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*****17 招かれざる日


 あれからもう、1か月が経とうとしている。

 正月早々のあの依頼は未だ記憶に新しい。

 依頼人である杉本さんは無事御霊(みたま)が定着し、あの日以降彷徨い歩くことも、憑依されることも無くなったという。そして、その心も。

 一樹達が闇の中、己の過去と対峙していた恐らくその時、杉本は亡くした命と対話していたのかもしれない。彼女から直接その話を聞いたわけではないが、意識が回復した彼女と対面した際に見た彼女の表情が、確かにそれを肯定していた。少なくとも一樹には、そう感じられたのだ。

 でも、彼女にとってこれは終わりではないのだろう。これからもずっと持ち続け、共に生き続けるのだ。

 だけれど、何よりも。

(彼女にはゆっくりと、(いた)んでほしい)

「立ち止まって、認めて、それから明日へ歩き出さなきゃ」

 そうしてそれは、一樹自身もそうなのだ。

 依頼完了の報告に一樹達が歩廊座(ほろうざ)を訪れると、そこには寿一がいた。

 一樹に一瞥を投げ、立ち去ろうとした背中に呼び掛ける。

「俺、続けるから、仕事」

 一樹自身も驚く程の、それははっきりとした口調だった。

 寿一が足を止めたのは一瞬。「そうか……」と聞こえた呟きは確かに一樹の耳に届いていた。

 神崎とは歩廊座前で別れた。

 寿一が歩廊座を出てすぐ2人の男が店を訪れたのだ。

 一目見て術者と解った。無表情で神崎を見つめていた男達からは結構な威圧感が感じられ、漏れ出る霊気からは、その人物の怒りまでも伝わってくるようだったのだ。

 だが隣にいた神崎は出会った頃の飄々(ひょうひょう)とした態度で深いため息を1つついただけだった。

 多分あれはポーズなのだろう。

 大丈夫かな? と一樹が思案していた時だった。

 神崎がくるりと一樹の方に向き直る。瞬時に一樹の両手を握った神崎の表情は真剣そのものだ。

「今すぐ帰るのは正直名残惜しいけど、嫌なことは先に終わらせないと好きなことを楽しめないからね。だから、今日は大人しく帰るよ」

「お、おう」

「でも必ずここへ帰るから待っててね、マイフェアリー」

 ふざけたことを言っているというのに、この爽やかな笑顔はなんなんだ。

「なんつーか俺、今すぐお前殴りたくなったわ」

 あの後神崎と少し話した過去の事。やはり、あの少年は神崎だった。そして、神崎の会いたい人物がまさか幼い頃の自身であったとは思いも寄らず、一樹はいささか動揺した。

 しかも、推測が事実に変わってからというもの、最初の印象とかけ離れた態度と言動を発してくる神崎はもはや手が付けられず、暫くすると動揺もぶっ飛んで、すっかりぞんざいな対応をしてしまっている一樹なのであった。

「えー、それはヤだな」

「だったら普通に呼べっての」

「! じゃあ、一樹! 一樹って呼んでいい?」

 まだ握られたままの両手に力が込められる。

 なんだろう? これは。一瞬遠い目になる一樹であった。

「判ったから。いいから、はよ帰れ」

「うんっ 帰る! で、また来る! 絶対だからね」

(まるで懐いた犬みたいだな)

 神崎の後ろにいる大人達の複雑そうな表情はこの際見なかったことにしよう。

 そこからがあっという間だった。満足といわんばかりに、颯爽(さっそう)と駆けていったその背中の何と軽やかに見える事か。

「じゃあ、またね。一樹」

 振り返り、手を振った神崎はとびきりの明るい声で、笑顔だった。


 


