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チョコが欲しいんです。

作者: 楽しい一時をありがとう


「今年もこの季節がやってきたか。」

藤森康介は地方の公立高校へ通う2年生だ。成績は普通、運動神経そこそこ、ルックスぼちぼちの平均的な高校生男子である。ただ、ひょうきんな性格からか、男友達はそこそこおり、割と充実した学校生活を送っている。そんな康介が気にする・・・いや、全国の男供がそわそわする季節、そう、バレンタインデーだ。


「今年こそは女子からのチョコをもらいたい!」

と、校門前で気合を入れている康介を笑う男子はいない。なぜなら、同じ志をもつ同士だからである。

特に中学から彼のことを知っている友人は、毎年彼が放課後に一人涙を流すのを知っており、心の中で応援している。

閑話休題、康介は別に女子から嫌われている訳ではない。むしろ友人の相談にもよく乗るくらいはいい奴だ。それに、クラスのムードメーカーポジションにいるだけはあって、女子とも普通に話すし「義理くらいなら・・・」と内心思っている女子もいる。では、なぜ康介が義理チョコすらもらえないのか?


「委員長!チョコください!」

「いや、ないけど・・」


「家庭科部活の皆さん!破片でいいんでお願いします!」

「ごめんね。食材は綺麗に使い切ってしまったの。」


「いつも素敵な英語科のマドンナ百合先生!ぜひ私めにチョコを。」

「私、義理は渡さない主義なの。ごめんね。」


そう、誰彼構わずなのだ。ちょっと引くくらい必死なのだ。

当日、義理くらいなら渡してもいいかな。と思っていた幼馴染の委員長も必死さに押され、つい否定してしまうほどだからよっぽどなのだろう。だが、その彼の行動力に畏敬の念を抱かない男子はこの教室にはいない。


「くそ〜今年もダメか〜・・・ん?」

そして時間は過ぎ、放課後。タイムリミットはもうすぐだ。

諦めかけた康介はふと、教室の隅の人だかりに気づく。


「みんな何してるんだ?」

一つの机に群がるように集まった人だかりから、友人の昴が答える。


「お〜康介、毎年恒例のあれだよ。」


「恒例?・・・あ〜そうだったな。相変わらずだな優吾の奴は。」

昴の一言で康介は机の主である友人の優吾のことを思い出す。


矢島優吾。康介の保育園からの幼馴染だ。

子供の頃から料理が好きで、時たま手作りのクッキーやケーキを作っては友人に食べさせていた。

高校に進学してもその習慣は変わらず、気がむいたら色んな人に振舞っていたりする。彼の作るお菓子はなんというか「ほっとする味」がするらしく、険悪な雰囲気になったとある女子部をお菓子の差し入れで良好な状態に戻したこともあるらしい。優吾さんマジパネ〜。


基本的に気まぐれにお菓子を作る優吾だが、この日だけは毎年欠かさずクラスに手作りチョコを持ってくる。

当時はまだ逆チョコという言葉がメジャーになっていない時代だったが「優吾だからな〜」と割と簡単に受け入れられた。「逆チョコの発信源ってあいつじゃね?」と数年後の同窓会で話題に上るのだが、それはまた別の話。


「康介!今年も味見頼むよ!」

 そんなことを考えていると当人の優吾が話しかけてきた。こいつは振る舞うというよりも作ったお菓子を味見してもらう意識が強いらしく、変に気取ってない。そこがみんなに好かれるところなんだろうな・・・。


「いいぞ。今年は何作ってきたんだ?」

 去年はティラミスだったか?丁寧に人数分のカップに作って保冷庫に入れて持ってきた日には流石にみんな若干引いてたっけ。


「・・・大人のチョコ○ール?」

そう言いながら取り出したのは・・・うん、完全にチョコ○ールだ。なんだよ大人のって。


「酒とか入ってないだろうな」


「まさか〜、さすがにそこは僕も考えるよ。まあ、食べて食べて。」

だよな。こいつも流石にそれはないか。じゃあ早速いただきますか。


「むぐむぐ・・・うん!・・・うん?」

俺と一緒に食べた奴の反応は様々だ。

見た目は完全にチョコ○ール。噛んでみると、中身はいわゆるトリュフなのか、とろりとしていてチョコの優しい甘さが口いっぱいに広がる。そして、中心部にあるカリッとしたものを噛んだ途端、苦味が広がる。これはひょっとして・・・。


「優吾、これ、コーヒー豆か?」


「さすが康介。その通りだよ。というか康介、コーヒー飲めるんだね。」


「まあな」

やっぱりそうか。最近ようやく飲めるようになってきたコーヒー(無糖)の味がしたからそうだと思ったんだよな。

なお「ブラックコーヒー飲めるのってかっこいいじゃん!」という理由で頑張ったのは秘密だ。


「へえ、コーヒー豆か。だから大人のチョコ○ールなのね。でも、私にはちょっと大人の味過ぎたかもしれないわね。あれ?コーヒー豆ってこんなに簡単に噛み砕けるものなのかしら?」

そう答えたのは委員長の柚木だ。確かに割と簡単に噛めたな。


「・・・そこは企業秘密で。コーヒー味が苦手な人は普通の味のもあるからそっちも食べてみてね。」

それはもうほとんどチョコ○ールなのでは?と口にしなかった康介は少し大人になったようだ。


「だけど康介、コーヒー飲めるのね。意外と大人じゃない。」

委員長・・・俺、頑張ってよかったー!!


「そうだ矢島君、毎年もらってばかりだと悪いから、はい、市販品で悪いけど、あげるわね。」

なん、だと・・・


「委員長ありがとう!え、みんなもくれるの?ありがとう!!」

チョコをもらった優吾は満面の笑みでみんなにお礼を言っていた。

こんな奴だから好かれるんだよな〜。

それに比べて俺は・・・。


「・・・はぁ〜しょうがないわね。康介、あなたにもあげるわよ。」

委員長・・・俺、今日死ぬんじゃないのか?


「女神さ、委員長さま!本当ですか!」


「誰が女神様よ。もちろん義理だけど、それでいいならね。」


「いやったー!!!!チョコもらったぞー!!!」

康介は歓喜した。教室に響きわたるほどに高らかに雄叫びをあげ、歓喜の涙を流す。その様子を見ていた同士達も喜びの涙を流す。ああよかった。あいつが報われて本当に良かった。チョコをもらえた者、もらえなかった者、そんな垣根を超えて、皆彼を祝福した。おめでとう康介。本当におめでとう。自然に拍手が起こり、クラスが一つとなる。


「なんなのこの一体感!でも、悪くないわね。」

そして一つの机を囲んでのバレンタインデーの奇跡は、一人の男子高校生の、いや、一つのクラスの伝説として思い出に刻まれることになった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「お疲れ様です。百合先生。」


「あら、矢島君。どうしたの?授業でわからないところでもあった?」


「これ作ってきたんで、味見お願いします。」


「また作ってきてくれたの。いつもありがとう。今回は何かしら?。へ〜、見た目はチョコ○ールね。味は・・・これは!コーヒー豆?。」


「ありがとうございます。口にあったでしょうか?」


「ええ、とっても美味しいわよ。」


「良かったー!」


「ふふ、私好みの味よ。そうだ、いつも悪いから。はい、ハッピーバレンタイン。市販品で悪いけどね。」


「え!いいんですか!?ありがとうございます!」


「ええ。またお願いね。」












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