とある研究所での一幕4
「君はユーチューブは見たことがあるか」
博士が真っ直ぐと私を見詰めこう言う。私は溜め息を吐いた。まぁた、質問か。
「私はデイリーモーションしか見ません」
私は面倒なのでこう答えた。もう話し掛けてこないでくれ、と思いながら。
「まず、君の意図を言いたまえ」
博士が立ち上がり私に詰め寄る。しまった。素が出てしまった。博士からの質問を軽くあしらってしまった。あまりにも面倒だったのだ…
「あまりにも面倒だったので…」
「何!」
しまった。あまりにも面倒過ぎて、面倒しか頭に浮かばなかった。もっと人当たりの良い言葉を手繰り寄せようとしたが、頭の中が面倒で一杯になり、つい本音が下り坂を転がり落ちるようにポロリと口から飛び出してしまった。
「訳を聞こうか」
博士がスタンガンを片手ににじり寄ってきた。武器だ。以前、私の見せつけたひしゃげたコインによって、私に恐ろしい握力が備わっていると思っているのだ。馬鹿だから。だから、博士はそれを警戒してか、スタンガンを用意していた。
「待って下さい!」
「何を待つのだ?」
まさに危険な武器を手にしたMADSCIENTISTだ。ただその武器は彼の発明品ではない。というのも昨日アマゾンから荷物が届けられ、中の領収書が何気ないゴミのように見せかけながらゴミ箱に捨てられており、それを私もガムの包み紙を捨てる際にそっと丸められてあるものを引き延ばして逐一確認していたから魂胆はすでに察知していたのだ。
しかし、それを察知したのは丁度二十分前のこと、しかも私は正午が近付くにつれ今日の昼飯のメニューに思いをはせていたので、一先ず問題を先送りしていたのが運の尽きであった。とは言え、博士が隣でユーチューブを見ながら、「あっ!まただ!」とか「十五秒だって!ふざけんなよ!」と言いながら明らかにスキップらしきものを連打しているのを横目で見ていたので勘づいた。
「コマーシャルは彼らの命みたいなもんですよ。我慢して見てやりましょうよ」
「違う。逆だ」
博士はスタンガンの放電を止めさせて、私を曰くありげな顔で見上げた。
「動画よりコマーシャルが見たいんだ」
「え?」
「コマーシャルをもっと見たいんだ」
「え?」
「コマーシャルだよ。コマーシャル。何回も見たいのに見たいコマーシャルを見られるボタン的なものがないんだよ。腹立ってくるぞ」
「それでスマホを連打していたのですね?」
「何が、それでスマホを連打していたのですね、だ」
「スマホを連打していたじゃないですか?」
「俺に質問をするな!」
「では質問しません!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そろそろ昼だ・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何を食べようか・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ・・そろそろ昼だ・・・・