『なんや一樹。ぼーっとして』

「んー、うん」

 フクの言葉にとりあえず返事をする。

 そんな一樹の視線は教室の掛時計に向けられていた。

 チャイムが鳴ったのだ。クラスメイト達が次々に席につき始める中、一樹がスマホの電源を切ろうとそれを手にした時だった。

「ねぇ聞いた? マジやばい子いたって~」

「なにそれ! なにそれ!」

 クラスの女子の声とコミュニケーションツールの通知が鳴ったのが同時だったように思う。

 なんだろう。なんなんだろう、嫌な予感しかしない。

 その直後教師と入ってきた人物に、予感は現実となる。

『お、なんやあれ、幻か~?』

 とぼけたフクの声に突っ込むことも出来ず、一樹は言葉を飲み込む。

 栗色の柔らかそうな髪に同色の瞳。その人物は一樹に気付くと軽く手を上げて見せた。

「はじめまして、神崎友也です。どうぞよろしく」

 教師の横に立って甘い微笑みを浮かべている人物と、釘付けになっているクラスの女子の叫び声。

「好みのタイプは黒髪で仕草がキュートな子かな」

 そうして一樹に向かっていつものウィンクをしてみせる。

 また女子の黄色い声が響き渡った。

『お、なんや~。一樹モテ期到来やん?』

「うるさいよ」

 一樹は気が遠くなった。

 ようやく過去にケリがついて、以前より前向きに『これから』を進んで行ける。

 そう思っていたのに。これから一体、どうなるんだろう?


 

 にっこにこの神崎とフク、諦めにげんなりした一樹を窓の外、覚めるような青空が見下ろしていた。







 第1章 完(20200207)まきむら唯人 第2章は14日に更新します

 第1章これにて終了でございます。読んで頂いた皆さま、毎週お付き合い頂いた皆さま、有難うございます。

 次週からは第2章が始まります。こちらは『歩廊座にて』シリーズではありますが、単独でも読んで頂ける物語となっております。

 ぜひお友達とも声を掛け合って、これからも歩廊座に遊びに来て頂けると嬉しいです。


 ツイッターをご覧の方はもうご存じかと思いますが、16、17話アップ後に『歩廊座にて』のキャラクターデザインを担当している一也木(18agi)作のお礼画像を載せております。

 第1章のキャラクターは今後解禁ということで、一也木のツイッター上で掲載されていくと思います。

 キャラクター詳細に関しては物語を読んだ方の脳内イメージをまずは大事にしたいので、歩廊座ではこの形をとっております。読み進めながら、第2章のキャラクターも是非皆さまの中でご想像頂けたら嬉しいです。


 さて、タイトルもストーリーも元のものとは変わってしまいましたが、歩廊座の主要キャラクターと設定は私が小学生の時に初めて創作活動に触れた際に誕生したキャラクター達になります。

 余裕と時間が出来た現在、何か始めてみようかと考えた時、そこにいたのはこの子達でした。ブランクもあり初の3人称に挑戦しているのでノロノロペースではありますが、

 思い描いている空想を実際に文字に起こし形にする作業の楽しさ。

 生みの苦しみは勿論ありますが、まだ少ないながら自身がアップした小説の話数が並んでいる事が充実感に繋がっている気がします。


 物語が進むにつれ少しずつ来訪者のかたも増え、もしかして毎週来て下さっているかたもいるのかな?とアクセスを見て嬉しく感じております、有難うございます。

 私の話は今の小説世情では恐らく流行り分野ではないので、読み手さんがついて下さる事はとても有難く、嬉しいです。

 まだ「小説家になろう」で始めて間もない頃に評価下さった方がいらっしゃった事もとても驚きました!どなたなのだろう?とわくわくしたのを覚えています。有難うございます。

 他作品を回って読んでいらっしゃる方も多いと聞きますので、お時間を取らせることをして頂けたというのは、新規の私には奇跡に近いことでした。

 これからも己の萌えが続く限り、この子達を育てていきたいと思っておりますので、お付き合い頂けたらとても嬉しいです。

 ブクマ、評価、一言は読者様の手持ちのカードです。ぜひご活用頂き、世の書き手を鼓舞して頂きたいと願うばかりです。


 第2章は2月14日から始まります。更新ペースは来訪者様の反応を見て決めたいと思っております。

 それでは、第1章のご挨拶はこれにて。読んで頂き、有難うございました。これからも『歩廊座』を宜しくお願い致します。


 まきむら唯人(20200207)


 

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