え?婚約破棄する?……よっしゃぁぁぁぁぁぁあ!!
唐突に浮かんだのでかきかき
最近流行りの“婚約破棄”あっちの国でも、こっちの国でも起きてるらしい。
その“婚約破棄”がこの国のあの学園でも起きた。
「カオル・キキョウ・ラヴハタール!貴様との婚約を破棄する!!」
この国の王子であるロミオは自分の婚約者である公爵令嬢カオルに指を差し王命である婚約を一方的に破棄した。その横には小柄で可愛らしい少女が立っていてまるで恋仲のようである。
学園中には既に広まっていた、ロミオは婚約者であるカオルよりも優れた頭脳を持ち学園に特別入学した男爵令嬢ジュリエットに惹かれている…そしてジュリエットも王子の優しさ強さに惹かれ……いや、今はその話は置いておこう。
「俺とジュリエットは真実の愛で結ばれている。貴様の入る余地などない!!父上が言うから我慢していたが貴様の性格、態度は王妃にはふさわしくない!!」
「カオル様、貴女は優秀な方ではありますがあまりにも無愛想です。まるで心がないようだ。」
「あぁ、生徒との交流もなく茶会にも参加せず…そんなので王妃が務まるとは思えない。」
「姉様からは民、生徒、家族への優しさがない。昔は貴方に憧れました、ですが…今の貴女にはそんな価値もない。ジュリエット嬢がいじめられているのを知っていて止めなかったんですよね?」
ロミオの取り巻き立ちがそれぞれ未来の王妃だったものを罵った。大臣の息子であるチャールズ。騎士長の息子であるリカルド。そしてカオルの実の弟コウ。
ジュリエットはその三人とも仲が良く学園内でも度々目撃されていた…。
「ロミオ様!何故この場で言う必要があったのですかっ」
「あぁ、愛しのジュリエット…皆の者に俺達が相思相愛であることを知ってもらうためさ。」
「確かに私達は真実の愛に導かれました…が、カオル様を悪役のように…っ」
婚約破棄宣言から今までのやり取り…納得がいかないと声を上げたのは意外にもジュリエットだった。ロミオとはつい最近思いが通じあい…だが王子と男爵令嬢という身分の差…そして婚約者である公爵令嬢カオルの存在に葛藤していた矢先のこの出来事だ。
ロミオと結ばれたい、心から望んだことだが…こんな理不尽を人に被せるようなやり方は貴族とは言えども平民に近しいジュリエットは好まなかった。
「だがカオルは王妃にはふさわしくない。微笑み人々を癒すジュリエットにこそふさわしい。君なら王妃教育も難なくこなせるだろう。俺と明るい未来と国を築こう」
「ろ、ロミオ様…そんな、私なんて……でも、貴方とならどんな苦難にでも耐えられる…貴方とともにいたいですっ」
ラブな展開にしなきゃいけない病気にでもかかっているのか、イチャイチャし始めるロミジュリを祝福するように取り巻き三人が拍手をしおめでとうと言葉を贈る。
…盛り上がっているのはこの五人だけ。他の生徒達は目の前で繰り広げられている茶番に微妙な顔をし…。婚約を破棄されたカオルは今までに一言も言葉を発せずにロミジュリを見つめ、そして…。
「…よっしゃぁぁぁぁぁぁあ!!」
公爵令嬢らしからぬ叫びを発し、その場にいる全ての人間が驚き彼女に視線を向けた。もちろんロミジュリも、取り巻きも。
それもそうだ、カオルは周りの人間には寡黙で無愛想、なにごともそつなくこなす天才だと思われていた。公爵令嬢という申し分のない身分、美しさ、優秀さで彼女は王子の婚約者に選ばれ王妃になるため教育されてきた…いうなれば淑女の中の淑女。
そんな彼女が……
「よっしゃよっしゃ!!ありがとう!最高だロミオ!!」
…公爵令嬢らしからぬ言葉を連発し、王子を呼び捨てにし……周りがかたまっているのを気にせず彼女は身に着けていた装飾品を一つ一つ外していく。指輪、ネックレス、ブレスレットに、髪飾り…全てが最高級の品だがそれを床に散りばめていき…王族の印が彫られたブローチを外しジュリエットの前まで近づき手渡す。
「か、カオル様…?」
「それは王族の婚約者だけが持つことを許されるもの。未来の王妃という証拠だから無くさぬよう、大事に大事に、な??」
「こ、れは貴女様の…」
「いや、もう婚約は破棄された。私が持つものではない。私も期待しているよ、君は良い王妃になるさ。」
ジュリエットは開いた口が閉じられないようだ。言いたいことだけ言うとカオルはジュリエットから離れこの場から立ち去ろうとするが、それを弟のコウが止めた。
「ね、姉様!」
「ん?なんだ、弟。」
「貴女は本当に姉様なのですか?!姉様はもっと上品で可憐な女性でした!!な、なんですその言葉遣い…っ!」
