表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
time flies faaaaaa  作者: joblessman
4/6

ホラー

「は?」


 電気が眩しい。

 隣で、タンクトップを着た少年がテレビゲームをしている。


「おい、コントローラー持て」


「え、は、はい」


 コントローラーを握る自分の手が小さい。


「て、あれ?」


 慌てて体を確認する。


「なんです、小学生ですか?」


 少年タンクトップは、ゲームに集中しているのか、返事がない。 


「男の子って本当、ゲーム好きだね」


 背後から声がした。

 慌てて振り向くと、メガネをかけた女の子が本を読んでいた。ちらりと視線を僕に向けると、小さくウインクした。

 かわいい。キャリアウーマンに違いない。

 なにがなんだかわからないが、みんなの体が幼くなっている。

 ドアが開いた。

 手提げの鞄を持った、おかっぱの男の子が入ってきた。にんまりとした目、ぼてっとした唇。しみじみと不細工だなあと思う。

 キャリアウーマンが、ちらりとおかっぱを見た。

 タンクトップもおなじようにちらりとおかっぱを見て、再びゲームに集中しだした。


「ねえ、このビデオ、見ようよ」


 おかっぱが、鞄からビデオテープを取り出した。


「は、やだよ。今ゲームしてんだよ」


 タンクトップは、画面から目をそらさずに言った。


「ねえ、とっても面白い映画なんだよ。アクションも、ラブストーリーも、歴史ものも、ホラーみたいに怖いのも入ってるんだ。それにね、最後が面白いんだ。オチがね」


 壁にかかった時計の音が大きく聞こえる。

 すでに、6時を過ぎていた。


「ねえ、見ようよ。見たいよね?ねえ。ねえ、たかしくん」


 たかしくん?たかしくんってのは誰だ。タンクトップのことか。いや、彼に 「たかしくん」は、合わない気がする。それに、このおかっぱは僕の方を見て微笑んでいる。ということは、ここではおかっぱが呼ぶように、僕の名前はたかしくんなのか?

 それに、オチが面白い、とはいかに。どんなオチだ。

 気になる。


「どうするの?時間ないよ?たかしくん」


 おかっぱが、僕を誘う。 

 見たい、と言おう。


「見たくねえな」


 タンクトップが、ぼくの呼吸を遮るように言った。


「たかしくんは、見たくないんだね」


 おかっぱが、視線を僕からタンクトップの方に移して言った。


「ああ、見たくねえ」


 タンクトップが返事をすると、おかっぱは不気味に笑い出した。

 どんよりと空気が重い。

 なんだ、何が起こった。

 タンクトップは「たかしくん」という名前だったのか?

 いや、違う。違う気がする。なんとなくだが、絶対に違う。じゃあ、タンクトップの名前はなんだ。僕はタンクトップの名前がわからない。タンクトップの名前を呼ぶことができない。


「たかしくんが見たくないなら、いいよ、ビデオはまた今度で」


 おかっぱの口角が上がっている。

 時計の音が、再び大きくなる。

 それよりも大きく、心臓音が聞こえる。

 どうする。

 どうすれば。

 インターホンの音が沈黙を破った。

 キャリアウーマンは突然立ち上がると、僕を引っ張り、外へと連れ出した。


「ど、どうしたんですか?」


「もうすぐ渦に飲み込まれるわ。とにかく走って、時間稼ぎして」


 話しているそばから、床がだんだんと黒くなっていく。

 ドアを開けると、しかめっ面の少年が立っていた。

 ふと安心したのは、少年に白髪爺の面影があったからである。 


「どうしたんじゃ、もう渦ができとるぞ」


 少年の顔立ちと声で、喋り方だけが年老いているので違和感があった。


「イレギュラーよ」


 走りながら、キャリアウーマンが言う。

 やばいのう、と白髪爺がため息をついた。


「イレギュラー?どういうことです?」


 広がる渦に恐怖しながら、訊ねた。


「物語は全てハッピーエンドになるとは限らない。でも、あなたは」


「僕はバッドエンドは嫌いです」


 キャリアウーマンは、ふふ、と笑った。


「あの、あの人は」


「彼は、あいつに名前を付けられてしまった。あなたを救うために」


 広がってきた渦に足下を掬われた。

 転げる。落ちていく。


「名前は、あなたが決めるの。登場人物も、題名も、あなた自身にも。あいつに決めさせてはだめ。あなたが」


 ぐるぐる廻る。

 

 すとんと落ちる。


 浮遊する。


 荒唐無稽の鶏口牛後。四文字熟語を並べてみても、馬鹿であるこたあすぐばれる。一知半解の究極体、内弁慶でもいいじゃない。取り繕って、吐き出して、廻り回って金が欲しい。悪銭身に付きゃ一人前。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