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必殺学生人  作者: 神保知己夫
レポート用紙 2冊目
14/42

任侠志願

 ところで、いま考えると引っ越ししたのは何ヶ月も前のような気がするけど、たった三日前なんだよな。ブロックで清春の頭殴ってから、強烈に時間が速く流れ出したような気がする。実際そのあいだに1987年になってしまったが別に一年経ったわけじゃなくて、たった二週間ぐらいの出来事なんだよな。

 引っ越しの荷物は紙袋三つぐらいで、それ部屋に置いてからすぐ箱崎宮前から地下鉄に乗って中洲で降りた。乗る時もなんか異常に寒かったけど、中洲に着いたら雪がふりだしていた。中尾組までとりあえず歩いた。朝だったので飲み屋の前にゲロがあったりして半分凍ってたりしてた。でもさすがに抗争中なのでいつもの暮れほど、忘年会とかで繁盛してないらしい、と新聞に書いてあった。なんか寂しい感じがするのはそのせいじゃなく、やっぱり朝のゲロがしらじらしいからだと思う。歩きまわったけど、中尾組の場所がわからなかったので国体道路に出て、ローソンで地図を立ち読みしながら、破って持ってきた新聞にでてる場所を探した。そこで肉マンとカレーマンを買って持って行った。今度は見つかった。商店街のアーケードからちょっと路地に入ったとこにビルがあって、一階が中尾組だった。この辺は繁華街から少しはずれると、瓦ぶきと木の塀の〝あしたのジョー〟とかが出てきそうな感じになってて、朝の歓楽街に負けず劣らずさみしい。その中にわざとらしく三階建てのビルが建ってるけど人の気配がない。金箔のバカ丸出しの「中尾組」って看板の横にドアがあって、「この事務所は不在なので、撃っても無駄です。」ってはり紙が貼ってある。アルミの桟が付いた窓には穴が開いてヒビが入っている。おとつい発砲事件があったって破った新聞に書いてあるけど、その時にもこのはり紙があったとすると、やっぱりヤクザはバカだってことになる。

 コートのポケットからウォークマンを出して、ヘッドホンを耳にあてた。セックスピストルズをかけた。パンクってのは歌詞はやたら怒ってるくせに、曲は圧倒的に明るい。笑いながら怒ってるようで本当にクレイジーだ。ちょっと離れた、誰かの家の裏口に入る小路に入って見張ることにした。時間もあるし、人通りもないし、ゆっくり待てばいいと思ったけどとんでもなかった。雪がガンガン降ってきて、寒いどころの騒ぎじゃなかった。なんか荒巻組盗聴してたときのことを思い出した。でも、この日は全然重装備じゃなかったから鼻水が出てきて、だんだん指の感覚がなくなってきた。肉マンがあるのを思い出して食ったけど妙に冷たくなってたので、吐いて捨てた。缶コーヒーを買いにいこうかと思ったけどその間に誰か来たらまずいのでその場を動けなかった。

 しかし、これはちょっとすごい世界だった。「古都」って感じの街並みに吹雪が吹きまくってて、大音響の〝アナーキーインザUK〟がギター、ドラムガンガンで笑い狂ってるという。ま、俺だけだけど。

 そうこうしているうちにセックスピストルズが終わってクラッシュに入ったときに、事務所から人が出てきた。デブのおっさんで、防寒着みたいなのを着てた。おっさんはドアを閉めると鍵をかけて天神の方に歩きだしたので、誰もいないなんてウソじゃねぇかよとか思いながら尾いていった。

「中尾組の人ですか?」

 おっさんは異常にびっくりしてこっちをじっと見た。

「誰ね?」

「お願いします。神龍会に入れて下さい。」

 と言って体育会系のノリで深々とおじぎした。相手のリアクションがあるまで、だいぶ時間があったので、あせって道路の上で正座した。あとでよく考えたらおっさんは最初、山野組の鉄砲玉かなんかだと思ってたんじゃないだろうか。

「ちょっと、兄ちゃん。やめんね。俺は別に中尾組のもんやないって。ちょっと留守の間事務所の世話まかされとるだけのもんやけん。」

「じゃあ、中尾組の人に紹介してください。お願いします。」

 この時は絶対このおっさんはヤクザだと思っていた。抗争中だから身分を隠すってのは、やりそうだった。それに、こいつらは絶対こんな男気のあるやり方( )(こっぱずかしいぜ)に弱いと思ったら、そうだった。

「とにかく、こんなとこに座っとってもどうしょうもないけん、あれせんね、ほら、ウチに()んね。とりあえず話は聞くけん。」

 ラッキー、そらみろ。こいつらこの手に弱いと思ったんだとか思って、おっさんについて行った。


参考)https://subway.city.fukuoka.lg.jp/eki/route/

http://www.asahi-net.or.jp/~an4t-tkns/taro/walkman/1987.htm

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%8A%E3%83%BC%E3%82%AD%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%B6%E3%83%BBU.K.

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