猫と姫君
家庭科の「絵本を作ろう」という課題で作ったお話しです。結局絵本は出来ませんでしたが(汗)
このまま闇に葬るのも勿体無い気がして投稿しました。
他愛も無い話しですが、少しでも皆様の心に留まれば幸いです。
月の国のお姫様はとても我侭、今日も『じいや』を困らせます。
「じいや、世界で一番大きな宝石がほしいわ。買って来なさい」
「じいや、お菓子のお家が欲しいわ。すぐに作らせて」
あんまり我侭なものですから、王様も女王様も厳しく言いつけようとします。しかし、可愛い一人娘なのでいつもいつも言い出せません。
お姫様はそんな二人の気持ちも知らず、今日も今日とて我侭放題。
◇ ◇ ◇
ところがそんなある日、女王様が『はやり病』にかかって、突然死んでしまいました。
国中のみんなは大きな声で泣きました。
でもお姫様は泣きません。
「お医者様、たくさんお金を払います。お母様を生き返らせて」
お医者様は首を振ります。いくらお金を貰っても、死んだ人を生き返らせる事は出来ないからです。
それでもお姫様は諦めません。
「何故ですか? お金はいくらでも払いますから、お母様を……」
産まれた時からお金持ちで、欲しい物は何でも買って貰っていたお姫様は、お金があれば何でも出来る、と勘違いしていたのです。
お姫様は初めて、お金でも買えない物があると知ったのでした。
◇ ◇ ◇
その夜、女王様の居ないベッドで一人きりのお姫様は、恐くなって城の外に出ました。
夜空のお星様を見に来たのです。
「お母様……」
美しい星々を見ても、悲しい気持ちは変わりません。
お姫様は静かに泣き出しました。
するとそこに一匹の猫が通りがかり、お姫様に言いました。
「お嬢さん、何をそんなに泣くのです?」
「お母様が……死んでしまったの」
「そうですか……それはさぞ、お辛いでしょう」
猫はお姫様の隣に座ると、小さな声で話し始めました。
「私は色々な国を旅しています。もしよろしければ話し相手になってくれませんか?」
「色々な国を? それは素敵ね」
今まで国の外に出た事のなかったお姫様は、猫の話しを聞いてみたくなりました。
「えぇ、世界には沢山の国があります。この国の前には『仮面の国』に行きました」
「仮面の国?」
それは面白い名前ですねと、お姫様は言いました。
「はい。そこの人々はとても変わっているんですよ」
そうして猫は話しだします。
「仮面の国では国民全てが、王様でさえ、仮面で顔を隠しています。怒った顔さえ見せなければ
喧嘩にならないし、泣いた顔を見せなければ周りの人達は悲しくならない……仮面の国の王様は、そう考えているのです」
「まぁ……でもそれじゃあ、楽しい時に笑う事も出来ないし、怒った時も悲しい時も自分の気持ちを伝えることが出来ませんね」
そんな国はおかしいわと、お姫様は言いました。
「私もだんだん嫌になって、二日だけ泊まって旅立ちました」
まるで自分も仮面をつけている気がしてきたのです。
猫は笑って言いました。
「その国の前には、『嘘の国』に行きました」
「嘘の国?」
それは面白い名前ですねと、お姫様は言いました。
「はい。そこの国の人々も、とても変わっているんですよ」
猫は再び話しだします。
「その国ではみんな、嘘しか言いません。本当は元気なのに疲れた、本当は好きなのに大嫌い。本当は怒っているのにニコニコ笑っている……本当の事さえ言わなければみんな仲良くやっていけると、嘘の国の王様は考えているのです」
「まぁ……でもそれって仲が良いと言えるのかしら」
嘘で出来た友達なんて悲しいし、虚しいだけだわと、お姫様は言いました。
「私は一日で嫌になったので、すぐに国から旅立ちました」
疲れていたけれど、そんな国にはあまり居たくなかったので……。
猫は笑って言いました。
「その国の前には、『普通の国』に行きました」
「普通の国?」
それは面白い名前ですねと言いそうになって、お姫様は止めました。
さっきから同じ事ばかり言っている様な気がしたからです。
猫は慌てて口を塞いだお姫様を見て、変わった名前でしょう? と言いました。
「その国では、みんな普通でなければいけません。国の殆どの人がパンを食べたら、自分もパンを食べなければいけないし、みんなが赤い服を着ていたら自分も赤い服を着なければいけません。みんなが平均をとる普通なら、人々は競争にならない……普通の国の王様は、そう考えているのです」
「まぁ……それはおかしいわ」
お姫様は言いました。
「普通の国には、一人だけお嬢さんと同じ事を言った人が居ました」
「村の外れに、独りぼっちで住んでいたその人は、私に向かって言ったのです。この国はどこかおかしいと」
