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第24話 自覚した気持ち

 その場に何ともいえない雰囲気が一瞬流れた後、アランはレティシアの元に近付くと静かに声を掛けた。


「レティシア、立てるか?」


 アランの問いに答えるように、小さく頷いたレティシアがその場から立とうとした時、足が震え上手く立つことが出来ない。

 その様子に気が付いたジルベルトが、レティシアを抱き上げようとすると、アランがその事を止めた。

 そんなアランへ、ジルベルトは訝しげな表情を向けた事に、アランは反対にジルベルトの事を見据えた。


「ジル、お前は今自分がどんな表情(かお)をしているのか、気が付いているのか?

 いつも冷静に状況を見極めるお前が、感情に任せてそんな風に行動に移すようならば、どういう理由があったとしても、父上がなんと言おうとも、レティシアとの婚約を俺は認められない

 レティシアの事がどうこういう前に、将来お前の側で仕える身として、見逃すわけにはいかないからだ

 一人の婚約者の為に、そんな風に自分をコントロール出来なくなる性質のまま、将来国王に即位すればただの暴君になるだけだ」


 ジルベルトの事を責めるような言葉をぶつけるアランを、レティシアは止めようとする。


「お兄様、私が悪いの!

 あの……ジル……、オスカー様はただ私の様子を心配して、声をかけてくださっただけなの

 私がこんな所で……

 私が悪いの……ごめんなさい

 ごめんなさい……」


 レティシアが状況を伝えた事に、ジルベルトは一つ息を吐くとオスカーへ目を向けた。


「オスカー

 お前の言い分も聞かずに、手荒な真似をして悪かった」


「あ……、いえ……

 勘違いされるような振る舞いをしていた俺にも、原因があるので……」


 ジルベルトがオスカーに謝る様子を見ていたレティシアは、自分のせいで二人の間に溝が出来てしまったら、どうしたらよいのだろうかと不安になっていく。

 そして、普段は余裕のあるジルベルトとは違う、感情を露にした彼の様子を目の当たりにして、様々な気持ちが綯交ぜになったような感覚を覚えた。

 レティシアは、先程、自分の感情の不安定さから、ジルベルトに向き合う事を怖がってしまった事を、彼がどう感じてしまったのだろうかと、不安に感じ彼に視線を向ける。


「ジル……」


 レティシアが声を震わせて、ジルベルトの名前を呼ぶ。

 いつもならそんなレティシアに、柔らかな笑みを浮かべて「どうしたのだい?」と、優しい口調で返事を返してくれるジルベルトは振り向くことはなかった。

 レティシアへ背を向けたままの彼の様子に、レティシアは言い知れぬ不安を感じる。


「レティ、私の短絡的な行動で、君に怖い思いをさせてすまなかった

 私は少し頭を冷やす必要があるようだから、このまま失礼する」


 ──ズキン……


「ジ……ル……?」


 一度も自分の方へ振り向くこともせず、素っ気なく淡々とした口調でその場を離れたジルベルトに、レティシアは今まで感じた事のないような胸の痛みを覚えた。






 あの後、アランと共に屋敷に戻ったレティシアは、アランにも誰にも多くを語らず「暫く一人にして欲しい」と、自室に入ると、寝台に着替えもせずに倒れ込んだ彼女の瞳から、幾つもの涙が零れ落ちていく。


(自分はジルにとって、特別な存在だなんて考えていたつもりはなかった……

 だけど、それはただの()()()で、ジルから優しくされるのも、いつも自分の言葉に温かな言葉を返してくれるのも、当たり前の事だと私は思っていたの……?

