨日オスカーへあんな行動に出てしまう程にね」


「ジルは……私のこの気持ちに嫌悪感を抱かないの?」


 ジルベルトは、レティシアの頬に触れ、零れ落ちた幾つもの涙の跡を指で拭い、瞳に溜まった涙を吸い取るかのように唇を寄せた。

 そんなジルベルトの行為に、レティシアはピクリと身体を揺らす。


「嬉しいとしか思えない

 愛しい程だよ」


「………っ!」


「レティ、これからは何度でも言葉にして、私の想いを伝えるから覚悟して?

 私は、君の事を誰よりも愛している

 初めから手放す事なんて、絶対にあり得ない事であったんだ」


「………本当……?」


「ああ……

 君が学園で涙を浮かべた表情を見て、君に自分の気持ちに気が付いて欲しいと考えた自分を呪ったよ

 あんな表情をさせるくらいなら、縛り付けたとしても私の想いを先に言葉にして伝えてしまえば良かったと、何度も後悔した

 それでも、私は欲張りだから君の全てを自分のものにしたかった

 義務感や責任感から、兄のようなという身近な存在へ向ける感情だけで私の側に居てくれるのではなく、私と同じくらいの強い感情で私の事を欲しいと感じるくらいの、君の心が私は欲しかったんだ

 私の我が儘で、レティの事を苦しめて泣かせてごめんね」


「私は……、ジルの事をこれからも好きでいていいの?」


 ジルベルトは口付けをレティシアの額、目尻、頬と順番に落としていく。


「そうでいてもらわなければ困る

 もっともっと、君の心が欲しいのだから……

 愛しているよレティシア……」


 そして、ジルベルトの唇がレティシアのそれに重なりあった。




ここまで読んで頂きありがとうございます!

ブックマーク、評価ポイント感謝です!励みになっております!!


お互いの気持ちを伝え合いましたが、まだまだ続きますので宜しくお願い致します!

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