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必殺学生人  作者: 神保知己夫
レポート用紙 1冊目
3/42

ウツからワンチャン

 気が付くと暗かった。女はどっかに行っていた。帰ったんだろう。窓から一階の食堂の匂いがしていた。寒いから窓を閉めて、着ている物を脱いでベッドの上に寝転んだ。このときまでコートをずっと着っぱなしだった。脱ぐときに気付いた。

 早く寝てしまって、夢の中に逃げ込みたかった。足元で山になっている毛布をトロトロと引っ張り上げながら、ふと考えた。ヤンキーにも親はいるんじゃないか。息子の死体にすがって泣く母親の姿が浮かんだ。普段なら赤面もののヴィジョンだが、現実になると、ましてそれを自分が引き起こしたんだと考えると、とんでもなく恐ろしいものだった。もし、その親が俺に息子を返してくれと言ったら、なんと言ったらいいんだろう。いつか、テレビだか、漫画だか、小説だかに出てきた言葉を思い出した。「ひとりでも人を殺した人間には、未来永劫救いはない。」確かに戦争で人を殺しても、帰ってくると普通の生活やってる奴もいるけど、あれは自分のやったことの結果を見なくてすむようになってるからだと思う。ヤクザも人を殺したって、平気みたいな顔してるけど、あいつらは組の為だとか言って責任を転嫁してるからだ。でも、俺はなんの為に殺したんだ? いや、そんなのどうでもいい。理屈じゃなくて、被害者や家族の泣き声からどうやって逃れるっていうんだ。ひょっとしてそれは一生ついてまわるもんじゃないのか。そう考えたとき、まるで地獄の蓋が轟音をたてて開く音が聞こえるような気がした。


 夜中に一度目を覚ました。胸がすごい苦しくて起きた。漠然と、このまま死んじゃうんじゃないかと思った。なんとなくほっとした。でも後から考えたら、横向きに寝てたので胸骨がどうかなっていただけだったらしい。仰向けになって寝たら治った。


 早く寝たから、早く目が覚めた。どんな夢をみてたのかは忘れたが、ひどい現実を思い出してギャップに頭が重くなった。しかし、まだ真っ暗だが朝は来た。夜のうちに刑事が来て、俺に手錠をかけてもおかしくなかったんだけど。でも、取り調べになれば被害者の家族がどんなだったとか聞かされるんだろうな。うちのお袋、面会に来るかな。たまらんな。死のう。刑事が来たらおとなしく従う振りして、屋上に駆け上がって飛び降りよう。飛び降りたら顔にすごい風がきて、駐車場のアスファルトが近づいてきてぶつかった瞬間に景色がぐるっと何回転かして、脳味噌とびちっても意識があったら、血が広がっていくのが見えたりして。こういうときは、えらくリアルに想像できるが、このときはそれが好ましく思えた。それから、とにかくそれまでは普通に暮らしていよう、自首すれば死なせてくんないだろうし。と、思った。

 明るくなったので、近くのセブンイレブンに行って新聞を買った。店を出る前から広げて昨日の事件を探したが載ってなかった。だからといって、事件そのものが、なかったということにはなんないだろう。四階の自分の部屋に戻る前に、駐輪場にまわってみた。やっぱり自転車はなかった。自転車屋に預けっぱなしらしい。しかし、するとどうやって帰って来たんだろう? 歩いてきたんだろうか。学校からここまで、自転車でぶっ飛ばしても十五分かかる。歩けば一時間以上はかかる筈だ。それをあの女ノコノコついて来たんだろうか。俺も帰り道をいちいち教えたんだろうか。いや、バスかな。バスなら俺が停留所を言えば、女が勝手にバスを選んで俺を連れてこれるな。まあ、いいや。

 部屋に帰って学生服に着替えて、学校に行く準備をして、食堂に降りてって朝飯を食って、バス停にいって西新行きのバスに乗るまでを俺は機械的にこなした。捕まるまで普通にやっていこうとは決めたけど、どうせ執行猶予みたいなもんだから真面目にやるつもりはなかった。だから、その日は機械的に授業を受けて、機械的に生活した。ただ、友達が話しかけてきたときは、うっとーしいからシカトした。


 六限目の休み時間に、みんながベランダに出て騒いでいた。ヤンキーが校門のところに立って誰か捜してると話してるのを聞いて、急いでベランダにでてみると昨日のヤンキーだった。頭に包帯を巻いていた。へたり込みそうになる程、ほっとした。これからいろいろ面倒なことになるかもしれないが、傷害罪でも殺人罪よりましだった。六限の間、席が窓側なので見ていたら、教師が出てきてヤンキーに何か言っていた。するとヤンキーはどこかにいった。


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