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第13話 剣士と王子の過去

今回のお話はオスカー視点のジルベルトとオスカーの過去の話になります。

その後の話しの流れに関わってくるのでこちらに入れました。

 ───今から12年前……



 王城の騎士団が使用する鍛練場で、もうじき六歳の誕生日を向かえる第一王子のジルベルトと、ジルベルトと同い年の騎士団長の息子でマルクス公爵家次男であるオスカーは、初めて出会う事となる。

 今までジルベルトの鍛練では、マルクス家からは長男であるサイモンが相手をしていたが、この日は体調を崩した長男の代わりに、次男であるオスカーがジルベルトの相手をする事になったのだ。

 その事に、オスカーは酷く面倒と感じていた。


 《王子のご機嫌とりなんて、面倒くさい……

 王子を勝たせる為に手加減しなくちゃならないし、そんな手合いをやったって、自分の鍛練になんか全くならないのに……

 兄上も、どうしてこの日に限って体調を崩すのかな……

 第一王子の側近にだって、ほぼ確定しているのは兄上であるのにさ

 しかも、国王陛下まで見学に来ているし……

 本当に面倒くさい……》


 そんなオスカーの様子に、父親であるマルクス公爵は再度注意を述べる。


『オスカーわかっているのか?

 何度も言うが、普段お前が手合いをしているような相手とは違うのだぞ

 集中して取り組む事を、忘れるな

 相手が殿下であるという事を、しっかりと覚えておけ』


『マルクス騎士団長

 その言い方では、私が相手だから手加減して負けろと言っているように、聞こえますが?』


『いえ、そういうつもりではありませんが……

 次男のオスカーは、殿下との手合いはもちろん、王族との手合いも初めてであります故、何か間違いがあったらと危惧したまでであります』


『オスカーも、随分腕が立つと聞いています

 私は、彼と初めての手合いをすると聞いて、楽しみにしていたのですよ』


『殿下の納得いくような相手となれば、良いのですが……』


 綺麗な笑みを向けたジルベルトに、オスカーはモヤモヤとした気持ちが溢れてくる。


 《数年後には王太子になり、そして未来の国王となる存在……

 周りからも存在を認められて、悩みなどきっとないのだろうな……

 このお綺麗な王子様は……》


 オスカーは、そんな気持ちのまま始まった手合いに、先程まで感じていた考えなど取り払われた。


 《こいつ……》


 オスカーは、涼しい顔付きで際どい太刀筋を見せてくる目の前の存在に、押されつつあった。

 そんなオスカーへ、ジルベルトは打ち込んだ時に囁く。


()()この程度なの?

 そうなら、つまらないな』


『………っ!?』


 鍛練用の刃先を潰してある模造刀ではあるが、刃同士がぶつかり合う金属の音が響き渡る。


『その程度で、私との手合いに手を抜いていたら、怪我をするよ?』


『……このっ!』


 オスカーは、ジルベルトの言葉に無性に腹がたち、ジルベルトが打ち込んだ剣を受け流すと、距離を取り構えかたを変えた。

 そんなオスカーの様子に、ジルベルトは口角を上げる。

 その様子を見ていたマルクス公爵は、オスカーが本気を出そうとする事を制止しようとした時、国王が公爵を止めた。


『このままで良い』


『ですが、陛下!

 殿下が万が一お怪我などしたら』


『いや、あいつには丁度良いのかもしれない』


『陛下……? 何を……?』



 構えを変えたオスカーに、笑みを向けたジルベルトは言葉を発する。


『漸く本気を出してくれるのだね

 それなら、私も手加減しなくともいいよね?』


『何っ……?』


 ジルベルトの本気の太刀筋に、オスカーは相手が王子である事など頭からは抜け落ちた。

 ジルベルトの殺気に、本気でやらなければやられると、直感的に感じたのだ。

 どちらとも譲らない長い打ち合いに、二人の息は荒くなり大量の汗が身体中から流れ落ちる。

 ジルベルトの持つ剣が手汗で滑り一瞬揺れた事を見逃さなかったオスカーが、ジルベルトの剣を払い落とした事で勝負が決まったと、その場にいたジルベルトとオスカー以外の者は思ったが、ジルベルトは剣を払い落とされた手を、そのままオスカーへ翳した。

 ジルベルトの魔力を感じ取ったオスカーは、咄嗟に防御の陣を発動させた瞬間、ジルベルトの火魔法の魔方陣がオスカーを包み爆風が辺りを包む。


『危ねぇ……』


 ジルベルトの爆風を防御したオスカーが呟くと、ジルベルトは破顔した。


『私に武術で本気を出させたのは、君が初めてだ!』


『なっ、魔力まで使うなんて、武術の手合いなのにあり得ないだろ!?

