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必殺学生人  作者: 神保知己夫
レポート用紙 2冊目
16/42

おっさんといっしょ

 おっさんは五時半ごろに帰ってきた。飯を食いに行こうといったので断ったけど、強引に誘われて結局行ってしまった。俺はひとの家に行って誰かと飯を食うのがきらいだ。知ってる人間とならいいけど、知らない奴と食うのが本当に嫌だ。なんでか知らないけど、ほっといてくれないからだ。「おかわりどうね?」とか「もっと食べなさい」とか言われると、うっとーしいからほっといてくれって言いたくなる。「遠慮しないで」とか言われるけどそうじゃなくて、本当にいやなんだ、こっちは。

 おっさんにラーメンおごってもらって帰ってきたら七時半ぐらいになっていた。ラーメン食いおわったときも、おっさんからチャーハンもすすめられてムカついた。おっさんがだらだら話すから結局一時間ぐらい店にいた。自分の家族の話とかしようとしたから、聞きたくないのでヤクザにどうやって会うのか訊いた。抗争中だから隠れて会うのかと思ったら、夜中の十二時におっさんの家に神龍のえらい奴が訪ねてくるらしい。熊本の三村って組長と、もう一人はたぶん神龍の頭補佐とか何とかの富士田って奴だったと思う。

「でも、いま組に入ったってなんもすることなかよ。組の下働きぐらいやったらあるかもしれんばってん。」

「鉄砲玉になりたいんです。」

「なんでね!!」

「組の役に立って男をあげたいんです。そうじゃないといま組に入る意味がありません。ぼくは本気なんです。本気で組に一番、役に立つことをやりたいんです。」

「気持ちはわかるばってん、あんたのごた若か人がいきなし懲役じゃ、あんまり(むご)かたい。ま、まぁ、よか。一応富士田さんに話してみるばってん、それであん人の話きいてから決めてもよかろ?」

 おっさんがアセってまたベラベラしゃべりだしたのでシラけて店のテレビを見てたら、ニュースをやっていた。山野組がいるマンションの「住民パワー」で組事務所の退去を組側が約束したとか言っていた。住民パワーってのは、なんだ一体。いつ退去するのかはよくわかんなかったけど、急がなきゃならなくなった。それからテレビの奴が歳末とかなんとか言ってたので、この日が三十日だったって気付いた。明日は大晦日だ。ぜんぜん忘れてた。お袋のこととか思い出したけど、ぜんぜんリアリティがなくなっていた。


 おっさんの家に帰ってきたけど、それからが異常にかったるかった。おっさんの話だとヤクザが来るのは十二時ぐらいだから、それまでの間なにをするか考えると気が遠くなりそうになった。結局、おっさんとコタツに入ってくだらない漫才のテレビなんかみて過ごしたけど、山田邦子とか出てきて全然面白くなかった。だいたい、知らない人間と長い時間一緒にいるのが嫌いだ。人見知りするとか言われるけどそんな生やさしいもんじゃない。そんなとき何か言っても、だいたい会話がまぬけになる。どうでもいい、くだらない、おっさんが飼ってる犬の話とかでいちいち感心しなくちゃいけないし、おっさんもたまに電話が掛かってくると喜んで電話を取って長電話する。そういうのを見るとまたムカつく。おっさん殺して逃げちゃおうかと思ったけど、おっさん殺してもあんまり気持ち良くなさそうだし、なんかザマアミロってのがないと気持ちよくない。それにここまでガマンしたら、途中でやめると馬鹿みたいだ。

 電話が終わると、またおっさんがコタツに戻ってきて抗争でタクシーの売り上げが落ちただのの話をしてきて、「そうですねぇ」とか言ってるうちにだんだんヒクツな気分になってきて、おまけになんかゴソゴソしてたと思ったらクッキーなんか出してきたのでムカついた。だいたい俺は甘いものが嫌いだ。ブルボンの奥様向けのお菓子は一番嫌いだ。

 やっぱり殺そうかなと思っているところへ、

「兄ちゃん、少し寝とかんね。あん人たちの来るとは夜中やし、あん人たちゃ飲みだしたらいつ寝られるやらわからんよ。」

「そうですねぇ、じゃあお言葉に甘えて。」

 おっさんも場をもてあましてたらしい。それにしても善意のカタマリみたいなおっさんなので、ダマすのがなんか悪くなってきた。でもヤクザの味方なんかしてるんだから、別にいいか。

 テレビのある部屋のとなりの部屋に、おっさんがいそいそとフトンを敷いた。他人の家なので自分で敷くわけにもいかないし、その間がいやだ。白状すれば、相手に悪いと思ってどうにもヒクツになってくるのがいやだ。人を殺してるのにヘンな良心ばっかり残っている。

 パジャマまで持ってこられたときは、さすがに辞退した。

「そしたら、ちっとでも寝ときよ。」

 と言っておっさんがフスマを閉める。電気をつけてると「眠れんと?」とか言っておっさんが入って来そうだから電気は消して、ウォークマンを聴いて時間をつぶすことにした。手さぐりでテープを漁ってかけると、泉谷しげるだった。パンクを聴きだしてからほとんど聴いてなかったが、嫌いになったんじゃない。〝褐色のセールスマン〟が流れだした。そういえば一冊目のレポートノートはこの歌詞書いてる途中でやめたんだった。このアルバムでは、この歌が一番好きなんだけど、この歌の中の男みたいに自分は死にたいんだろうか。警察に捕まるんなら死ぬほうがいいけど、なんていうか〝俺たちに明日はない〟みたいなドラマチックな死が望みってわけじゃないんだけどな。死に関しては今のところどうでもいい。道路をバンバン走ってて横から車が出てくれば、ぶち当って死ぬんだろうって感じと似てて、でも、走るのが面白いから別にかまわない。

 まあ、人を殺してるんだから自分が殺されたって文句を言うすじあいはないな。それが自分に対する殺しの免罪符なんだろうな。殺人ってのは俺にとってはひとつの「借り」で、やるたんびに負債も増えてるってことで、いつかその莫大な返済がやってくるんだろうって思ってる。俺や清春の家族を悲しませるのも「借り」だ。だから、〝褐色~〟の中の「打たれて散らばる」男に自分を重ねてもう罰を受けた気になれて、安心しちゃうのかもしれない。甘いな。そうだとしたら自分にムカつくけど、まぁいいや。どうせ本当にロクな死に方はしない。

 悲壮感ってのがなんか違うんだよな。全く逆で楽しいぜ。さっきいいたかったのは自己愛を捨てさって自分までミソにした方が、圧倒的に楽しいってことだ。俺は自分の破滅が見えた時点で、世の中がものすごく面白くなった。もっともこれ書いてる今、すごい躁状態だからかもしれないけど。


参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B1%B1%E7%94%B0%E9%82%A6%E5%AD%90

https://news.goo.ne.jp/article/mag2/business/mag2-406960.html

https://music.oricon.co.jp/php/lyrics/LyricsDisp.php?music=189788

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BF%BA%E3%81%9F%E3%81%A1%E3%81%AB%E6%98%8E%E6%97%A5%E3%81%AF%E3%81%AA%E3%81%84

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