追い込み
夕方自転車で帰ってたらヤンキーが出てきた。学校出てすぐのところで信号待ちしてたら、後ろから声を掛けてきた。
「ちょっと、こっちの方で話そうぜ。」
なんか、あんまり怒ってないような話しかただったが、どうせ仲間がいっぱい来ててフクロにされるんだろうと覚悟してついていった。人がいない路地に入るとヤンキーは振り向いた。
「どうしてくれるとや?」
「すいません。」
ここは下手に出とくに限ると思ったからそう答えた。仲間はぜんぜん出てこない。ほんとに一人で来たのかもしれない。
「後遺症が残って、もう一生ちゃんと歩けんってぜ。今、歩き方がおかしかったやろうが。」
歩き方は普通だったような気がする。
「すいません。」
すねたみたいにじっとこっちを見ていたが、急にため息をついて、
「まあ、あれたい。いまゴタゴタしとるけん、事務所の方にも話しとらんたい。そうなったらニイチャンのほうも困ろうけん、十万で手打たんや?」
そうか、金か。でも、こいつら怪我さして十万は安すぎる。こいつがほんとにヤクザだとしたら、組に言ってないってのは本当だろう。要するに、言う必要がないぐらい軽い怪我だったってことなんだろう。
「いま、そんなお金ありません。」
「そうや、いつになったら出来るや?」
「たぶん……一週間ぐらいたったら。」
ほんとは十万、ないことはない。いまの部屋代が五万五千円で、滞納している今月分と、来月は正月で月初めは帰省してるからその分とで十一万、銀行にある。でも、このときすでに、こんなやつにビタ一文払う気はなかった、ような気がする。よく覚えてない。そんなことはあとでどうでもよくなった。しかし、ヤンキーが生きてたのがわかったときはブタ箱にいってもいいと思ってたんだから、俺もせこかったかもしれない。
とにかく、そのときはヤンキーは一週間経ったら金取りにくるって言ってどっかにいった。
寮に戻って自転車を片付けていた。そしたら背後に気配があったから、後ろを見たらあのヤンキーがいた。
「まあ、ニイチャンの家もわかったことやし、逃げようとなんかするなよ。」
完璧に頭にきた。ここまでやるとは思わなかった。
「尾けてきやがったな。」
「まあ、金のことは頼むけん。ニイチャンだって学校に来られるより、ここで話つけたほうが良かろうもん。」
なんか卑屈に頼みながら、ヤンキーはヨロヨロ帰っていった。
そうかい。くそ。甘かったぜ。こういうのは、やり過ぎたほうが勝ちなんだった。博多に来てから忘れていたが、こういうのは俺のほうが得意なんだ。こうなったら手前になんか一銭だってやらねえぞ。お前らは十万ぐらいたいした金じゃないかもしれんが、こっちは生活費なんだ。はっきり言って惜しいんだよ。
俺はすぐにヤンキーのあとを尾けていった。寮の裏手の駐輪場への入口は、隣のスーパーの駐車場になっていて、そこにヤンキーは外車を停めていた。俺は寮の横の、ほとんどゴミ捨場になっている細い路地を走って抜けて表通りに出た。ヤンキーに姿を見られないためだ。タクシーを捕まえて乗り込んだときは、ヤンキーの外車が横道から出てきたとこだった。




