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time flies faaaaaa  作者: joblessman
6/6

ハッピーエンドプリーズ

 目を覚ます。

 薄暗い室内。

 隣には、タンクトップがいた。


「どこです、ここ?」


「だよ、うっせえな」


 タンクトップは、大きくあくびした。

 

「あの人は、あの人はどうしたんです?」


「は、ああ、あいつか。あいつなら、ほれ」


 タンクトップは、新聞を僕に渡した。

 新聞の一面に、ドレス姿のキャリアウーマンが載っていた。


「なんだ、これええええ?」


「国の王女様になってんだとよ。太郎って名前でだぜ。笑うぜ。近々結婚するらしいぜ」


「誰と?」


「ほら、そいつの隣にいるだろ」


 新聞には、正装をしたおかっぱがキャリアウーマンの隣で笑っていた。


「え、なんで?なんでこいつが?」


「そいつは世界を救った救世主。第三次世界大戦を止めた英雄、ってことになってんだよ」


 へ?


「いや、おかしいでしょ。こいつ主人公みたいになって」


「いや、だから実際そうなってんだよ。こいつが、主人公に」


「じゃあ、もう世界救って、物語完結してるじゃないですか!?」


 扉が開いた。


「はっはっは、驚いとるのう」


 白髪爺が現れた。


「何喜んでるんですか!」


「まあまあ。でもね、この物語は、まだ完結してないんじゃよ。結婚式で事件が起こるよ」


 白髪爺は、えらく落ち着いている。


「なんでわかるんです?」


「だって、そいつはバッドエンドが好きなんじゃもん」


 バッドエンド?こいつの最高のオチってのは、バッドエンドのことだったのか?


「幸か不幸か、そのおかげで、お主の出番がまだある」


 たしかにそうだ。このまま幸せに終わってしまっては僕にはなにもできない。しかし、あいつのバッドエンドを止めることで、僕がハッピーエンドに導くことができる!いや、バッドエンドとかどうこうではなく、キャリアウーマンをあいつに渡すわけにはいかない!


「あれ、白髪爺、めちゃくちゃしゃべりますね。渦、大丈夫なんですか?」


「あ、わしそんな名前だったの?」


「いや、ぼくが勝手につけた名前なのでなんでもいいですけど」


「まあええわい白髪爺で。なんかわからんが、渦は安定しておる。時間がないからかのう」


 雑な設定だな、と思いながらも、心が躍る。なんでもしゃべっていいんだ。


「さて、結婚式は今日の7時だ。それまでに、お前がハッピーエンドのシナリオを考え、遂行しなくてはならない」


「シナリオったって、いままでも勝手にあなたたちが動いただけであって」


「わかっとる。だから、途中まではわしらが誘導する。じゃが、最後に彼女を救うのはお前じゃ」


 そう言うと、白髪爺はにやりと笑った。


「わかってますよ!」


 そうだ。僕が、彼女を助けなければ!


「よし、行くか」


 タンクトップが立ち上がった。


「え、もう行くんですか?」


 タンクトップは、時計を指差した。


 すでに6時を過ぎていた。


「さて、結婚式じゃが、わしの予想では太郎くん?太郎さん?が」


「太郎、なんて呼ばないでください」


「おお、すまんすまん。彼女が式中に暗殺される」


「なんか安易なバッドエンドですね」


 白髪爺は、こほんと咳をすると言う。


「デッドラインが近づいとる。向こうも完結はさせたいからのう。雑になっとるんじゃ」


「で、おれはどうすりゃいい?」


「タンクトップ、お前はこいつについていけ。弾除けじゃ」


 白髪爺のことばに、はいよ、とタンクトップは頷いた。


「わしはスナイパーを探す」


 それでじゃな、とひと呼吸おいて、白髪爺は言う。


「そのあとは、シラン」


「自分で考えろ、ってことですね」


「そうじゃそう。待ってるだけでは物語は動かんぞ!」


 僕は、意気込んで立ち上がり、部屋を出た。


 曇り空。雨が降った後のように、大気がじめっとしていた。

 白髪爺とタンクトップに導かれるがままに、歩く。

 進むに連れて、だんだんと町がにぎわっていくのがわかる。

 結婚式は町総出で行われていた。

 式場となるのは、町の中央にあるチャペルである。


「わしはスナイパーを探す。あとは、お前次第じゃ、わかったな?」


 白髪爺のことばに、僕は強く頷いた。

 白髪爺は、ふっと笑って、人ごみに消えていった。


 チャペルが見えて来た。人がごった返していて、これではキャリアウーマンとおかっぱを確認しようがない。


「もっと近づかねえと、やべえな」


「ええ」


「ええい、めんどくせえ」


 タンクトップが、無理矢理人ごみをこじ開けずんずん進んでいく。頼もしい。

 町の西側から歓声が上がった。キャリアウーマンとおかっぱが登場したようだ。

 タンクトップの先導で、なんとか二人の姿を確認できるとこまできた。

 二人は、チャペルまでの道のりをゆっくりと歩いている。メガネを外してはいるが、間違いなくキャリアウーマンである。純白のドレスに包まれた彼女は、天使のようにキレイだ。しかし、目に色がない。おかっぱの操り人形になってしまっているのだろう。

