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第1話 婚約解消を望む理由

お久しぶりな方もはじめましてな方も一ノ瀬葵と申します。

三作目となるこの作品もどうぞ宜しくお願い致します!

設定の甘さなど色々目につくかとは思いますが、広いお心で読んで頂けるとありがたいです。

最後までどうぞお付き合いくださいませ。

 隣国とも友好的な関係を築き、国内も穏やかな気候で豊かな資源もあり、安定した情勢であるオーガストラ王国。

 その五大公爵家の一つであるハーヴィル公爵家の十五歳になる長女レティシア・ハーヴィルは、お忍びで侍女を連れいつものように、城下町を散策していた。

 レティシアは、蜂蜜色の真っ直ぐな髪色に、髪色と同じ長い睫に縁取られた翡翠のような色味の大きな翠眼を持つ容姿の整った少女である。

 その容姿や大人しめな性格から、儚げな雰囲気をも纏い、レティシアの事を公爵家の妖精姫と、貴族の間で囁かれている事は彼女自身は知らない。

 家路に着く為に、街の外れに停めた公爵家の馬車の前へ戻った時、レティシアは一冊の書物を拾う。

 彼女は周りを見渡すが、街外れという事もあり人気は疎らだ。

 拾った書物をどうしようか迷ったレティシアであったが、その書物を手放す事が出来ずに、持ち帰る事にした。

 その書物が切っ掛けで、自分の人生が左右されるとも知らずに……


 どうして、レティシアがその書物を手放す事を躊躇したのか……?

 その訳は、その書物の表紙にあった。

 とても見覚えのある人物の絵姿が、描かれていたからだ。


(市井では、こんな書物が出版されているなんて知らなかったわ

 しっかり許可を取られているのかしら?

 黙って持ってきてしまって、大丈夫だったのかわからないけれど……

 だけど、この書物の存在を見過ごす訳にはいかないし……)


 レティシアは、その書物へ再度目を落とすと、複雑な心境にかられていく。




 ◇*◇*◇



 数日後、レティシアは王城へ一人で登城していた。

 その訳は、二つ年上でこの王国の第一王子であるジルベルト王太子に、ある事を告げる為であったからだ。


 レティシアの待つ王城の応接室に、ジルベルトが来たことが知らされると扉が開かれ、彼女は開かれた扉の向こう側の相手へ、綺麗な淑女の礼(カーテシー)を向ける。

 襟足が少し長めのプラチナブロンドに、瞳は金色に輝き、長身で細身ではあるが鍛えられた体躯のジルベルトは、レティシアへ椅子に座るよう伝えると、自分も長椅子に腰掛け長い足を組んだ。


「珍しいね、君が私との約束がない日に急に登城するなんて」


「殿下がお忙しい事はわかっておりましたが、急な登城をお許しください」


「君ならばいつでも歓迎するよ

 レティシア嬢と大事な話をしたいから、お茶を出し終えたら、あなた達はこの部屋から下がってくれるかな?」


 ジルベルトは、侍従やメイド、近衛騎士達にそう伝えている自分へ向ける伺うようなレティシアの視線に気が付くと、彼女へニッコリと笑みを向けた。


「それで?

 私に用とは何かな?」


「あの……

 殿下にお願いしたい事があったのです……」


()()


「え?」


 初めは、テーブルを挟んでレティシアが座る椅子の向い側に座っていたジルベルトであったが、部屋に彼女と二人きりになると笑みを向けながらおもむろに立ち上がる。

 彼はレティシアの隣へ腰掛けると、背もたれに肘をつき、また呟いた。


()()、で、あっただろう?」


「あの……で、殿下?」


 ジルベルトは、レティシアの狼狽えながら自分の事を呼ぶ言葉を聞いて、さらに笑みを深める。

 そして、レティシアの腰に手を回し、自分の側に彼女を抱き寄せた。


「どうして、先程からそんなに他人行儀なのかな?

 いつも言っているけれど、今は公の場ではないのだから、私の呼び方は殿下ではないだろう?

 ねぇ? レティ?」


 ジルベルトに抱き寄せられ、身動きがとれないレティシアは、身を固くすると、精一杯腕を伸ばしジルベルトの胸を押し離れる。


「ジ、ジルっ! 近いです!!」


 そんなレティシアから、欲しい言葉を貰ったジルベルトは、彼女の髪の毛を一束手に取ると自分の唇へ近付け、柔らかい笑みを向けながらそれに口付けた。

 ジルベルトのそのような振る舞いに、レティシアの頬は赤く染まる。


「私達の間柄で、そんな他人行儀な態度を取ったら駄目だよ?

 何度言っても君は頑ななのだから、困ったものだ

 それで、レティの私へのお願いとは何かな?」


 ジルベルトの甘い声や態度に、レティシアは今日訪れた本題を忘れてしまいそうになっている自分に首を横に振り、ジルベルトを強い眼差しで見詰めた。


「あっ……、あのっ!

 私との婚約を考え直して欲しいの!!」


「…………………」


 ジルベルトは笑みを深めたが、全く彼の目が笑っていない事にレティシアはすぐ気が付く。

 だが、レティシアは気持ちを強く持って、再度ジルベルトへ伝えた。


「王族のジルに対して、臣下の娘でしかない私から、婚約解消のお願いする事は立場をわかっていないっていう事も、婚約式の準備が始まっている事もわかってる

 でも、考え直して欲しいの!」


「君との婚約を、私に考え直して欲しい訳がレティにはあるっていうこと?