 初めてジルから、あんな素っ気ない態度を取られて、言い知れぬ大きな不安を感じた自分がいた

 このままずっと、そんな態度でしか接してもらえなかったら、どうしようって……

 私は───)


 その時、レティシアの脳裏には、今日頬染めておずおずと自分の気持ちをレティシアへ語った、エリカの姿が思い浮かぶ。

 そして、あの衝撃的な言葉も……



『私……、殿下の事をお慕いする気持ちに気が付いてしまったんです……

 殿下のことを、好きになってしまいました』



(エリカ様の言葉を聞いた瞬間、自分の中で芽生えたのは怒り……


 驚きや悲しみや不安なんかじゃ、なかった……

 ジルを取らないでっていう、真っ黒な怒りの感情だった……


 取らないでって……、私のものでも何でもないくせに……

 自分から婚約解消をジルへ申し入れたのに……

 それなのに、エリカ様からジルへそんな感情を向けて欲しくないっていう、強い気持ちで心の中が占められた

 ジルの隣で笑みを向けられる存在が、自分でなくなる事が怖くて許せなかった……

 私は……、私は……こんなにも──)


 ──ズキン……


 レティシアの胸が痛む。


「………ジルの事が好きだったのね……」


 自分の口からポツリと零れたその言葉にレティシアは、今まで自分の中に現れる感情が何なのか理解した。


 涙でぐしゃぐしゃなレティシアの顔に、自分に呆れたような笑みが浮かぶ。


(何時から……

 何時からジルの事が好きだったのだろう……

 自分の事なのに全然わからない、そんな自分に呆れる……

 胸が痛い……

 自分の振る舞いで周りを振り回して、あんな状況にしてジルから冷たく返されてから、漸く自分の気持ちに気が付くなんて……


 なんて愚かなんだろう……



 私は……、これから……どうしたらいいのだろうか……?)











 ────愚かなレティシア……

 気が付いたでしょう?

 貴女はあの書物に書かれている、悪役令嬢のレティシアと同じだって事が……



(………誰……?)



 ───もっと前から気が付いていたくせに

 あの書物のような結末になりたくないからと、自分のジルへの気持ちに気が付かない振りをして……

 そんな事をしても、無意味だったようね?



(………誰なの? ……そんな事を言わないで……)



 ───あの書物のように、愛するジルへの気持ちを邪魔する、主人公のエリカへ貴女は醜い嫉妬をするのよ



(………そんな事なんてしないわっ……)



 ───そうして、ジルから幻滅されていくの……

 貴女は所詮脇役……

 主人公の物語を邪魔する、お話の中の障害物でしかない……

 幸せな結末なんて訪れない存在なのよ……



「嫌っっっ!!」



 悲鳴のような声を上げて瞳を開くと、レティシアの目に映ったのは、夕焼けのオレンジ色に染まる見慣れた私室であった。


「レティシア様っ!? どうなされました!?」


 次に聞こえたのは、私室の扉をノックし焦ったような声を出す侍女のエマの声であった。

 レティシアは、自分が学園から帰ってきて私室に入った後、こんな時間になるまで、いつの間にか眠ってしまっていた事に気が付く。


「夢……」


「レティシア様!? 扉をお開けしても、宜しいでしょうか!?」


「あ……私は大丈夫よ、エマ

 悪い夢を見ていたようで……

 えっと……、中へ入っても構わないわ

 まだ着替えていないの……」


 レティシアは、侍女のエマを心配させないよう心を落ち着かせて、ゆっくりと声を掛けた。


(夢……

 怖いぐらいの夢であったけれど……

 それは夢ではなくて……

 現実になってしまうかもしれない夢……

 だって、夢の中で私に語りかけていたのは、書物の中の自分(わたし)だった……)


 この見た夢は、自分の恐怖心や不安な気持ちから見たのか?

 それとも既に決められている行く末を再認識させる為に、不思議な力が働き見せられたのか?

 どっちなのだろうかと、そんな事をレティシアはぼんやりと考えていた。



ここまで読んで頂きありがとうございます!

評価ポイント、ブックマークありがとうございます!励みになっております。



漸く自分の感情にレティシアが気が付きましたね。これからも、まだ続きますので宜しくお願いします!

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