猫は遠くを見るような目で話しを続けます。
「私は独りぼっちで住んでいるその人の話し相手をしてあげたくて、その国で一年間暮らしました」
「どうして? もっと長く暮らせばよかったのに」
お姫様は不思議そうに聞きました。
猫がいなくなったら、その人はまた独りぼっちになってしまうと思ったからです。
猫は寂しそうに言いました。
「私も、出来る事ならそうしたかった。でもその人は、『はやり病』にかかって死んでしまったのです」
それを聞いたお姫様は、なんだか悲しい気持ちになりました。
猫はニッコリ笑って話し続けます。
「その人は私に、『キラキラ光るモノ』をくれました。私が独りぼっちになって寂しくないようにって……今まで独りぼっちだったあの人は、とても素敵なモノをプレゼントしてくれました」
「『キラキラ光るモノ』? それは何ですか?」
お姫様は聞きました。
「それが何なのか、私には答えることが出来ません。それは人によって別のモノで、見る事も触る事も出来ないからです」
「その人は私に言いました。今まで『キラキラ光るモノ』をありがとう……私も君に『キラキラ光るモノ』をあげたかったのだけれど、どうやら無理みたいだ。きっと君はこれから沢山の物を見て、沢山の事を感じて、沢山の思い出を作る。私にとっての君がそうであるように、君にも必ず『君だけのキラキラ光るモノ』が見つかる筈だ。それが何かは私にも解らない、それは見る事も触る事も出来ないからだ。でも、心で感じる事は出来る。いいかい、本当に大切なものは、目に見えないものなんだ。君と過ごした毎日を思い出すと、いつだって私は『キラキラ光るモノ』を感じる事が出来た。君は私に輝く思い出をくれた。ありがとう。君にも『キラキラ光るモノ』が見つかる様に、私は空の星になって君を見守っているよ」
猫はそう言うと、夜空を見上げました。
お姫様も一緒に空を見上げます。
沢山の星がキラキラと光ってました。
「お嬢さん、あなたには『キラキラ光るモノ』はありますか?」
猫の質問に、お姫様は目を丸くしました。
そうして暫く考えた後、お姫様は首を振ります。
「……まだ、良く解りません」
「そうですか。えぇ、それで良いのですよ。『キラキラ光るモノ』はなかなか見つける事が出来ないのですから、これからゆっくり探せば良いのです」
猫は立ち上がって言いました。
「もう、行ってしまうのですか?」
「はい。もう夜も遅いので、そろそろ宿へ向かいます」
それではと言って、猫は歩いて行ってしまいました。
◇ ◇ ◇
それを見送った後、お姫様は再び夜空を見上げました。
星になった女王様が見つかるかもしれないと思ったからです。
「お母様……」
しかし、いくら探しても女王様は見つかりません。
お姫様は悲しくなって、再び泣き出してしまいました。
「こんなに悲しい気持ちになるのなら、私は産まれてこなければよかった」
お姫様は空の星へと言いました。
すると不思議な事に、死んだ筈の女王様の声が聞こえてきたのです。
「泣かないで下さい……。私はいつだって、アナタの事を見守っています」
お姫様は驚いて、女王様を探します。
「お母様……何処に居るのですか?」
「私は……アナタの近くに居ます」
お姫様は一生懸命探します。
けれども見えるのは闇ばかり……。
お姫様は再び泣き出してしまいました。
「泣かないで……私はそこには居ないけれど、目を閉じれば……いつだってアナタと会う事が出来るのです」
「目を閉じれば……?」
お姫様は言われた通り、真っ赤になった目を閉じました。
するとどうでしょう、大好きだった女王様の笑顔が浮かんでくるではありませんか。
「お母様……」
お姫様は目を閉じたまま泣きました。
「沢山の『キラキラ光るモノ』をありがとう……私に会いたい時は目を閉じて」
女王様は手を振ると、また何処かに消えてしまいました。
「……」
でもお姫様は、もう悲しいとは思いません。
だって目を閉じれば、いつでも女王様に会えるのですから。
お姫様は星空へと手を振りました。
「私も……私もありがとう、お母様」
涙で滲んだ星々は、まるで宝石の様に輝いていました。
「あ……」
すると突然、沢山の星々が尾を引いて……幾筋もの流れ星が現れました。
お姫様はソレを暫く見つめた後……。
一人、お城へと帰っていきました。
いかがだったでしょうか?
ご意見・ご感想等ありましたら、是非是非お願いいたします!
読んだ事はありませんが、一部有名な作品から引用させて頂いた箇所があります。
そちらの作者様と、読んで下さった皆様に感謝の気持ちを込めて。
では、駄文失礼しましたー