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第17話 愛情と比例する独占欲

 ジルベルトは、傍目からはにこやかに笑みを浮かべているように見えるが、オスカーには彼のその笑みの下に隠されている、殺意にも似たような感情を感じた。


「ジル、生徒会のお仕事は?

 今日、各クラス役員を集めて会議があると、先生が仰有っていたけれど……」


「うん、早めに終わってね

 そうしたら、まだハーヴィル家の御者が、レティが学園内に居ると言っていたから、探していたのだよ

 オスカーと一緒に居たのだね

 何の話をしていたのかな?」


「あの……、それは……」


 レティシアは、オスカーと話していた事をジルベルトへ伝えていいのか迷っていると、オスカーが変わりに答える。


「俺の行動について、彼女が心配してくれていたんだよ」


「へぇ、そうか

 レティはずっと、オスカーの様子を気にしていたものね

 ゆっくり話は出来たかい?」


「ええ

 なんだか差し出がましい事を、言ってしまったような気もするのだけれど……

 オスカー様に、失礼な事を言ってしまっていたら、申し訳ありませんでした」


「そんな事はないよ

 俺が意地をはって、見ようとしなかった事に、気づかせてもらったからね

 ありがとう」


「それなら、良かったです」


 オスカーの穏やかな表情に、レティシアはホッとし、柔らかな笑みを彼に向けた。

 そんな二人の様子を、ジルベルトは一瞬表情を消して見たあと、すぐ笑みを浮かべるとレティシアへ声を掛ける。


「レティ、私もオスカーと少し二人で話したい事があるんだ

 今日、君の事をハーヴィル家の屋敷まで、私が一緒に送りたいと思っているのだが、私の護衛と一緒に、先に馬車寄せまで向かって、待っていてくれるかな?」


「ええ、わかったわ

 オスカー様も、今日はずけずけと言いたい事を言ってしまって、申し訳ありませんでした

 また、明日……」


「こちらこそ

 また、明日ね」


 レティシアがその場から離れた後、ジルベルトはオスカーの事を見据えた。


「ずいぶん、スッキリとした表情(かお)をしているね

 レティから、心の中のしこりを取り除いてもらった気分は、どうだい?」


「それは……、自分が意地をはりつづけて、周囲を振り回していた事を再認識させられた

 そして、それがいかに自分が幼稚であったという事もわかった

 もっと頭を使えば、方法はいくらでもあったのだとも、改めて考えさせられたよ」


「まぁ、でもオスカーなりに考えた方法であったのだろう?

 誉められるような方法ではないけれど、特別悪い事をしていた訳でもないと、私は思うけどね?

 マルクス家の嫡男という立場や、未来の騎士団長という地位を約束されている存在でなくとも、オスカー自身が私には必要だと思っているから、今も側に仕えてもらっているし、これからもそうであって欲しいと私は思っている

 それに、公爵家を継がなくとも、ゆくゆくはマルクス家が所有している伯爵の爵位を、お前が継ぐ事になるだろう

 サイモンの立場をそのままにしていても、オスカーが私の側近として仕える立場である事は十分なんだ

 愚かな周りの言葉に、振り回されなくていい

 オスカー、お前は私にとって信頼している友人でもあるのだからね」


「殿下……」


 ジルベルトの言葉に、今までの自分の振る舞い方が、いかに馬鹿げた振る舞いであったのか、強く考えさせられたオスカーであった。

 だが、オスカーが再度ジルベルトへ顔を向けた時、ジルベルトの纏う雰囲気が、少し前までの様子とガラリと変わった事に、ぞくりとオスカーの身体が反応した。


「それで?

 己の隠していた心の傷を癒してもらって、お前も噂の妖精姫を、手にしたいと思ったのかい?」


「……え?」


「信頼しているオスカーだから、言うけれど……

 レティに心奪われ、彼女を欲しいと望む者がいれば

 私は誰であろうとも、容赦はしない

 それが、たとえ信頼している大切な友人であろうともね?

