1次面接突破
おっさん家は親不孝通りの近くにあったので中洲から天神まで、けっこう歩いた。なんかタクシー会社で、そこにいた奴に挨拶とかされてたから本当にヤクザじゃなかったってことになる。車庫の横にある階段を上ってって二階に案内された。普通の家みたいだったからここがおっさんの実家なのかもしれないけど、家族はいなかった。
「ビール飲むね?」
「いえ。」
「わたしも大変たい。家族みんな女房の実家の方にやっとるけんが、ほんなごつ単身赴任みたいなもんたい。たしかにいま兼孝組(博多区、神龍会系)の顧問やっとって、いろいろ世話やら焼きよるけど本業はタクシー会社の社長やんね。昔はいくらドンパチやっとってもカタギには何の迷惑も掛からんやったばってんが、最近は〝親交者、親交者〟ゆうて警察のしゃーしかけんねぇ。拳銃ば隠し持っとらんか言うて私の家もガサ入れがあったとよ。だいたい警察も〝シンコーシャ〟なんち言葉新しゅう作ってまでやっきになっとうとたい。けど、博徒っちゅうのはぜったいにカタギに迷惑のかかることはせんけんね、武器やら預かったこたぁ一回もなかよ。」
ベラベラ喋りながらおっさんは自分でインスタントコーヒーをつくって持ってきた。別におっさんが買ったわけじゃないんだろうけど、少女マンガのバックに描いてありそうな模様のカップが全然似あってなかった。
「そんで、ヤクザになりたいてどうゆうことね?」
「神龍会の役に立ちたいんです。」
「なんでウチにそげん肩入れすると?」
「警察のやり方が気に入らないからです。なんか神龍会ばっかり攻撃して、両方やんならわかりますけど、本当は山野組と裏で手を結んでるんじゃないですか?」
「そげんことはなかよ。県警に山本っていう警視がおって、こいつのアダ名がタヌキたい。そいでこのタヌキがウチの会長ば、えろう毛嫌いしとってそれで目の仇にしとっとたい。そいで、なんね、兄ちゃんは仕事はなんしよっと?」
「青林の学生です。」
「大学の?」
「高校です。」
「そらダメたい。悪いこた言わんけん、バカなことせん方がよか。ちゃんと学校出てまともな職についた方がよか。」
そんなことはわかってるよ、バカ。
「今思いついたわけじゃないです。自分なりにずっと考えてきた結果です。」
「なん考えよったとね?」
「まじめにやっていくのが合ってないんです。だれも俺みたいなもの相手にしてくれないんです。だから命張ってでも、自分と本気でつきあってくれる方がいいと思って。」
「そうね。で、親はこのこと何て言いよるね?」
折れてきたぜ、バカな奴だ。
「親のこと気にしてたら極道になんかなれないんじゃないですか?」
「おお、そらそうたい。わかっとるやないね。そこらの極道よりもわかっとうね。」
「覚悟はできてます。ここで放り出されたらもう生きてくとこがありません。」
おっさんは下を向いて、また長い間があった。
「そいじゃ、一応神龍会の人と会うことになっとうけん、話だけでも聞いてもらうや?」
「よろしくそれでお願いします。」
ちょろいな。仁義とか何とか言ってる連中にはこれが一番だとおもったら、その通りだったな。
「けど夜しか会われんよ。それでもよかね?」
「はい。」
「こんな時やけん、昼間やらホイホイあの人らも出歩けんたい。それまでここでゆっくりしとけばよか。今、十二時やけん半日あるけど、どげんするね? 私は今から仕事があるけん、夕方まで相手はでけんけんが。ここにおる?」
「はい。」
よくしゃべるおっさんでそれから十分ぐらいしゃべって、俺もテキトウな相づちをうってたらどっかに行った。一人の間、ウォークマンを聴きながらポケットに入れてた〝最新宇宙物理〟を読んだ。
参考)https://www.asahi.com/articles/photo/AS20190505001083.html




