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必殺学生人  作者: 神保知己夫
レポート用紙 1冊目
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いきなりバイオレンス

 吉本へ

 知ってると思うけど俺は現国の成績が悪い。作文も苦手だ。だからこの話の設定とか、うまいこと書けない。だから必要なことを書いとく。なんかそれらしく書き直しといてくれ。

 舞台  =福岡市

 時代  =今(1986年12月18日~)

 主人公 =俺(本名出したら殺す)

 俺の説明=出身、北九州市。いま高校二年。

      学校はミッション系の私立青林高校。公立受けたけど

      落っこちたんでしょうがなく博多に来て下宿してる。


 その日は、奨学金の受領確認で遅くなって、しかも学校に来るときに自転車(チャリ)がパンクしてしまったので、ひとりで近くの自転車屋まで取りに行かなければならなかった。

 まだ明るかったが、曇っていたので外はかなり寒く、手に持っていたコートをすぐに羽織った。九州というと、南国のイメージがあるが、十二月半ばにもなるとかなり寒く、福岡はよく雪も降る。

 自転車の駐輪場を通り抜けて校外に出、ちょっと行ったところで大通りに出るが、近道のためにまた路地に入った。するとそこでヤンキー(不良、ヤクザなどのチンピラのこと)が、制服を着た女に言い寄っているのが見えた。

 学生服だから手を出すのはヤバイよなと思って無視することにしたが、通り過ぎるときにそのヤンキーと目が合った。たぶん虫けらを見るような目つきをしていたんだろうと思う。実際俺はこういう人間が大嫌いだったし、中学のときは親も友達も知らないところで、わざと挑発してタコ殴りにしていた。

「待て、貴様(キサン)!!」

 五メートル程離れたときに、ヤンキーが怒鳴った。俺は立ち止まったが振り返りもしなかった。腹も立ったが、逆にすっと冷めた気分になっていろんなことを考えていた気がする。

(なん)、ガンくれよるとや?」

(なに)いってんだ、おまえ。」

 うんざりしながら振り返ると、いきなりボディブローをいれてきた。いつのまにかすぐ後ろまできていたのだ。次に狂ったように顔に連打を浴びせてきたので、頭を抱えるように腕でガードしたら、今度は腹に膝蹴りをくらい、うずくまると背中にエルボ(肘打ち)を加えてきた。そしてつめ襟の後ろを掴まれ、道路脇の駐車場の方に放り出された。病院の駐車場で、車二台程のスペースだったがその日は休業で鎖が張ってあって、そこに足をすくわれ、横からまともにおちて側頭部をおもいきり打ちつけた。頭がぐらぐらして吐き気が襲ってきた。痛みで全然動けなくなって、ヤンキーが鎖をまたいでこっちにやって来ても何もできなかった。

「弱いくせに偉そうにすんな、チビ。女みたいな顔しとるくせに。」

 他にもナメたセリフをまくしたてながら、顔面に何発も蹴りをいれてきた。この時点で俺は完全に頭にきていたが、ヤンキーは最後に俺の顔に唾を吐いた。ここで理性が吹き飛んだ。思考がなくなり、復讐するという意思だけになってしまった。まず動ける程に痛みがひくのを待った。ほんの数秒だったと思うが、それから上半身を起こして辺りを見回し、すぐ横に車停めのためのコンクリートブロックがあるのを見つけた。半分に割れていたので、小さい方のかけらを掴んで立ち上がった。ヤンキーはこっちに背を向けて、また女の方に戻ろうとしていた。俺が反撃してくるなどとは、まったく考えていないようだった。俺はヤンキーの後頭部をブロックで殴った。一発KOだった。俺が後ろから来るのも気が付かなかったみたいだ。それから俺はヤンキーの反撃に備えた。

 ヤンキーはいつまで経っても動かなかった。不安になったがダマシかもしれないので、いつでもブロックで殴れる態勢をつくって覗き込んでみた。俯せのヤンキーの後頭部は濡れていて、それが耳の後ろに垂れてきたときに血だということがわかった。「殺した」と思った。同時にいろんなことが頭の中をうごめいた。これで少年院は決定だ。十年ぐらい食らい込むだろうか。五年は食らうだろうな。俺がこんなことになったのを知ったら友達はどう思うだろうか。俺と友人であったことを気持ち悪く思うだろうか。新聞はどう書くだろうか。普通に書くだろうな。他の殺しみたいに。でも俺がそうなるなんて。パトカーから降りるときは、あんなふうに写真をバチバチ撮られて、上着かなんかで顔を隠されたりして。ニュースなんかだとそうだけど、本当にそうなるんだろうか。と、いきなりお袋のやつれた顔がよぎった。さっと血の引く心地がした。親父が死んでから、独りで俺と兄貴を育ててきたし、その親父もお世辞にも立派な人間でもなかったようなので、一生みじめな思いをして暮らすことになるな。今だって兄貴と俺が下宿してるし、二人分の下宿代と学費と生活費、決して楽じゃないだろう。おまえ達が一人前になることだけが最後の望みだって言ってたもんな。でも、俺が捕まったら会社クビになるだろうな。そうなりゃ兄貴も大学辞めなきゃなんないだろうな。退学になるわけじゃないだろうけど仕送りなくなるだろうし。お袋も五十過ぎだし、再就職なんてできないだろうな。そうしたらどうやって食っていくんだろう。全然想像できない。なんか、お袋そのまま死んでいきそうな気がする。

 一瞬の間にいろんな考えが一度に頭の中を駆け巡った。そしてわずか五分前の自分の境遇と今との落差に愕然とした。できればこのまま途方に暮れていたかったが、制服を着ている女が腕を引っ張っているので我に返った。ヤンキーにからまれてた高校生だ。

「ねぇ。行こう?」

 ひとがぼうっとしてる間に、その女は無理やり俺をその場からひっぺがした。馬鹿な奴だな。逃げてどうなるっていうんだ。

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