 スナイパーは、いつ、どこから撃ってくる。

 とにかく、最前列にいかなければ。

 ふと、おかっぱを見た。

 やつは、こちらに気づいている。

 不気味に笑みを浮かべる。

 おかっぱが、すっと、指差した。

 その先にある建物の中に、スナイパーがいた。

 タンクトップも、それに気づいた。

 タンクトップがしゃがみこんだ。


「何をしてるんです!?」

「思いっきり飛べ!俺が発射台だ!」


 タンクトップが、僕を持ち上げる。


「え?いや、発射台っていうか、これって槍投げえええ」


「うおおおおおおおおお!」


「ああああああああ」


 タンクトップが、槍投げ選手のように僕を投げた。


 最前列の人ごみを越え、仕切りをも超える。

 なんとか受け身をとり、走った。とにかく、キャリアウーマンに向かって。

 届け、間に合え。

 思いっきり、キャリアウーマンにタックルした。 

 銃声が響いた。

 キャリアウーマンは。

 無事だ。

 スナイパーのいるビルを見る。

 白髪爺が、スナイパーを取り押さえていた。


「おわりだな」


 おかっぱはそう言うと、拳銃を取り出し、僕の頭に向けた。

 観客は人形のように動かない。

 音がない。

 全てが止まっている。

 僕は、ただ憮然とおかっぱを見た。

 おかっぱの拳銃から弾が出てきて、僕の頭を貫く。そんな想像ができなかった。

 おかっぱは、僕の反応に飽きたのか、僕に向けていた拳銃を自らのこめかみに向けた。

 自殺するのか。

 僕は、考えていた。

 なぜおかっぱはスナイパーの位置を僕たちに知らせた。

 なぜおかっぱは、笑っている。

 なぜおかっぱは、バッドエンドを好む。

 なぜおかっぱは、僕と同じ顔をしている。


 他にはない物語を書きたかった。でも、考えつくのは、どれもどこかで見た物語だった。

 壊そうと思っても、壊しきれない。

 壊しすぎて、支離滅裂になる。

 物語を壊すためのキャラクターも、結局はどこかで見た何かの類似品。

 すごい物語を考える人は、いっぱいいる。

 伏線を張って、回収して。

 ここで、キャリアウーマンが死んだら。

 いや、もっと意外な展開はないかな。

 僕が死ぬのはどうだろう。

 おかっぱが死ぬのは、どうだろう。

 読んでくれた人は、驚くだろうか。

 一瞬驚くかもしれない。けど、それだけ。

 だって、意味がわからないから。

 ここで死んでも、意味がわからない。

 バッドエンドは、ハッピーエンドより難しい。

 ただ殺したって面白くないんだよ。

 死んでも、面白くないよ。お前が死んでも、僕が死んでも、キャリアウーマンが死んでも。

 とってはっつけたような、コピペみたいな物語つくって、最後にバッドエンドなんて、意外でもなんでもないんだよ。

 それにさ、なんか、知らないけど、死んでほしくないんだよ。キャリアウーマンにも、白髪爺にも、タンクトップにも、お前にも、死んでほしくないんだよ。

 ありふれた物語の、ありふれたキャラクターかもしれないけど、ハッピーエンドで終わろうよ。

 

 おかっぱは、笑った。

 そして、すうっと、消えていった。


「おい、大丈夫か?」


 タンクトップが僕を起こした。


「大丈夫です、彼女は」


「まだ洗脳が解けてねえ」


 キャリアウーマンは、茫然と立っていた。

 観客は消えていた。スナイパーも。

 タンクトップと、白髪爺と、僕と、彼女だけだった。

 僕は、キャリアウーマンの前に立った。

 目に光がない。

 地面が黒くなっていく。

 僕は、ポケットから黄色いハンカチを取り出し、キャリアウーマンに渡した。


「これを返さなければいけません。何回か汚してしまいましたが」


 キャリアウーマンは、ハンカチに少し反応を示した。

 地面に小さな渦ができていた。


「好きです。キャリアウーマンさん」


 タンクトップが、名前長くねえか、と呟いた。

 うむ。急に恥ずかしくなる。短くしよう。


「好きです、キャリー」


 キャリーの目に、光が宿った。

 しかし、言葉を発しない。

 渦が大きくなる。


「好きです。僕、太郎です。本当に、太郎っていいます」


 キャリーは、ふふふ、と笑った。


「いい名前ですね。私も、好きです。太郎さん」


 雲が晴れ、光が射す。

 渦を巻く。

 ぐるぐる廻る。


「これを、持っていてください」


 キャリーは、黄色いハンカチを僕のポケットに入れた。

 落ちていく。

 落ちたくない。


「また、会いましょう」


 キャリーが、ウインクした。

 ぽたりと、ほほに、水滴が落ちた。

 

 すとんと落ちる。

 

 浮遊する。


 ドはレモンのド、レはテレビのビ、実はパイの実、ファはフェチのフィ、壊したいけど壊せない。しかし時間が過ぎればみな同じ。ぐるぐる廻ってすとんと落ちて、浮遊して、戻ってきました、二十一世紀の日本。面白いことがあればいいなあ。なんて受け身に構えられるほど余裕はない。仕事をするのは面倒だ。人付き合いも面倒だ。かなぐり捨てて山こもる。ほど、諦観達観できません。金もほしいし名誉もほしい。すてきな女性と付き合いたい。猶予期間は終わりました。妄想やめて、働きます。ああ、いやだなあ。怒られるだろうなあ。しんどいだろうなあ。

ハッピーエンドになれば、いいのになあ。 

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