 その事をオスカーにも、しっかりと覚えておいてほしいと思ったのだよ」


「……………」


 目の笑っていない笑みを向け、そんな事を告げたジルベルトの言葉がオスカーの耳に届いた瞬間、全身の身の毛がよだつ程の殺気をオスカーは感じ、握りしめた拳にはじっとりと汗をかいていた。


「オスカーは、わざわざ念を押さなくても理解しているとは思ったけれど、その事をお前にも伝えておきたくてね

 じゃあ私は、レティを待たせているから、先に失礼させてもらうよ

 オスカー、今日の生徒会の会議にも参加していなかったが、庶務の任も大切な役割であるから、あまり生徒会の仕事も疎かにしないのだよ」


 そうオスカーへ伝えた後、ジルベルトはその場を離れた。

 残されたオスカーは、言葉を発する事もなく佇む。


(………まだ自分自身、ぼんやりとしかわからない感情なのにもかかわらず、その気持ちにしっかりと杭を打たれた

 彼女を欲しいと思う事すら、許さないと──)


 オスカーの脳裏には、涙目になりながら必死に自分の事を気にかけてくれたレティシアの姿と、先程見せてくれた柔らかな笑みを浮かべたレティシアの姿が、交互に思い浮かぶ。

 再度、拳を握りしめたオスカーは苦悶の表情を浮かべた。


(そんな事を、言われなくともわかっている

 彼女は自分が手を伸ばす事すら、許されない存在だという事を……

 だけど……、何なんだこの喪失感は──)





 オスカーと別れた後、そのまま馬車寄せまで向かったジルベルトは、馬車前で待っていたレティシアへ笑みを向けた。


「先に馬車に乗って待っていて良かったのに」


「そんな、王室の馬車にジルが乗っていないのに、私が先になんて乗れないわ」


「そうか、待たせてしまってごめんね

 さぁ、帰ろうか」


 ジルベルトは、レティシアの前に手を差し出し、レティシアを先に馬車に乗せると、その後自分も乗り込む。

 馬車が動き出した後、ジルベルトは口を開いた。


「漸くオスカーも、自分の振る舞いについて、見詰め直す事が出来たみたいだね

 これも、レティの言葉のおかげだと言っていたよ」


「私は、自分の思った事をただ言っただけで……

 当事者でない私が、踏み込む事は良くない事だと思ったけれど、知らないふりをする事が出来なかったの

 でも以前と同じような、オスカー様の表情が帰り際見られて、なんだかホッとしたわ」


「うん、そうだね

 そして、レティは本当に無防備すぎる」


「え……?」


 ジルベルトは初め、レティシアと向かい合って座っていたが、彼女の隣に移動すると、彼女の髪の毛を一束とり、自分の唇にあてた。

 唇から伝わるレティシアのサラサラな髪の毛の質感と、ふわりと薫る甘い香りを堪能するかのように、一度目蓋を閉じる。


「ジル……?」


「早く……、全て私のものに出来たなら……

 どれだけ、安心出来るのだろうか……」


「安心……?」


 ジルベルトは、ゆっくりと自分の唇からレティシアの髪の毛を離すと、自分の指に髪の毛絡ませ、そして指から滑り落ちる彼女の蜂蜜色の髪の毛を、自分の胸の中に沸き起こる黒い感情を押し留めながら見詰めた。


「レティ、あまり一人で私から離れて、無茶はしないで欲しい……」


「無茶なんて……」


「うん……

 レティの行動を制限したくはないけれどね

 他の男と君が二人きりで居るところを、他の者が見て面白おかしく噂をする者もいるかもしれない

 その相手が、たとえ私の仲の良い友人であったとしてもね

 そんな愚かな噂で、君が傷付く所を私は見たくはないんだよ」


「あ……、そ、そうよね

 もう、子どもではないのだし、無闇に二人きりになる事は良くないわよね

 ごめんなさい」


「謝ってほしい訳ではないのだよ

 ただ、君の笑顔には魅了の力のような、不思議な力があるから放っておけないんだ」


「魅了の力って、何を言ってるの?

 そんな冗談を言わないで

 私に、そんな大層な力なんてないわ」


 まるでジルベルトが、冗談を言ったようにレティシアは捉えたのか、困ったような笑みをジルベルトへ向ける。

 そんなレティシアの表情(かお)を、ジルベルトは笑みを返しながら見つめた。


(本当に君はわかっていない……

 君の笑顔に一度取り憑かれれば、それはもう中毒のように手を離せなくなるんだ

 私のようにね……

 君を籠に入れて、誰にも見つからない場所へ閉じ込めてしまいたい

 君を、私しか触れる事が出来ないようにする事が出来れば、どんなにいいのかと、本気で何度も考えさせられたぐらいなのだから……)



 そんな闇のような感情を、自分の心の中にジルベルトは閉じ込め、レティシアの手を握ると指先へそっと口付けを落とす。

 そして、昔からの願望を胸の中で唱えていった──



 ───早く自分の気持ちに気が付いて、私だけの妖精姫……

 そうしたらその時は、君の事を誰の色でもない、私の色に染めてあげるから……



ここまで読んで頂きありがとうございます!

ブックマークもありがとうございます!



ジルベルトの独占欲に引かれた方がいませんか…?

そんな、ジルベルトの心の中に潜む闇の部分を明かした今回のお話でした。


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