 私でない誰か別の気になる相手でも、出来たのかい?」


 ジルベルトは笑みを浮かべてはいるが、声には冷たさが含まれている。

 そんなジルベルトの様子がレティシアにも伝わっていたが、もう後戻りも出来なく言葉を続けた。


「私にはそんな相手なんていないわ

 私ではなくて、ジルが私と婚約している事に、きっと後悔する日が来るから……

 だからそれなら、そもそも婚約なんてしない方がいいと思ったの」


 レティシアの言葉に、ジルベルトは訝しげな表情を浮かべる。


「後悔? どういう事?

 レティはそんな説明で、私が納得して君の話を受け入れるとでも思ったの?」


「それは……」


「レティ、本当の事を教えて?

 どうして、そんな考えに至ったんだい?」


「……………」


「レティ?」


「………よ……」


「よ?」


「……っ……預言書を拾ってしまったのっ!」


「………………

 っ……~~~~~」


 ジルベルトが、瞳を大きく見開き、驚いた表情をしたかと思ったら、俯き肩を揺らして笑い出した。

 レティシアは、そんな彼の姿に自分の話が冗談だと彼が捉えたのだと感じ、再度本当だと伝える。


「ジルっ! 笑わないで!

 本当なのよ!?」


「いや、だって……、預言書って……

 何を言い出すのかと思ったら……

 で? その()()()とやらには、何が書いてあったんだい?」


「冗談だと思っているのね!

 本当に預言書なのよ!

 公になっていない、他者じゃ知り得ない事まで事細かく記されているの!」


「レティが嘘を吐いているとは思っていないよ?

 だけども、本当にその預言書と君が言うものが、本物の預言書だなんて思えないよ

 私が、君との婚約に後悔するなんて事はあり得ない

 そもそも、その預言書とやらの書物を読んで、君は何故私が後悔するって思ったのだ?」


 レティシアは、ジルベルトへ拾った書物について、語った。


「………その書物の内容は、私と同じ歳のご令嬢が主人公として書かれている物語なの

 その書物の物語は、そのご令嬢が来週から私も通う王立学園に入学する所から始まるわ

 そして主人公の彼女は、先輩になるジルと学園で出会うの──


 そのご令嬢の周りには、私のお兄様や、アル……第二王子殿下のアルフレッド殿下に、ジルの仲良くされているご子息達も出てきて、そして勿論私も登場するわ

 その書物の中でも私はジルの婚約者だけれど、ジルがその主人公と運命的な出会いをしてから、彼女とジルが距離を縮める姿に私は醜い嫉妬をして、そのご令嬢に私は何度も酷く接するの……」


 レティシアの書物について語る内容に、ジルベルトの表情は段々と険しくなっていった。

 レティシアの説明はさらに続く。


「そんな私の事を、えっと……

『悪役令嬢』?……って、いうような言葉の表現で周りは見ていて、誰も私を止められず、私の振る舞いは日々エスカレートしていくわ

 ジルはそんな私に嫌悪感が日に日に増していくの


 そして仲を深めたご令嬢の手を取る為に、私はジルの卒業式の日に行われる卒業パーティーで、ジルからそのご令嬢への何度も行った理不尽な仕打ちによって、彼女を傷付けた事を理由に断罪されて、婚約破棄を突き付けられるの

 その後すぐ、ジルはそのご令嬢と婚約を結ぶのよ


 そんな状況に頭に血が上った私は、そのご令嬢へ危害を加えてしまう

 それを、ジルは最悪な事になる寸前の所で止める事が出来るけれど、王太子の婚約者を害した私は処刑を言い渡されて…………


 観衆がいる中………、ジルの目の前で………

 ジルに蔑む目で見下ろされながら………処刑台で私は───」


「……っ!」


 レティシアの大きな瞳から涙が零れ落ちた時、ジルベルトはレティシアを抱き締めた。

 抱き締めたレティシアの身体は、細かく震えており、それに気が付いたジルベルトは抱き締めている力をさらに強める。

 レティシアの身体の震えが少し治まると、ジルベルトは彼女の額に自分の額を触れそうなくらい近付け、瞳に溜まった涙を親指で拭いながら謝罪の言葉を口にした。


「ごめん……」


「ジル……?」


「泣かせてごめんね……

 そんな酷い内容だとは、思いもよらなかったから……

 こんなにもおぞましい内容を、君に語らせてしまった」


 ジルベルトの言葉に、レティシアはポツリポツリと、言葉を溢す。


「その書物に書かれている事が、どれも恐ろしくて……

 だけど、作り物だともどうしても思えなくて……

 それで───」


「最悪な事が起こらないよう、私との関わりを絶つ為に、婚約の話をなかった事にしたいと、君は伝えにきたのだね?」


 レティシアはジルベルトの言葉に、コクリと頷いた。



 レティシアとジルベルトは幼馴染みである。


 レティシアには、ジルベルトと仲が良い彼と同じ歳の兄がいる。

 ジルベルトの父親である国王と、レティシア兄妹の父親である宰相が旧知の仲である事から、幼い頃から二人は親しくしていた。そんな関係性や、年齢差、容姿、教養、家柄的にもレティシアは、幼少期にはすでにジルベルトの婚約者候補筆頭となっていた。

 そして、この王国で十六歳になる年から貴族の子息令嬢が入学する事を義務付けられている王立学園へ、レティシアが入学を迎えるこの時期に、ジルベルトとの正式な婚約が内定したのだ。

 二人の婚約はまだ周知されてはいなかったが、レティシアが成人と見なされ社交界デビューができる十六歳の誕生日に、二人の婚約式が予定されていた。


ここまで読んで頂きありがとうございます!


悪役令嬢?っぽいお話を考えていた中で出来た作品ですが……

タイトルにもある悪役令嬢ですが、悪役令嬢の要素はほぼ皆無だと思って頂ければと思います。その理由はお話が進むにつれて解明出来ればと……



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