 防御の陣を発動させていなかったら、大怪我だ!』


『魔力は多少手加減したし、君ならかわせると思ったからだよ

 それに、実戦も頭に入れて鍛練しているのだから、実戦と同じ戦術でなければ意味がないじゃないか

 君は面白いね、これからも私との相手をして欲しいな』


『冗談っじゃ──……っ!

 ……殿下に対して、失礼な振る舞いや言葉遣いを

 失礼致しました

 後……、殿下のお相手は、我が家の嫡男である兄でありますので……』


 オスカーは、相手が王子であるという事を忘れて今まで接してしまっていたが、口調や振る舞いを正す。


『サイモンも優秀ではあるけれど、私が全力を出してついてこられるのは、今のところ君だけだよ、オスカー

 父上から、自分の相手は身分や立場などを考えないで、私が選んだ相手なら、誰でも良いと言われている

 私は、君と武術の鍛練をしたい』


『ですが、殿下──』


 ジルベルトの言葉に、オスカーは様々な感情から断ろうとする事を、父親の公爵が止める。


『オスカー、これは殿下が決められた事だ

 断る事は不敬にあたる

 これから、殿下のお相手をするのはお前だ』


『そんなっ!だったら兄上はどうなるのですか!?

 我が家の嫡男は、兄上だ

 将来的に、殿下の側に仕えるのだって……』


『家を継ぐ事と、殿下の鍛練のお相手は別物であると思いなさい』


 オスカーの胸中は複雑な感情が渦巻いた。

 いつも、嫡男である兄の存在をオスカーはたてており、さらに自分は目立たないようにと、自分の存在感を人前で出すような事は少なかった。

 自他共に、マルクス家の兄弟の武術の才能にはあきらかな差がある事は認識されていたが、その事を誰も指摘する事はなかった。

 それは特に問題がなければ、長男が家を継ぐという、昔からのこの王国の仕来たりがあったからだ。

 それはオスカー本人も理解しており、兄が家を継ぐ事は当然だと思っていた。

 それなのに、第一王子の鍛練の相手に指名されたという事が、貴族社会に広まれば、兄の立場はどうなってしまうのだろうかという不安を感じたのだ。

 オスカーのそんな複雑な感情を見透かしているかのような表情を、ジルベルトから向けられる。


『君の中で、私との手合いを共にする事に、何か引っ掛かる事があるのならば、教えてくれないか?』


 ジルベルトがオスカーへそのように言葉を掛けると、オスカーが答える前に公爵が謝罪した。


『殿下、息子の不敬な態度を申し訳ありません』


『公爵、私はオスカーに聞いている

 オスカー、私が王族であるからとかそういうことを考えずに、胸のうちを教えて欲しい

 引っ掛かりを覚えたままでは、おそらく私が求めているような力を、君は出さないと思うからね』


 自分の考えはジルベルトにはお見通しかのような言葉に、オスカーは息を一つ吐くと言葉を発した。


『殿下のお側に仕え、将来的にこの王国の騎士団を率いる騎士団長につくのは、自分の兄であります

 それなのに、自分が殿下のお相手を任される事は、周囲の人間に誤解を生じかねないと思ったのです』


『サイモンも、優秀な人間である事はわかっているよ

 そんなサイモンの未来を奪うような真似を、私は絶対にしない事を、オスカー、君に約束する

 君が、兄であるサイモンの事をとても大切にしている事はわかった

 私には、本気で鍛練出来る相手が必要であるんだ

 その相手は、君しかいないと思っている

 将来的な立場等を考えずに、私の友人として相手をしてくれないだろうか?』


 真摯なジルベルトの言葉に絆されたのか、オスカーはその申し出を引き受ける事にした────……






 ───そんな過去の記憶を、ぼんやりと思い出したオスカーは、自嘲めいた薄笑いを浮かべる。


(どうして、こんな昔の事を思い出しているんだろうな、彼女の言葉のせいか……?

 あの頃の俺は、まだ今のようにひねくれた考え方をあまりせずに、殿下と関わっていた

 殿下との手合いは、正直とてもやりがいがあったし楽しかった

 だけど……、こんな俺が殿下の側近候補だと認識されたら、駄目なんだよ……

 俺がこんなにも良くない振る舞いをしてるというのに、殿下は今も俺を側におきながらも、俺との約束を守って兄上の立場を守ってくれている

 こんな、ただ剣術しかない俺を側に置いていて、殿下にとって利点など殆んどないだろうに……

 俺が殿下の相手をしなくとも、既に殿下の武術の素質は俺なんかと比べ物にすらならないのにも関わらず、俺を未だに側に置いていてくれているのは、殿下の慈悲なのだろうか……

 もう……、俺なんか見限ってくれていいのに……)


 オスカーの、胸中にはなんとも言えない感情が蠢いていた。


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