「これが、本当の私だ。……セト!!」
先ほどは実姉を罵ったが今まで見てきた姉とは違いすぎてこの場で一番混乱しているのはコウ。姉のカオルはそんなことは気にせず自分の従者を呼びつけた。
現れたのは銀色の髪をした美青年…弟のコウは知っているがその他の人間は良く知らない…カオルだけに仕える従者だ。
「はい、カオル様。お召し物を変えるのですね?」
「あぁ、ドレスは動きにくくて嫌いだ。さぁ、早く着替えて、行こう。」
「かしこまりました。貴女ならばどこへででもついて行きます。」
さっきロミジュリがラブな展開になったように、この令嬢と従者からも似たような雰囲気してコウ、ロミオは何かを察した。
「姉様……セトと随分と親しいよね、ずっと持ってたけど、ただの主従関係にはみえないよ。」
「薄々気づいてはいたが…やはりな。この俺という婚約者がいながらその従者とできていた、と。浮気者が!」
特大なブーメランである。婚約の関係があった状態でロミオはジュリエットに惹かれ、カオルを蔑ろにしていた。大半の人間はお前が言うな!!と心に思うがそれを誰も声には出さなかった。
「失礼ながら、それは貴方様のことでは?ロミオ王子。」
カオルの従者であるセト以外は。
「な、っ?!」
「婚約者であるカオル様への仕打ち…思い出しただけで…殺したくなる。」
セトから発せられる本気の殺意にロミオは怯えた表情になる。今すぐにでも殺してしまいそうなセトをカオルが止めたことでロミオは安心する。
「やめるんだ、未来の王だぞ??もういい、私達は私達の未来を考えよう??」
「…カオル様……そう、ですね。明るい未来のために行きましょうか。」
「あぁ。ずっと一緒にいてくれよ?出会った瞬間から、お前は私のモノだからな…」
「はい。未来永劫貴女様のお傍に……。」
怪しくもラブな雰囲気になりながらカオルとセトはパーティ会場から出て行った。そう卒業パーティで“婚約破棄”が行われた。流行りらしい。
その後、カオルとセトは国から出て他国で冒険者として活躍している。寡黙で無愛想だと思われていた彼女は演じていただけで、本来はお転婆な娘なのだ。父も母も弟もそのことを知らなかった。知っていたのは祖父と祖母だけ。ラヴハタール家の令嬢を演じ続けたカオルの演劇力は恐ろしい。
そしてロミジュリは……なんと婚約関係になり、ジュリエットには王妃教育が施されることとなった。そのことを彼女は「きっついです!!こんなことをして育ったんですかカオル様は!!尊敬します!!」と厳しい教育をめげずに頑張っていて、王子ロミオは勝手なことをしたと王と王妃にしこたま怒られ再教育が施されることとなった…。
“婚約破棄”事件に加担したチャールズ、リカルド、コウもお叱りを頂いたそうだ。
他国を冒険しているカオルとセトからは年に一度手紙と写真を実家の公爵邸に送っているが、年々二人の距離が近くなっていって、とある年からは二人の髪色を足して割った髪を持つ赤ちゃんを抱くカオルとセトの写真が送られたらしい。「家族が増えました」と手紙には綴られていたそうな…カオルの父は倒れ、カオルの母は孫が見たいといい、コウは頭を抱えた……この話も今回はこのぐらいにしようかな。
無駄に多い気がする登場人物。
カオル・キキョウ・ラヴハタール
(薫)
どっかの国の公爵令嬢。ハイスペックで王子の婚約者だった。無愛想キャラだが実はお転婆でちょっと口が悪い。セトとの主従関係は普通とは違う。
桔梗の花のような髪をもつ。
セト・ワムール
カオルだけに仕える従者。幼少期に助けられてから心からカオルを愛している。なのでロミオへの殺意は高め。危ない感情を持っているがカオルとは普通主従関係ではない。
銀色の髪をもつ。
ロミオ・アトラスチカ
どっかの国の王子。カオルの婚約者だったが、ジュリエットに惹かれてしまい、カオルとの婚約を勝手に破棄してしまう。
黒色の髪をもつ。
ジュリエット。ダントン
どっかの国の男爵令嬢。可愛らしい容姿と優れた頭脳を持ち学園に入学した。そこでロミオと惹かれあうが、いろいろ考えこんでいた。ちゃんといい子。
金色の髪をもつ。
コウ・モミジ・ラヴハタール
(香)
カオルの弟。実はジュリエットが好きだった。姉のことは嫌いではないがよくわからない人だとおもっていた。年に一度送られてくる写真を見て今の姉が一番楽しそうなので頭を抱えつつ見守ってる。
紅葉のような髪色をもつ
チャールズ
大臣の息子、実はジュリエットが好きだった
(ほぼモブ)
リカルド
騎士長の息子、実はジュリエットが好きだった
(ほぼモブ)